アゲてけ!②
夕方の学生会館。その中はいつもとは違う喧騒に包まれていた。
『Tonight, we honor the hero!』
ココ最近ずっと聴いているバンドのキラーチューンのイントロが流れてきて、身体が自然とノる。激しいロックサウンドが会場全体を揺らし、ライブが近づいてきているのだと感じさせる。
軽音部のライブは放課後、4時30分からのスタート。俺はこういうライブが好きだから来てみることにしたが…
「やらかした。誰か誘ったらよかった。」
同じ学科のヤツを誰も誘っていなくて、一人ぼっち。桜は今日は5限まであるので、それまでは絶対に1人だ。
1年生は続々と中に入ってきていて、会館の中は賑わいを見せている。その中にはもう軽音部に入っているヤツもいるだろう。
機材の調整が終わったのか、一瞬だけ静かになったあと、ドラムの8ビートが響き始め、内臓の方から持ち上げられるような感覚になる。そこにギター、ベースの音が重なり、会場の空気の色を変えた。
「手拍子お願いします!」
そう煽られ、頭の上で手拍子を打つ。ボーカルの歌が入り、会場の熱狂は最高潮に。音の緊張もだんだんと和らいできた。
コピバンだからか、何人か一緒に歌っている人もいる。その姿を見たときに顔が綻んで、さらに音の安定感がでてきた。
そしてサビ。全員で右手を突き上げる。身体全体でリズムを刻む人や、腕を振って刻む人。はたまた踊り始める人まで。それぞれリズムに乗ってライブ全体を盛り上げていく。
(やっぱこういうのがいいな。)
ハコの大きさに関わらず、観客と奏者、その両方でライブというものを作り上げていく。このバンドが好きとか嫌いとか、そんなのは関係ない。音を楽しむこと自体が最高に楽しい。
(でも、活動方針が違いすぎてなぁ)
ここの軽音部は基本的にコピバンだらけだ。オリバンはあることにはあるのだが、その数はやはり少ない。しかもそのどれもが作詞も作曲も両方やっていて、俺みたいな裏方のみ志望の人は入りにくい環境になってしまっている。
ひとバンド目のライブが終わって、俺は文芸部のSNSが更新されていないかの確認をする。するとついに新歓の予定が発表されていた。
「やっとかー。」
そのスクショを桜に送ると、すぐに反応が返ってくる。桜も今週の木曜日は行けるらしい。
入る部活は決まった。それじゃ、もうちょいライブを楽しむとするか。
もうすぐ始まる2番目のバンドのライブに備えて、俺はお茶を飲んだ。