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100話記念SS③ ホンモノを探して

「ありがとうございましたー。」


お客さんを見送ったあと、フッと息を吐き、汗を拭う。バイトやるならやはり飲食系かなと思ってやり始めたファミレスのバイト。夏休みのこの期間中は、地元に帰ったりするバイトメンバーも多くて、ずっとシフトに入っている。


「御浜くん、休憩入っていいよー。」

「はい。ありがとうございます。」


店長さんにそう言われて、裏に下がる。第1ボタンと手首のボタンを外して、椅子に座った。


 あの女と別れてからもう1年半。忘れたはずなのに、女子というものがあれに支配されている感じがまだ残っているけど、大学生活の中で少しずつ薄れつつある。そしてこのバイトで人と関わっていくことで、ホンモノを見つけつつある。


「おー、だらけてるなぁ。」

「お疲れ、笠鷺。って、お前もやんけ。」

「まあねー。」


笠鷺妃依ひより。茶髪ツインテでギャルっぽく見えるが、中身は大学デビューしようとした陰キャ。同じ学部の同じ学科で、前期にちょっとしたことがあって仲良くなった。バイト先が同じになったのもたまたまだ。


 鼻歌を歌いながらスマホを触る笠鷺。それを横目に見ながら俺は水を飲む。


「何?私の顔になんかついてる?」

「いや。俺はなんでお前みたいなタイプの奴と仲良くなれたんかなって、不思議に思ってただけ。」

「あーね。それは私がクソド陰キャのコミュ障やからちゃう?」

「その見た目でなw」


笠鷺は俺の前では陰キャのところを主張してくる。他の奴の前では仮面を被ったまんま、コミュ力高めの女子大学生を演じているが、そういう日はバイト中にたまに吐き出している感じがする。


「そんなん言うんやったらさ、御浜もちゃう?一見陽キャ。」

「まあ、色々あったからな。」

「あー、色々ね。」


笠鷺にはあのことは話していない。けど、聞いてこないあたり、分かってくれているのだろう。だから、ずっとある一定の距離は保ってくれている。そういう所は、こいつが人に好かれる要素なんだろうなと思う。


「後期はどーするん?シフトは変えへん感じにする?」

「まあそうかな。せっかくこの時間帯の人と仲良くなってきてんねんし、この縁はあんま切りたくないかも。」

「せやなー。私もそういう方向で調整しよっかなー。」

「合わせんなよ。」

「そうやないと御浜が孤立しそうやし。」


そう言って笑う笠鷺。「お前もやろ」という言葉は飲み込んで、俺は席を立った。


「もう行くん?」

「俺はもうそろそろ休憩ええかなって。」


扉を開けて、また喧騒の中に。


 笠鷺との関係はただの友人なんだろう。だからこそ、ここでホンモノを見つけて、新しい1歩を踏み出したい。

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