アゲてけ!①
またもや月曜日。普通なら憂鬱に感じる日だが、今日はいつもよりも気分がいい。それもそのはず。今日は軽音部の呼び込みライブだ。
「なんか楽しそうやな。」
「そう?」
一応は音楽に齧ったことがある人にとって、やはり軽音というのは1番身近で1番大きな存在だ。でも、俺みたいに楽器の演奏ができない人間にとっては、手の届かないものになってしまう。だから、ライブに参加することだけでも楽しいのだ。
「軽音のライブ行くんやんな?」
「せやな。まぁ見るだけやけど。」
「文芸部の先輩来たらどーする?」
「それはそっち優先や。」
ライブが楽しみなのは確かだが、俺が本当に入りたいのは文芸部で、その先輩の情報が今日手に入ることになっている。たまたま出会った文芸部志望のヤツと友達になって、そいつが知ってる人を知っていると言うのだ。
「やっと入れるんやろ?」
「せやな。私も先輩ってどんな感じなんか楽しみやわ。」
桜は中高とどこのクラブにも入っていなかったらしい。だから、先輩というものができるのが初めてて、それが嬉しそうだ。
バスに揺られること30分ほど、大学前についたバスから降りた俺たちは、講義棟の入口まで2人で歩く。
「昼はどうする?いつものとこ?」
「そーやな。いつもんとこに集合ってことで。んじゃ、俺こっちやから。」
「うん。あとでね。」
手を振り合って別れる。すると隣からスっと誰かが視界に入ってきた。
「朝からお熱いですねぇ。」
「なんや?」
やってきたのは大本で、悪そうな笑みを浮かべている。出会ってからまだ1ヶ月ほどだが分かる。こいつがこの顔をしてるときは、だいたいろくな事が起こらない。
「まあ、俺たちって経済のヤツらに比べたら陰キャなんよな。やからさ、他学部の女子と仲良くなれたらいいなぁーって。」
「で、なんやねん。」
「合コ…」
一蹴すると、「そんなぁ」と大本が泣きついてきて、周りの人たちにめっちゃ見られる。少し恥ずかしいけど、そのまま引きずりながら教室に向かって歩いていく。
「てかな、俺が女子と喋れるってのも偏見やぞ。経済の女子なんて、桜としか喋ってないからな。」
「まず彼女がいることに謝れ。俺たちはその出会いすらないんだから。」
「それは自業自得な。」
教室に入ると「またやってる」みたいな視線を向けられる。
「何やってんの?」
「嫉妬の塊を引きずってる。」
俺のその言葉を聞いて、周りのヤツらは呆れたように頭を抱えた。