現実を見たくなくて①
「履修どんな感じなった?」
「それ、経済の桜から言われたら嫌味にしか聞こえんぞ。」
「ちゃうって。ただ単に気になっただけ。」
バイト終わりの夜。10月1日ということもあり、天一で晩ご飯を食べて家に帰ると、桜がPCを開きながらそう言った。
後期の履修登録はあと2週間ある。けど、早く決めるに越したことはない。俺は桜に時間割のアプリの画面を見せた。
「まあ当たり前やけど、1限は全部埋まったな。」
「oh......」
「楽なんは月火か。月曜は1限終わったら帰れるし。」
「帰れるって、そうか、日本史は遠隔か。」
「そゆこと。」
月曜は1限に解析学を取って、一コマ空いてから日本史。これは遠隔だ。火曜は前期の心理学や行動科学と同じ先生の人間関係論から始まって、ロシア語、そしてゼミと続いている。今期はゼミは憲法系のところになった。水曜は前期とあまり変わらない。
問題は木金だ。
「木曜すんごいことなってるな。」
「ほぼ全部使う頭同じやから、それがどう傾くかやな。」
木曜、明日はなんか知らんけど団体競技が必修なので、バレーボールを取っている。俺に団体行動?無理無理。2限からは情報、数学、そして統計学。数学系3連チャンだ。金曜は東南アジアを1限に取って、一コマ空いてから先端は必修の生物、最後に通年のフィールド演習となっている。実際この2コマは予定通りに行くわけがないので、あんま気にしていない。
桜は自分のPCを少し眺めてから、「あ〜」と残念そうな声を漏らす。
「どしたん?」
「久志はこの後期が終わったら小浜行くやん。」
「やな。」
俺がこっちにいれるのもあと半年もない。つまり、それからは桜とは離れて暮らすことになる。
「せっかく同じ大学進んでんし、もうちょっと一緒に授業受ける〜とか、一緒に帰る〜とかしたかってんけど、割とムズいねんなぁ。」
「学部ちゃうねんし、しゃーないやろ。」
俺がそう言うと不機嫌そうにPCの画面を見せてくる。見た感じ被ってるのは2つくらいか。
「まあ、2つ被ってるだけまだマシちゃう?」
「そう?ほんまに?寂しない?」
桜はそう聞いてくる。彼氏としての答えは何となく分かるが、それは俺の本心ではない。あのことがあって、俺たちの中には本心で話すという暗黙のルールがある。だから、そっちを言う訳にはいかない。
「別に。てか、普通に忙しすぎて考えてる暇ない。」
「あ〜、確かに。」
桜は納得したように、少し寂しそうにそう言う。少し悪いことしたなと思いながらも、次は本心とそれが合っているので言葉にする。
「まあ、昼は一緒に食べたりさ、部室で遊んだりしよーや。」
「うん!約束やで。」
桜は笑顔でそう答えた。