新歓でもう先輩たちは暴れ始める⑥
そのあとも1年生の自己紹介は恙無く進み、1時間も経てば場が温まってきた。
「だからここは!」
「違うだろ?ここは絶対こっちの方が描写がいい!」
文芸部のバカップル、森本先輩と木崎先輩が言い合っているのを呆れた顔で見ながら、加瀬先輩は俺の方に近づいてくる。
「どうや?楽しいか?」
「ええ、みんなオタクで高校のときにはできなかった話がいっぱいできて最高です。」
「そうか。ならよかった。」
俺の隣に腰掛けた加瀬先輩は持っているドリンクを1口飲む。一見お酒のように見えるが、ちゃんとノンアルのカクテルだ。
高校時代でも、いつものメンバーでこういう話をすることはたまにあった。けど、少しマイナーな作品になるとやはり分からないことも多くなってしまうので、そこの話は避けていた。
でもここは別だ。まだ履修していない作品だったら履修してくれようとしてくれるし、分かる作品だったらいっそう盛り上がる。俺も分からない作品のことになることもあるので、そういうときはいっぱい魅力を伝えてくれるし、楽しい。
「ここはこの描写を入れることで!」
「原作者はここの描写がいらないから、漫画の方で省いていたんじゃないか?」
まだ言い合っている2人を見ながら俺も1口。同じくノンアルのカクテルだ。
「あの2人って付き合ってるんですか?」
「あぁ、そうやで。去年ずっとじれったかったから俺がくっつけた。」
「なるほど。もしかして…」
「入学当初からあんな感じや。」
「あ〜」
そりゃあじれったい。
「てか止めないんですか?」
「今は迷惑かけてないからな。うるさくなりすぎたらさすがに止めるわ。」
ケラケラと笑いながら加瀬先輩はそう言う。
きっと色々なことがあって今のような関係になったのだろう。当たり前のようにイチャつくカップルとそれのストッパー役1人。なのになんでそんなに寂しそうな顔ができるのだろう。
「加瀬先輩は恋愛とか興味ないんですか?」
「ほっとけ。俺が選んだことだ。」
その反応で何となく分かった。この人も大概めんどくさい人だ。
「分かりますよ。木崎先輩、めちゃくちゃいい人ですもんね。」
「お前の彼女に報告すんぞ。ええんか?」
「別にいいですよ。そういうのが分からない奴ではないんで。」
そう言うと、加瀬先輩は顔を背ける。そんな姿を見て、俺は笑うことしかできなかった。