そうだ、福井に行こう!⑦
そうこうしているうちに、もう昼過ぎ。そろそろ帰り始めないと、大阪組の帰る時間がどんどん遅くなっていく。
「よぉーし、帰るぞー」
『えー』
もうそろそろ電車もくるし、駅に向かって歩き始めようかとするが、全員歩く気がなさそうで立ち止まっている。
「俺たちサンダーバードとか乗る気ないからええやん。ゆっくりして行っても。」
『そーだそーだ!』
奏が言っているが、それなれなおさらだ。使わなかったら、ここから帰るなら4時間ぐらいかかる。きいが明日実家に帰ることは先に聞いているので、もうそろそろ返さないと迷惑がかかってしまう。
「それに、課題とか出てるんちゃうんか?」
『あっ』
やっぱりか。そんな俺も課題には全く手をつけていないが。
現実を見せられた6人がとぼとぼ歩き始める。ゆっくりと、まだこの時間を噛み締めていたいかのように。
前みたいに近くに住んでいない以上、こうやって揃うのはそう簡単なことではない。だから、この時間をもっと過したい。そんなの、俺も一緒だ。
でも、必ず終わりがきてしまう。
電車に揺られて福井市内へ向かう。疲れたのか、奏と楓、音羽とカレンは肩を寄せあって寝てるし、きいも俺の肩に頭を乗せて、すやすやと寝息を立てている。
「終わりか。」
「うん。せやな。」
俺たちも言葉数は少ない。夕陽にはまだ早い陽の光が電車内を明るく照らし、俺たちを包み込んでいる。
「ふわぁ〜。」
桜が欠伸を1つ。目を擦って、そして俺の方を見て笑う。
「眠いんか?」
「ちょっとね。久しぶりに遊んだから。」
「寝るか?」
「うん。じゃあ、失礼します。」
桜もきいと同じように俺の肩に頭を乗せて目を閉じる。まだ、その甘い匂いには慣れていない。けど、落ち着く。
エンジンの音以外何も聞こえなくなった車内で、俺は1人笑う。
(楽しかったな。本当に。)
奏と楓の突発的な提案から始まった、久しぶりのこのメンバーでの集まり。ほとんどがただ歩いて喋っているだけだったけど、久しぶりに高校時代に戻れた気がする。
少しずつ意識がおぼろげになってきて、俺は意識を手放す。「楽しかったな」と呟きながら。
目を覚ますと、福井口駅だった。
「あっ、起きた。」
「ひい君が寝過ごしたらもうちょっとみんなでおれたのに。」
桜ときいはもう起きていて、俺は桜の肩の上に頭を乗せていた。そんな俺をつまんなそうに口をとんがらせながら見ているのはきいだ。他2組のカップルはまだ仲良く寝ている。
「悪かったな。起きてもうて。」
もうそろそろ降りないといけないから準備を始める。ついでに4人も起こして、荷物を持たせた。
改札を抜けてハピラインの方へ。5人はちゃんとチャージして、改札に歩いていく。その背中がやけに寂しそうで、俺は声を出した。
「またそっち行くわ。そん時遊ぼうぜ。」
そう言うと5人は振り返って笑った。
「言質とったぞ。」
「約束やからね。」
「ちゃんといつ帰るか言えよー。」
「また遊ぼうぜ。」
「またね!2人とも!」
そう言って手を振りながら階段を登っていく。その背中が見えなくなるまで俺達も手を振り続けた。