雪の日常
私には、誰にも言えない秘密があるの。それは、お兄ちゃんのシスコンより、私が重度のブラコンなこと。世間的にもキモいから、私だけのヒミツ。
お兄ちゃんは今まで会った男の子の中で、一番男らしいし、強いし、カッコ悪くはない。恋人同士に見られたら、ちょっとだけ、ちょっとだけ嬉しかったりする。
世界一のお兄ちゃんなんだ。そんなコト言ったら泣いて喜ぶんだろうけど、ずっと先の結婚式あたりにとっとこうかな。
私が屋根から落ちた時のこと、よく覚えてないんだ。お兄ちゃんが暴れたのはびっくりした。光ちゃんも殴られっぱなしで、怖かったのが私が止めても意味が無かったコト。
アノヒから頭痛もちになって、でも心配かけたくないから黙ってた。光ちゃんとお兄ちゃんはずっと親友だと思ったのに、私のせいで、私が瓦から滑ったせいで、今もまだ二人には見えない壁がある。
光ちゃんはわざとだったって私に言ったけど、私は足が滑っただけだった。私が説得しようとしても、お兄ちゃんは辛そうに唇を噛みしめるんだ。
華さんと付き合いだして、少しずつ本来のお兄ちゃんらしくなった。だけど、時々お兄ちゃんが元カノの写真見てぼうっとしてるの知ってる。光ちゃんが言うには、お洋服屋で元カノと会ったとか。
私は今から、お兄ちゃんの部屋に侵入します。お兄ちゃんは今お風呂に入ってるから、チャンスなの。
私はお兄ちゃんの部屋にこっそり入って、勉強机の二段目の引き出しを開けた。
「あれー?確かここに…。」
「なーにしてんの?」
気配もなく光ちゃんが後ろにいた。
「はー。光ちゃんで良かったぁ。今からお兄ちゃんの元カノの写真を」
「ダメだよ!少しずつ処分してるみたいだし…ね?」
光ちゃんの指差す方を見たら、ゴミ箱に写真のらしきモノが丸まって入ってた。ほっとしたいのに、ちょっと心が痛む。
「雪なんで泣きそうなんだよ。」
「目にゴミが入ったの!光ちゃんはお兄ちゃんの事なーんでも知ってるよね。」
「ゴミならとってあげるよ。じっとして?」光ちゃんまた茶化した。ゴミなんてないけど、じっとするしかないよね。
「雪は相変わらず目ぇデカイなぁ。ゴミなんてないけど?」
私たちはただの幼なじみだから、至近距離でも恋は芽生えない。
「気のせいかも。それより光ちゃん、いつもお兄ちゃんのパソコンで何か打ってるよね。」
「さすがにバレた?コレは僕のメッセージ。今はまだ内緒ね。」
光ちゃんがお兄ちゃんのパソコンを、カチッとクリックすると、長々と文が書いてあった。その前の暗証番号めっちゃ長かったんですけど。
「へぇ。タイピング速いよねぇ。」
なんとなく内容は読まなかった。お兄ちゃんへのメッセージだし。
「じゃ、私隣にいるからねー。」
「んー。」
光ちゃんは集中力が凄い。集中してると返事が「んー」とか「へぇ」とか、ともかく腑抜けになるんだよ。
私は背伸びをしながら出口へ振り返った。その先にはお兄ちゃんが仁王立ちしていて、冷や汗が流れた。
「あれ?ここは雪の部屋だっけ。光もいつもいつもいつも、なんでいんだよ。」
不自然な笑いがお兄ちゃんの怖さを表現している。
「不法侵入って分かる?」
「なによ!お兄ちゃんが鍵かけないから悪いんでしょ?」
「なんだと?めんどくせぇだろ。うら!」
お兄ちゃんに両頬を摘ままれて、言葉にならない。
「カラスの行水だね。ちゃんと洗った?」
「光、またエロサイト見てたのかよ。へぇ、よくやった!」
今度は私のほっぺたを放して、光ちゃんの方に行った。光ちゃんはエロサイト見に来てただけじゃないんだね。パソコンにメッセージ残すって遺言みた…って失礼なこと考えちゃった。
「この娘どうっスかお兄さん!」
「ふむ。その娘もいいが、コッチの娘がいいかな。」
「さすがお目が高い!」
怪しい会話してる。ついていけない。リビングで、おやつでも食べよう。
「雪、飲みモノ持って来て。」
「分かった。」
よし。エロい二人には、ポン酢を薄めたやつ持って来よう。
5分後、幹也と光が飲みモノを吹き出したのは言うまでもなかった。
「目は覚めた?」
「水!」
二人はリビングへと駆け込んだ。
普通匂いで気づくのに、視覚ばっかが働いて嗅覚が鈍ったんだろうね。イタズラって楽しい!
しかし、十分後冷蔵庫を開けた私は叫んでいた。
「私のかぼちゃプリンがないー!!」
ウチでかぼちゃプリン食べるのは私しかいないはず。あと、3個あったのに!冷蔵庫からポン酢出してなおした時まであった。
私は、お兄ちゃんの部屋に、勢い良くドアをあけて駆け込んだ。
「私のプリン!」
光ちゃんとお兄ちゃんは、私のプリンを食べながらアクション映画を見ていた。
「さっきポン酢ジュース飲んだら、甘いモン欲しくなったんだよ。なぁ。光ー。」
「意外と美味しいね。スナック菓子も欲しくなってきたなぁ。雪?」
コレは二人とも根に持ってるなぁ。光ちゃんの場合、『僕があんな稚拙な罠にはまるなんて』って顔に出てる。プライド高いからね。お兄ちゃんは、してやったみたいな。
「…かしこまりました。お飲みモノは?」
アクション映画の音が部屋に響く。
「よしよし。そう怒るなよ。雪がその口調の時はいい思い出がねぇからな。」
「今日は、僕がお勉強を教えてあげるよ。」
「光…。俺ちょっとコンビニ行ってくるわ。」
お兄ちゃんは逃げた。私と雪ちゃんのバトルは変わってる。なぜか、お勉強しながらキレあう。
私の部屋にて。
「だから、この公式使えば分かんだろ?プリンバカ。」
「光ちゃん全然説明して、くれてないじゃん!指差して『これ』とか『それ』とか分かんないし。ムッツリスケベ!」
「あぁ?プリンで脳みそまでふやけてんのか!この、ペチャパイ!」
「もうペチャパイじゃないもん!少しずつ成長してんの。光ちゃんだっていつまでも、声高いままじゃん!」
「ふーん。ま、興味ないけど。僕はこの美声だから、この顔に合うんだよ。天使と言われるのは、この美声あってのことなんだよ。」
「このナルシスト!」
「上等だね。ペチャリスト。」
「おっぱいフェチ!」
そしてお兄ちゃんが、帰ってくる。
「お前ら、幼稚園の頃から変わってねぇな。悪口かなり低レベル。つか、何で勉強から入るかな。」
フンッと私たちは顔を背ける。本音を言うのはスッキリする。光ちゃんは私以外とは、滅多に口喧嘩しないからアルイミ特別な幼なじみ。ただの喧嘩友達ナンだけどね。
「コンビニで『雪にコレ渡して欲しい』って、長身のいかにもスポーツマンな男に渡された。」
お兄ちゃんから渡されたのは、花柄の小さな袋。
「行くなよ。」
「光ちゃん。うん。行かないよ。」
「あのー。俺話についていけないんですけど。」
「ただの先輩だよ。」
その袋の中には、手作りの指輪が入っている。開けなくても分かる。光ちゃんには相談してた。この指輪は『さよなら』ってことなの。
私がお兄ちゃんの事で悩んでいた時、行くだけで癒されるアクセサリーショップがあった。そこでアルバイトの男の人とよく話すようになって、私はお金が無くて買えないのに色んな事を教えてくれた。
光ちゃんに相談したら、『男なんて下心の塊だ。』って、心配してくれた。つまり、『あんまり会いに行ったら誤解されるよ。』って言いたいみたい。
でも、会いたいのかアクセサリーを見たいのか分かんなくて、その時友達だった樹くんとお店に行ったの。明らかに年上の男の人と、毎日会える樹くん。比べたかった訳じゃないけど、夢と現実は違うって実感した。
結局、恋にまでは発展しなかったけど。さよならの代わりに、アクセサリーをくれるって言ってくれた。指輪なんてまだ欲しくないけど、私が食い入る様に見ていたシルバーのハートがついたリング。
『まだまだ、下手だけど俺が初めて作ったのもらって?』涙が出た。なんか、プロポーズされたみたいって錯覚したの。彼は十歳以上も年上で、私はまだ中学生。夢物語を見るほど、純粋じゃない。
私は貰えなかった。貰わなかった。不思議な関係も嫌だったから、本人に伝えたらそんなに想ってくれてたなんて思ってもみなかった。
そしてお兄ちゃんがコンビニで彼と会った。
私には彼氏もいる。他の男から指輪貰うなんて、いくら優しい樹くんでも怒るに決まってる。怒るとかの前に、私やっぱり返すべきじゃないかな。
行くなって言ってくれた光ちゃん。私の性格分かってるからだよね。
次の日。今日は樹くんとデート。いつもなら、お洋服を選ぶのも楽しいのに今日は何かシックにまとめていた。普段、ヒラヒラな服ばっか来てるのに、今日は細身のズボン。
私たちのデートは、図書館でお勉強。真面目?さすがに受験生だからね。
「樹くーん!お待たせ。」
「おはよ。今日は大人っぽいね。」
「ちょっとー。いつもは子供っぽい?」
「いつもなら女の子っぽい。今日無理してない?」
樹くん、会って3分で鋭い。
「どうしてそんなこと言うの?」
「座って話そうか。」
近くのファミレスに入った。樹くんいつもと様子が違う。
「ひょっとしてあの店のオッサンに会った?」
通訳すると、アクセサリーショップのアルバイトの人ね。オッサンはヒドい。
「いやー。私は会ってないよ。」
「じゃあ、雪のお兄さんが会ったんだね。雪から会いに行くなら、僕別れるよ。」
「樹くん怒ってる?」
「悪い?僕だってヤキモチくらい妬くよ。」
樹くんが可愛い。
「ホントは、間接的に指輪渡されたの。だから、自分で返すつもりで。」
「その指輪、僕が返すよ。あと、雪に近づくなって言ってくる。」「樹くん!ありがとう。嬉しいよ。すっごい嬉しいけど、私の問題だから。」
「…ついていく。」
「うん。」
波乱の予感です。雪の恋はどうなるのか。