朝の目覚めに1杯を②
ふわっとコーヒー豆のいい香りが漂ってくる。ガリガリと豆を挽くいい音がして、その香りがいっそう強くなる。
「朝から贅沢なことしてるなぁ。」
「まあ、これぐらいええんちゃう?1週間頑張ってきてんし。」
そう。これはご褒美だ。1週間授業を受け続けた(全休はあったけど)私たちへの。でもやっぱり親元を離れて暮らすのは、似たようなことはずっとやってきたけど、お金の大切さを痛感する。だからバイトとかも考えないといけないけど、もう周りの店は夜は埋まってたりして、入れないことが多い。
「久志はバイトとかどーするん?」
「ちょっと行ったところにスイミングスクールあるからそこかな?って感じ。とりま面接待ち。」
「へぇ〜」
一緒に暮らしていても知らないこともあるものだ。私も本格的にバイト探さないとな。
「私ってさ、なんのバイト合うと思う?」
ためしに聞いてみることにした。自分が思っている以上に自分のことが理解できていないのは知ってるから、もしかしたら久志に勧められるバイトがいいかもしれない。
「なんやろなぁ。接客は割と向いてるんちゃう?」
「私人見知りやで?」
「それでも、喋れんことはないやん。誰やったっけな?入学式初日に話しかけてきたヤツは。」
久志は悪そうな笑みを浮かべてこっちを見る。たしかに、話しかけたのは私からだった。あのときは少し浮かれていたからでもあったけど、そこを掘り返されると痛い。
「ナンパされたりーとかそんなんは気にせーへんの?」
「ん〜、気にはなるけど人の目あるんやしいけるやろって。もし困ってるんやったら相談してほしいなって感じ。」
久志は思ったより軽く考えている感じだ。まあ、私もナンパとかは別に気にせず、ないものとして考えるけど。
「接客かぁ。ここら辺空いてそうなとこあるかな?」
「どーやろ?色々応募してみたら?」
「せやな。」
そうこうしているうちに、お湯は沸くわパンは焼けるわで、テキパキと用意を終わらせていく。久志はコーヒーをゆっくりとドリップしていき、私も私で食卓の準備を済ませた。スマホからは軽快なジャズを流して雰囲気もバッチリ。最高の朝だ。
「お待たせ。」
白いカップを持ってきた久志は四角い皿の上にそれをのせる。本当の喫茶店のモーニングみたいな感じの朝食だ。
久志が私の向かい側に座る。そして同じくして手を合わせた。
「「いただきます」」
まずはコーヒーから。インスタントのものよりもはるかにいい香りがするコーヒーを飲む。うん。美味しい。