現実を見たくなくて②
「ってことがあってん。」
「それは煽りなんか惚気なんか。」
「しかも、それを久志が言うから悪いんよな。俺たちよりも授業少ない久志が。」
桜は今日は休み。俺はいつものメンバーで昼飯を食べながらそんなことを話す。2~4限まで同じ教室なので、今日は学生会館ではなく、教室だ。
「でもやっとよな。」
「何が?」
雄之助がそう漏らしたから聞いてみると、こいつ何言ってんねんみたいな顔をされる。俺なんか悪いことしたか?
「マジで気づいてないんや。にわかにお前らが別れたとかそんな話あってんで。」
「は?」
根も葉もない噂だ。俺たちは普通に一緒に暮らしているし、何なら大学に通うのも同じバス。そんな俺たちが別れた?どっからの情報や。
「最初の方は大学でも一緒やったやん。やけど、それを見んくなったって。お前の彼女、ミスコンやったらトップ取れるくらいには可愛いからな。」
「俺のなんかそんな噂聞いたことあるわ。海洋海洋から。」
「マジであそこ獣ばっかやん。まあ、そうか。そういや、最近は大学では各々のグループんとこようおるな。」
俺たちの学部、海洋生物資源学部には学科が2つあって、そのどちらも変人扱いされることが多い。その中でも度合いがあって、俺たち先端増養殖科学科はヒト科には興味がないのかと思えるほど、魚やその他の生物大好き人間の集まりだ。それに比べて海洋海洋は色恋沙汰が多いイメージがある。
思い返してみれば、最近は大学の中では桜とあまり話していなかったかもしれない。でも、そもそもあまり会わないから話しようがない。
「んで、どーすんの?もう文化祭シーズンやで。」
航生はそう言う。文化祭まではあと2週間とちょっと。もうそろそろ、そういう時期になってくる。
「まあいいんちゃう?逐次対処で。ケアはするけど。」
「うわぁぁぁ!」
「彼氏の余裕ってやつか。ムカつくなぁ。」
「黙れ、ぼっち共。」
俺は煽るようにそう言う。いや、煽ってるな。調子に乗らしたこいつらが悪い。
くだらん話は置いといて、俺は自分の時間割を見せる。
「マジか。スッカスカやん。」
「5個も空いてるとかふざけんな。」
「おい、月から水まで3限までしかないぞ、こいつ。」
「しかも、月曜3限遠隔や。釣り行けるやん。」
俺の時間割を見て、そんな文句を言う。残念だったな。ここで「釣り」って単語が出る時点で、うちの学部やなって感じやけど。
「「おい、英検の資格俺にくれ!」」
「無理や。諦めろ。」
現実を見ろ。