土佐にっき⑤
『いただきまーす!』
目の前に並んだ鰹。そしてご飯と味噌汁。あとは漬け物。鰹節と鰹を煮込んだやつもつけて1300円。まあ、それで新鮮な鰹が食べれるならいいか。
魚屋でメジカを食べた後、俺たちは市場に戻って定食屋に入った。理由はもちろん、鰹を食べるためだ。
「うっま。あかん、大阪で食えんようなる。」
「それな。奏、そっちはどうなん?」
「やばい。新しい扉開いてもうた。」
俺以外の3人が食べているのはオーソドックスに鰹のたたき。しかし、俺が食べているのは鰹の刺身だ。3人がたたきを選ぶのは目に見えていたので、そっちは貰うことにして、俺は新鮮だからこそ味わえるものを食べることにした。結果、正解である。
噛めばうまみがジュワッと出てくるようなジューシーな身。しかしながらくどくなく、むしろあっさりしていると言うほうが妥当に思えてくる。大阪では味わえない味だ。
「そんな美味いんや。1切れちょーだいや。」
「んじゃ交換な。そっちも1切れくれ。」
「あいよ。」
海人が自分のたたきと引替えに、俺の刺身を1切れ取っていく。さあ、本場の藁焼きのたたきと対面だ。
慎重に口に運び、噛む。その瞬間、鰹のうまみと焼いているからこその香ばしさがジュワッと押し寄せてきた。やばい。これは癖になる。
「うっま。」
「こっちもやばいな。また違った味わいや。」
「そーなん?俺もちょーだい。」
晴彦も自分のと引替えに刺身を取っていく。そして「うっま。」と呟いた。
「大阪で食えんようなるやろ?」
『マジでそれ!』
今日1日で晩飯のメニューから鰹のたたきの選択肢がなくなってしまった。
食べ終わって、くれ天と呼ばれる揚げ物を食べながら車に戻る。
「次どーする?」
「まあ、戻ってもいい感じちゃう?」
「そやな。戻りながら桂浜やな。」
海人がナビをセットして、桂浜までの経路を出す。さっき通ってきた、海沿いルートが出てきた。
「んじゃ、行きますか。」
車を動かし、さっき来た道を戻っていく。
桂浜まではほぼずっと海沿いを走り続けた。
「海めっちゃキレー!」
とか、
「仁淀川?俺たちのとこ通ってんの淀川やぞ。」
「所詮第2の淀川ってことか。」
「漢字ちゃうぞーお前ら。」
とか、
「見ろ見ろ!でっかいクジラや!写真写真。」
「せやなー」
「もう遅いけど。」
「今のタイミング絶対撮れたやろ!」
とか。常に車内は大盛り上がり。やはり、このメンバーでいると小学生みたいなことで笑い合える。そして落ち着く。
「あれなんや?頭切れてるペンギンやん。」
「蛇口やな、あれは。」
「たしかに。よー見たらついてるわ。」
海岸沿いを走る真っ直ぐな道になって、奥の方に小さな山も見えてくる。そう、ここが桂浜だ。