帰ろうか、帰ろうよ⑤
本免に受かった次の日、俺は奏と会っていた。
「おひさ〜」
「久しぶり。本免どーやった?」
「受かったで〜。」
駅前の喫茶店で会って向かい合わせに席に座る。今日は珍しく俺たちだけ。カレンは予定が合わなかった。
とりあえず、お土産を手渡すことにする。
「これお土産な。寒干大根ってゆーねんけど、めっちゃ美味いから。」
「そんな美味いん?」
「うちの家の奴らで取り合いになるくらいには。」
そう話して、一昨日の俺と杏のやり合いも話す。すると、腹を抱えて笑っていた。
「大根1つにそこまでなんの?」
「そんくらい美味いねん。やから、これも。」
そう楓の分も渡す。なんで手渡されたのか分からなかったと言わんばかりに目を丸くするが、すぐに誰宛かを分かって、「ありがとう」と受け取った。
届いたコーヒーを飲みながら何気ない話を続ける。昨日、戸津井さんと船戸さんにあったこととか、ここ最近の生活のこととか。奏も小豆島後の夏休みのことを話してくれて、福井とは全く違う生活に驚いた。
「あ、そういや。」
奏はカバンの中から少し大きな青い袋を取り出した。それは懐かしいデザインのビスケット『マレービスケット』の詰め合わせで普段ここら辺ではあまり見ないようなサイズだ。
「どしたん?これ。」
「今、高知の大学行ってる幼馴染のところ遊びに行ったからそのお土産。」
「それでマレー?」
悪く言えばここら辺でも別に買えるようなもの。福井でも売ってるところには売ってるものだ。ご当地感はあまり感じない。
「あ、これな、マレー作ってんのが高知やねん。」
「そーやったんや。知らんかったわ。」
手渡してくるマレーを受け取ると、結構ずっしりと重さを感じる。桜との2人分なのだろう。ありがたい。
「高知行ってきたってことは、鰹とか食べてきたん?」
「もちろん。刺身もたたきも食べてきたで。」
「いいなぁ。あ、どこ行ったとか教えてーや。」
「ええよ。でも、ちょっと長くなるで。」
「それくらいは時間あるから。」
そう言うと、嬉しそうに奏は笑ってコーヒーを飲む。そして話し始めた。