さあ、始めるか④
「お疲れ〜」
「お疲れ様〜。来てくれてありがとうね。」
教習所から帰ってきて直ぐに向かったのは鳥羽ニキの家。今日はここで魚を捌いているらしい。が、玄関先に並んでいる靴は明らかに少ないし、声も聞こえてこない。ということは……
「ずっと1人で捌いてたから、もう死ぬかと思ってたわ。」
「まさかやけど誰も来てへんの?」
今、この部屋にいるのは鳥羽ニキと俺だけ。捌くという話を出した蒼空もいない。そして、調理班も誰一人としていない。買い出し班の鳥羽ニキとSNS班の俺だけがいる。
「そうなんだよね。みんな地元帰ってて、福井にはほぼ誰もいない感じ。」
「あー。確かに最近そんな投稿ばっか見るわ。」
荷物を置いて、新聞紙にくるんだ小出刃包丁と料理ばさみを取り出す。見た感じ俺ができそうなことは、カナガシラの内臓を取りだして、背びれとかを取ることか。
手を洗って包丁を持ち、肛門に刃先を入れて腹を開く。内臓はまあそこまで多くないし、揚がったばかりだからか、綺麗だ。指で簡単に取れたので、それをゴミ箱の中に入れてヒレを落としていく。
「こんな感じでいい?」
「うん。出来上がったらそこの中入れて。」
流しで作業をしている俺の右には、もう内蔵を出しているカナガシラが入ったタッパーがあり、そこにギチギチに詰めていく。作業を始めてからどうやら50匹捌いているらしい。頭がおかしくなりそうな量だ。
カナガシラが終わったら、次はゲンゲが始まる。ゲンゲは表面が多少ヌメっていて、まずはそれをとるところから。だけど……
「ヌメリってさ、塩やんな?」
「まあ、基本的にはな。」
「ん〜、そんな量がないから流水でできる所まで取って欲しい。」
「おけ。」
塩を使わずに流水でヌメりをとることに。あとから2回目をする必要がありそうだ。
「俺はこのカナガシラを冷凍庫に運んでくるから、ヌメリとれたらもう捌いちゃって。」
「あいよ。」
そう言って鳥羽ニキは部屋を出ていく。俺は1匹ずつゲンゲを取り出してヌメりを取っていくが、すぐに流しはいっぱいになった。
「こいつら何食べたらこんな腹デカなんねん。」
そう思うほどに膨張している腹を開く。するとドロンと内蔵が出てきた。胃袋の中にはまだ小魚が入っているのが見える。
小出刃で数回に分けて刃を入れ、頭を落とす。これで1匹完成……という訳にはいかない。内蔵を外したら見えた血合いを取っていく。これも規格外のサイズだ。
「ただいま」
「おかえり。ヌメりはある程度取れたで。」
「あざす。」
さあ、後半戦だ。