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第三話 妖の後始末

 ゆっくりと襖を開くとクサナギが縁側に足を垂らしていた。彼はこちらに振り返って微笑んだ。


「……よぉ」


 昨夜とは別人のような雰囲気にミコトは少し驚いた。あのときは笑顔ではあったものの眼の奥が真っ黒に染まっているみたいだったからだ。打って変わって今はどちらかというと穏やかというか爽やかというか、とにかく親しみやすささえ感じられる。


「昨夜ぶり……ですね。すみません、寝てるところ起こしてしまって」


「いや、いい」


 相変わらず見た目の若さと不釣り合いな大量の白髪。それに昨夜は包帯で巻かれていた左眼に黒地の眼帯がつけられている。ミコトがぼうっと眺めているとクサナギは甲板を叩いて隣に誘う。


「ま、座れよ」


「あっ、はい。失礼します」


 かこんと鹿威しの竹の音だけが木霊する。───ミコトは予め二人っきりにするようにヤマトに頼んでいた。だが、彼は後悔したことだろう。いざ話を切り出すとなると何となく緊張して重い口を開くことが出来なくなってしまったのだ。


うう、どうしよう何から話せば……


「……」


 鹿威しの音も数回響いた頃、見かねたクサナギが口を開く。


「昨日は悪かったな」


「いやいや、こちらこそ。色々と失礼なことを……」


「ヤマトから聞いたぞ。何やら話があるんだってな」


 ミコトは目線を逸らした。


「い、いやまあ……」


「どうした?」


「いや、自分なんかがこんなこと……出過ぎた真似じゃないかなって」


「ふはっ、今更そんな事気にすんのかよ。ここに立ってるってことは少なくとも一度は覚悟決めたんだろ?覚悟したことはきっと正しい。もっと胸張れ」


 クサナギは笑顔で背中を叩いた。ミコトは意志を固める。いや、固めた意志に自信を持ってもう一度覚悟を決めた。今度は考えを伝える覚悟である。

 そうだ、俺は……


「単刀直入に言います。俺を月華団に入団させてください!」


「へぇ、こりゃまた。どうしてだ?ヤマトに聞いてんだろ?うちで保護してやると。何故わざわざ危険な橋を渡ろうとする?やつらに捕まるリスクだってあるんだぞ?」


 クサナギは身を乗り出して質問を繰り返す。だがミコトを否定したい訳では無いのだ。むしろ、彼の提案には非常に興味が湧いたのだろう。その証拠にその目はじっと彼を捉えていた。


「俺は、罪滅ぼしがしたい。してもしきれないと思うけど、それでも何もしないよりかは断然マシだから」


「そうか、それじゃあ、何故それをヤマトではなく俺に言ったんだ?」


「えっ」


 正直な所、()()()()()という思いが強かったミコトにとって言葉で言い表すのは困難だった。指摘されて初めて自身の行動の不可解さに気づいたのだ。許しをもらうため?それとも決意の証明をしたかったから?いやどれでもないような。


「直感……です」


───それが何なのか考えてもこれしか答えが出なかった。だが瞬間、クサナギは大きく手を叩いた。


「そうか、おもしろい。俺も好きだぜその言葉。直感を信じられるやつは強いやつだ」





※※※※※





───数日後、大広間にて月下団の面々が集結していた。



「我々は先日オロチによる襲撃を受け、団長や各隊長を失いほとんど壊滅状態まで追い込まれた」


 団員たちは神妙な顔でヤマトを見つめ、静かに話を聞いていた。


「だがしかし!我々は元凶であるオロチの討伐に成功した!これは月華団結成よりきっての快挙だ。それだけじゃない、我々は新たな戦力を加え新体制で(やつら)の後始末に望む。よって、これより月華団隊長任命式、そして月華団入団式を執り行う!」


 ヤマトがそう叫ぶと拍手喝采が巻き起こった。ヤマトは周囲が静かになるまで待つと続ける。


「医療隊新隊長シオン!前に来い!」


「はいっ!」


 つり目の女性がその場に立ち、ヤマトの元へ向かう。


「彼女は薬の知識もさることながら、オロチ襲撃時での避難誘導など、状況判断能力と周囲への指示能力にに優れている。彼女なら前隊長チヅルの意志を継いでくれるだろう」


「光栄です」


 拍手が収まるのを確認して続ける。


「調査隊新隊長ジン!」

「はっ」


 すると、ヤマトの目の前に口元を隠した男が現れる。


「元隊長の俺はこのとおりピンピンしているが、討伐隊へ移動するため変更となった。だがしかし、ジンは調査隊の実力で見れば俺より優秀だ。活躍を願っているぞ」


「いえいえご謙遜を。自分などまだまだです」


 拍手が止んだところでヤマトはちらっと前を見てはため息をつく。彼はたいそう頭を抱えた事だろう。周囲の団員たちも彼の心中を察して(うつむ)いていた。


「そして、討伐隊新隊長なんだが……」


 しんと静まり返った大広間で微かにいびきが響く。そう、その主はクサナギである。呑気なことに大事な集会でただ一人、ぐーすか爆睡していたのだ。


「おい、クサナギ!起きないか!」


 この空気の中で寝る度胸、それだけは褒め称えたい。ヤマトにはワナワナとした怒りが込み上げてきていた。


「まあまあ、昨日までほとんど寝ず食わずでオロチを監視していたんですから」


 シオンが慌ててフォローに入る。


「一人でしろなんて指示してないんだがな」


「ううん、まあ確かに……」


「……仕方ない」


 ヤマトは彼の両腕を引っ張って無理矢理前方へ連れていった。そして椅子に座らせる。大きな咳払いをして話を戻した。


「彼はオロチ襲撃で唯一生き残った討伐隊だ。その実力は前隊長マサムネに匹敵……いやむしろ彼より秀でた部分すらある。それに今回のオロチ討伐にも大きく貢献してくれた。クサナギが隊長になったとしても文句を言うやつは誰もいないだろう」


 ふと下を向くとクサナギの耳が赤くなっていた。「お前、途中から起きていたな」と突っ込んでやりたかったが、話が脱線するといけないので我慢する。


「……それでは入団、入隊式に移る!まずはユウガ、カスミ前に」


 すると赤髪のツノの生えた少年と青髪の少女が奥の方で立ち上がり歩きだす。


「この二人は妖怪でありながら我々と共にオロチと戦ってくれた。よって俺の方から入団を提案したというわけだ。それでは二人とも、自己紹介から頼む」


 すると赤髪の少年がどんと片足を前に突き出し、自信満々に口を開く。


「オレは赤鬼のユウ……」


「こいつは赤鬼のユウガ。見ての通りアホなんで、皆さん相手にする事ないですよ」


 青髪の少女が少年の声を遮って淡々と話す。ユウガはぽかんとした表情で彼女を見つめた。


「私は雪女のカスミ。皆さんの力になれるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いします」


 すました顔でお辞儀をする彼女にユウガは叫ぶ。


「こんっ……の高飛車女が!だから嫌なんだよお前なんかと組むのは!」


 するとカスミも顔色を変えて怒りだす。


「はぁっ!?はァァ!!?私がいなきゃあんた今頃殺されてたのよ!?どの口叩いてんのよこのバァァカ!」


「お前バカって言ったな!?知ってるか?それ言ってる奴がバカなんだぜ」


「反論からしていかにもバカって感じ。やになっちゃうわ」


「ハァァァ!?なんっだそれ!」


─────喧嘩両成敗。ヤマトはヒートアップしてゆく二人の頭を拳で殴った。


「仲良く……な?」


「「はい……」」


 微笑んではいたが目が笑っていない。二人は萎縮してその場に正座した。


「まったく、次に進まないじゃないか。───それでは……皆も先程から気になってるとは思うが、ミコト」


「はっ、はい!」


 ミコトが立ち上がると周囲がザワつく。頭から生えた巨大なツノに黒髪の短髪、赤い瞳。その姿はまさしく妖怪の王オロチ。そこにいる全員はその容姿を忘れる事は一生ないだろう。


 すると、調査隊の一人が立ち上がって指をさす。


「なっ!や、ヤマトさん本気ですか!?こいつは俺たちの仲間をっ!」


 すかさずジンが止めに入る。


「おい、座れ!貴様……ヤマトさんや幹部の方々の決定に難癖つける気か?」


「いいんだジン」


「ですが……」


 ヤマトは首を振る。


「聞いてくれ!俺は皆に批判されることは承知でこの決断を下した!」


 全員の視線がヤマトに集まる。口にしないまでも、その決定に不信感を持つ者は多かった。ヤマトを庇ったジンでさえそのひとりなのだ。


「彼の名はミコト、オロチではない。むしろ彼はオロチに身体を乗っ取られ操られた被害者だ。皆の中にはだからどうしたと思う者もいるだろう。確かに彼を今、中のオロチごと殺してしまえばやつが復活する危険性が無くなるからな」


「だったら!」


「だが、忘れたのか?俺たちは月華団!妖怪に利用されて、路頭に迷う少年の足元を照らす。それが俺たち本来の目的だろう!」


 辺りはしんと静まり返った。


「なにも納得を強制する訳じゃあない。不信感を持つのだって正しい意見だ。それではミコト、自己紹介を」


「はい!」


 ミコトは大きく深呼吸する。


「ミコトです。皆さんが俺の事をよく思っていないのは分かります。だって俺は沢山の人を傷つけたから。でも俺は死んで責任から逃れるなんてしたくない。どうせなら誰かを助けて一生責任を償っていきたいんです。だから俺を月華団に入れて下さい!お願いします!」


 ミコトは深々とお辞儀する。簡単には受け入れて貰えないかもしれない、でも─────


 するとクサナギが手を叩き始める。それが周囲に連なり、やがて大きなものとなってゆく。ミコトは深々と頭を下げた。




※※※※※




─────同時刻、山奥のとある洞窟にて。


「おそらくオロチは敵の下へ渡っただろう。オロチを捕縛し俺に差し出せ。必ずだ」


 面布で顔を隠した男、ヒゾウは天井を見上げた。もちろん洞窟なのだから視界に入るのは苔むした岩々、そして滴る泥水、強いて言うなら氷柱のように尖った鍾乳石の数本程度であろうか。……彼だって、そんなものに話しかけているわけではない。カサカサと天井を這う音が微かにすると巨大な蜘蛛がその全貌を顕にした。


「はっ、()()()様に仕えられて光栄です。必ずやオロチを……」


「ああ、期待しているぞ」


 そう言い残して彼は洞窟をあとにする。洞窟の出口には、グレーと黒の入り混じった髪に黄金のツノを持つ黒鬼のラクモンが壁にもたれかかって笑いを堪えていた。


「ぷっ、くくくっ!なんだよ今のザマは!かんっぜんに舐められてたじゃねえかっ!ははははっ!」


「俺だってそこまで顔が広いわけじゃあない。実力を疑うのは当然のことさ」


「そもそもよお、あんな雑魚役に立つのか?」


「分かってないなラクモン。適材適所、あんな雑魚だからいいのさ」


 ラクモンは少し考えたが彼の発言の意味がよくわからなかった。


「ふぅん、ま、いいや。とにかく俺は強えやつと殺し合いがしたいだけだからさっ!」


 瞬間、ラクモンがヒゾウの背後の樹木を殴った。樹木にはやがて亀裂が入り、ヒゾウ目掛けて倒れてくる。ヒゾウは鞘から刀を取り出し、一瞬にして木を真っ二つにする。その断面は真っ黒に焦げて煙が上がっていた。


「ひゅー、やるぅ」


 ラクモンがニッコリと笑う。


「おいおい、仲良くしようぜ?仲間なんだからさ」


「何言ってんだよただのじゃれ合いだっつーのに。ま、あまりにもテメエの計画ってやつが遅かったらもしかするかもしれないがな!はははは」


「……そうだったな。安心しなよ、もう少しだ。(おれたち)の後始末は」


 白髮が大量に混じった黒髪が風になびいた。

おまたせしました!今回はミコトが月華団に入団する流れを描くとともに、今後の敵キャラが出てきたりタイトル回収したりしました!次回もお楽しみに!


感想お待ちしております!

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