表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第一話 拷問

「……こと、ミコト、ねえ起きて!ねえってば!」


 誰かが呼んでいる。どこか懐かしい声にミコトは必死に手を伸ばす。


「姉ちゃ……」


「ねぇ、……ぇ、ミ……ト」


「待って!俺はここにいるよっ!」


 しかし声は遠のくばかりで─────




※※※※※




「……起きろ」


「っ!」


 ミコトはハッとして(まぶた)を大きく開いた。そして辺りを見回す。


……ここはどこなんだ


 明かり一つない暗がりだったが、目を凝らせば見えないこともない。ザラザラとした床、何かの模様が描かれた(ふすま)。どこかの家であろうか。しかし全く見覚えのない場所である。


 瞬間、部屋中に月明かりが差し込んだ。すると目の前には男が一人、胡座(あぐら)をかいて座っていたのだ。男はポカンと口を開けたまま、こちらをじっと眺めていた。


……この人は誰なんだ


 やがて男はゆっくりと立ち上がり、頭を下げて震えだした。そしてふらりふらりと、今にも倒れそうな姿勢で足を進める。


「はっ、ははっ、はははっ!やっと起きたか、()()()


 ミコトはゾッとした。半面が包帯でぐるぐる巻きになっている男の顔には、この世のものとは思えないほどの狂気的な笑みが貼り付けられていたのだ。


オロチってなんの事だ。もしかして俺のことか……?


 ミコトはとりあえず何か伝えねばと声を出そうとしたが詰まって出ない。いや、縄の猿轡(さるぐつわ)を付けられているのだ。よく見れば手足も椅子に縛られてビクともしない。


 な、なんだこれ。いったい何が


 だがしかしそれでも必死に伝える他ない。ミコトは必死にもがいた。


「なんだぁ?そんなに暴れてよ。今更逃げられねぇっつーのに」


「む゛ーっ!む゛ーっ!」


 男はハッとして手を叩いた。


「あ、あーっ!ははっ、俺って馬鹿だなぁ。このままじゃあ喋れないじゃないか」


 ミコトは大きく頷き、目を輝かせた。


 よかった、これでようやく身の潔白を主張できる。この人、何か勘違いしてるみたいだし


「そうかそうか、確かにこのままじゃ─────」


 男の笑みが消えた。


「拷問にならないもんな」


 ごう……もん……?


 考える間もなく男はさらさらっと猿轡を解いた。そしてゆっくりと椅子の外周を歩きながら口を開く。


「さてと、何から聞くんだっけ……ああそうだ」


 男はミコトの太ももにズンっと足を乗せた。じわじわとかかる重圧に思わず目を細める。


「お前の手下の居場所を話してもらおうか、オロチ。まだまだ残党がいるんだろう?」


 いったい何を言っているのだろうかこの男は。聞いたことも無い単語ばかり並べられてもなんの事か分かるはずがないだろう。勘違いでこんな仕打ちを受けているのだとしたら納得できない。


 ─────だんだんと怒りが湧いてきた。


 ミコトは声を荒らげて言い放つ。


「さ、さっきから何なんですか!オロチだとか手下だとか!そんなもの俺は知らないし、ここで縛られる筋合いだってさらさら無いはずでしょう?変なことに俺を巻き込まないでくださいよっ!」


 男は一瞬キョトンとして斜め上の天井を見上げる。暫く考え込んだ後、身体を震わせて笑いだした。


「はははっ!あっはははははははっ!!!」


「な、何がそんなにおかしいんですか!?こっちは本気でっ!」


「いやあ、お前があまりにも意味わかんねぇこと言ってるから……さっ!」


「ぐあぁっ!」


 男が笑い涙を拭くと、そのまま脚の骨を踏み折った。初めての感覚に悶えるミコト。


「聞こえなかったか?言ったはずだぜ。これは拷問だってな」


「な、なにを!俺は本当に知らないのに!」


「っ!!あれだけのっ!あれだけの被害を出した張本人が知らないだと!?よくそんなこと言えたもんだな!たっくさん人を殺して、殺して!殺しまくったやつが!知らないの一言で許されるなんて、そんな……そんなクソみてぇな事あってたまるかよっ!!はははははっ!」


 男は椅子を蹴り飛ばし、馬乗りになりなりながらミコトを何度も何度も殴り続けた。顔面は酷く腫れ上がり、口から鼻からダラダラと血が止まらない。


「あ、あ、あ……」


 ─────痛み。その一言では到底表せないような苦しみがミコトを襲う。少しでも気を抜くと悶絶(もんぜつ)してしまいそうだ。


「おっといけねえ、また意識が飛んじまったら全部パーだ。おーい、起きてっか?」


 男はミコトの頬を軽く叩いた。意識こそあったものの目の焦点があっておらず、朦朧(もうろう)としている。だが、これは男にとっても好都合。こういう時こそ無意識になんでも話してしまうものだからだ。


「もう一度聞くぞ?お前の手下はどこにいる」


「わ、分かりま……せん」


「そうか、ところでお前、右と左どっちがいい?」


「え?どういう」


「……まあいいかどっちでも」


「何を……がぁぁぁっ!」


 ミコトの左目を捻り潰す。


「これで俺とお揃いだ。良かったな。んで、どこなんだ?お前の手下は」


「はぁっ!はぁっ!わかっ、りません……い゛っ!」


 右腕を折る。涙が傷口に染みて痛みが止まらない。いっそ死んでしまった方が楽だと思えるほどに。


「なあ、吐かねえなら本当にこのまま殺しちまうぞ」


 俺はこんな所で訳も分からず死ぬのか……?─────そんなの絶対に嫌だ!


 ミコトは身体の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。


「……なぁ、いい加減に話せよ。じゃなきゃ俺たちの戦いはまだ終わんねぇんだ」


ボウッ。


 瞬間、喉奥が紅に輝き、ミコトは口から燃え盛る炎を吐き出した。全身を炎が包み込み、縄を焼き尽くす。


「っ!」


 男は跳ね上がって後ろに下がる。


「ゴホッゴホッ!」


なんっだこれ……喉が焼ける……!


「本性を現しやがったな、オロチ!」


 目を見開いて叫ぶ。男は鞘から刀を引き抜き、煙幕の中からミコトに斬りかかった。


「うっ!」


 ミコトは反射的に後ろに転がって避けた。この時、ミコトはあることに気づく。折られたはずの脚が既に回復していたのだ。人間としての(ことわり)から外れたこの身体にミコトは困惑した。


 まさか、本当に俺はこの人の言うオロチってやつなのか……?─────だったら尚更、


「これで証明されたみたいだな。お前はやはり、この世に存在しちゃいけない化け物だ。」


「オロチは……俺はいったい何をしたんですか」


 ミコトは問いかける。


「……てめえ、さっきから何ふざけてんだ」


「俺は、俺が何者かを知りたい!知らなきゃ死にきれない!せめてちゃんと罪を償ってから死にたいんだ!」


 男は少したじろいだが、刀を向けて反論する。


「そんなの、ただのてめぇの都合じゃねえか!」


「そうですよ!こっちだって生きるのに必死なんです!でもあなただって、こんな奴を殺して満足するんですか?こんなただの木偶(でく)(ぼう)を」


「……」


「そのオロチってやつがもがき苦しむ姿を見たくはないんですか!?」


 男は白髪(しらが)の入り交じった髪を掻きむしる。その顔には一線の涙が頬を伝っていた。


「あああッ!俺にどうしろってんだよ!」


「俺を信じないならどうぞ殺してください。でももしあなたが俺の話を聞いてくれると言うのなら……」


「……」


 男は、目の前の少年が宿敵オロチではないと無意識のうちに感じ始めていた。誇り高く冷酷なやつは他人に身を任せるような真似はしない。嘘だとしても敵にへりくだるような性格ではなかったからだ。


 ─────男は葛藤した。ここでこの因縁に終止符を打つか、少年の言葉を信じるか……沈黙の末、男は決断する。


「……じゃあ死ね。仲間の仇を取らせてもらう」


「分かりました」


 男はもう何も考えたくなかった。ここで終わりにしたかった。少年を殺せば楽になれる、そう思ったのだ。


 ミコトは大きく手を広げて直立する。彼も覚悟を決めた。男は首を狙って大きく刀を振り下ろした。しかし─────


「やめろッ!クサナギ!」


「っ!」


 勢いよく襖が開き、声がする。クサナギはハッと我に返るとその体制を崩す。振るった刀は大きくずれ、ミコトの首ではなく腕を切り落とした。

簡単に言うと、ラスボスを倒した後を描いたお話です。オロチは前作ラスボス、クサナギ(拷問をした男)は前作主人公といった所でしょうか。


世界観の設定などは第二話からどんどん明らかになっていく予定です。是非お楽しみに〜



私は小説に触れ始めてほんの少ししか経っておらず、至らない点も多いかと思われます。なので指摘やアドバイスをしてくださると大変助かります。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ