ライバル
俺は吉井幹也15歳。最近ハマってるコトは、アクション映画を観ること。趣味は、空手と言いたいトコロだけど、人間観察。口癖は「不法侵入」と「近所迷惑」。これは雪と光が原因で、仕方なく言ってる。好きな技は回し蹴り、上段蹴り。蹴りが好きだ。
「へぇ。幹也君って意外と、武士道って感じだねー。」
華は俺に質問しまくってメモをとっている。
「武士道じゃねぇよ。華のスリーサイズ知りてぇし。」
「えっ!スタイル悪いから言えないよー。」
ここは俺んち。付き合って一ヶ月弱でやっと来てくれた。スタイル悪いとか絶対ない。スラッとした白い足。くびれの凄い腰に、素晴らしい胸。ヤベッ、ジロジロ見ちった。
「ちょっと幹也君…ドコ見てるの?」
胸元を隠す華を見て、俺の下心はピークに。
「スタイル悪いって言うから、確かめてただけだろ?最高です!グッジョブ!」
「幹也君やらしー。脱いだらスゴいんだよ。」
は?脱いだらスゴい?
「なっ。どこらへんが?」
「お腹がぷにぷにしてるの。いいなぁ。幹也君は痩せてるから。」
うおっ。華さんそこを触っちゃ!まぁ、腹だけど。
「腹筋割れてるの?見たーい!」
「…いちよう。別に良いけど。」
俺は自分のシャツを捲った。華の反応は、固まっていた。
「華さーん?」
「かっ。」
「蚊?」
「かっこいい!!」
うわぁ。そんなキラキラした子供みたいな瞳で見られたら…手は出せません。
「触っていーい?」
上目使い来ました。俺何で標準語なんだろ。
「タンマ!」
「へ?なになに?」
「やっぱ、今日は勉強しよう。清く正しく美しく!」
「最初からお勉強してなかったけど?」
コテンと首をかしげる彼女。
…ゲンカイ。
俺は華を抱きしめた。落ち着け。落ち着け俺。
「びっ、びっくりしたぁ!」
「華が悪い。俺を誘うから。」
ドキドキが伝わってくる。すげぇ嬉しい。俺が華の心臓の音を速めたんだ。
「きゃっ!幹也君!」
俺は華の胸に耳を当てていた。
「悪い!思わずっ。」ぱっと華から離れた。何やってんだ俺。これじゃあ、ただの変態じゃねぇか。
「…。」
しばらく無言がつづいた。あの胸は…Cくらいだな。って違う!何話そう。
「幹也君ごめんなさい。調子に乗って触りたいとか…引いたよね?」
「全然引いてねぇよ。俺こそ嫌われたかと思ったし。」
そして仲直りのキスをした。
時間は流れ、体育の着替えの時間。
「みっきー。昨日最後までやっちゃった?」
「あいにく俺は純粋だから。相手も大切にしたいし。」
「よく言うよなー。ついこないだまで、俺より遊んでた癖にー。」
「かってに既成事実を作るな!そんなのただの噂だって知ってんだろ。」
「そうそう。幹也はアルイミ男子にモテるから、たぁいへん。空手部の先輩たちみたいな感じで突撃ーみたいな。」
「先輩には、俺からケンカ売ったからしょうがねぇよ。それに今の部活の方が楽しいんだ。本気で闘えるし。」
「しょうがねぇ、ねぇ。まだ真面目な人たちで良かったなー。ネジが外れた幹也もなかなか好評だからナ?」
「げ。授業始まってる。早く行こうぜ!」
キヨいわく、ホストバージョンの俺はかなり女に積極的だったらしい。俺はホストってよく分かんねぇけど。
これは欲求不満からだったら危ねぇ!ってこと。もしも、無意識に華に襲いかかったら…って俺は猛獣かよ。
今日は快晴。男子はサッカーで、女子は外周を走ってる。あれは服装で注意されて走らされてるようだ。
球技は苦手まではいかないけど、あまり好きじゃねぇ。小学生の時、ドッジボールで顔面キャッチしてからセンスの無さに気付いた。
「吉井ー。この試合勝負しねぇ?」
「杉岡久しぶりにしゃべったなぁ。で?何たくらんでんだ。」
「あれ。サッカー苦手なんだっけ。おかしいなぁ。俺の記憶では何度も抜けられてんだけど。」
ハッラ立つわぁ。最後に髪かきあげやがった。
「受けてたつ。ただし、罰ゲームとかナシだかんな!」
「吉井ならそう言うと思ったよ。心配しなくても罰ゲームはしないから。」
サッカー部エースの杉岡は恐ろしいほど爽やかに笑った。
「よっしーと杉岡同じチームだろ?」
「安心して。多く点を入れた方が、欲しいモノを貰う。ってルールだから。」
近くにいたキヨが眉をひそめた。このパターンは、華の好きそうな「オマエの彼女を貰う」的なオチ?
ピピーっとホイッスルが鳴った。
「ゲームスタート。」
聞いたコトの無いくらい低い声で杉岡が呟いた。
足が速い。しかもこのチームサッカー部ばかりだから、自然と杉岡にボールが集まる。
「おりゃー!」
俺のスライディングが見事に決まった。
「幹也!杉岡にスライディングしてどうすんだよ!」
そうです。やっぱ勝負を受けたからには、負けたくねぇし。見方は見方でも今は敵なワケだから、いいじゃん。
ゴール!
俺って意外とセンスありまくり?チームメートから集まる視線。これは!
「イェーイ!」
しーん。皆さんに睨まれてます。
「ははっ!オレは大丈夫だよ。幹也君には悪気ないからねっ。」
爽やかな杉岡に俺以外コントロールされてる。キヨは一人でボールを蹴って、めちゃめちゃ上手いんだけど。何か今ジャンプして避けてたよな。
「実はオレずっと欲しかったんだ。」
「華はやんねぇからな!」
ゲームは俺が勝ったケド、キヨが一番活躍してた。キヨは小学生の頃サッカーやってたらしい。中学でキヨに会ってからは、野球少年なイメージだったから知らなかった。
「ははっ!オレが欲しかったのは吉井が筆箱に着けてるカンバッチだよ。」
「なんやとー?危ねっ。思わず関西弁なった。カンバッチって、ストロアップの限定バッチか。」
ストロアップとは、俺の好きなキャラクター。簡単に言えば、苺と林檎が混ざった小悪魔みたいなキャラ。最初は、ヘンテコリンだと思ったけど気が付けば好きになっていた。華を好きになったのと似ているような。
そういえば、ちょっと華に似ているかも。それならますますあげられない。
「杉岡。」
「くれるのか?」
「欲しいモノは自力で手に入れるのが男だろ?」
杉岡が笑った。作り笑いじゃないホンモノの笑顔。
「それじゃあ、舞原は自力で俺が貰うよ。」
「華はモノじゃねぇよ。バッカじゃねぇの?」
「あースッキリした。オレ、コソコソしたくないタチなんだよね。お、授業終わってる。じゃあ先に戻るよ。」
俺は空手以外で生まれて初めて、宣戦布告された。杉岡がかっこ良く見えたのは絶対に目の錯覚だ。しばらく俺は一人校庭でぼうっとしていた。
「吉井くんだぁ。何してんの?」
「椿が言ってたのってこのコ?へぇ。アイドルの才藤海に似てるね。」
「似てないよー。吉井くんは吉井くんなの。」
キャーキャー2年の先輩が近づいて来た。椿先輩は空手主将の東先輩の彼女。かなりの綺麗系だ。あーつまり、一回アノヒに肉体関係が。
「こんにちはー。俺授業に遅れるんで、すいません。」
深入りしたら、谷底まで真っ逆さまだ。東先輩に毎日試合を挑まれる身にもなってくれよ。あの血走った目は苦手なんだよなぁ。試合すんのは、構わないんだけど。その前に一年はまだ試合できないハズ。
「今日も試合見に行くね!」
「椿先輩、東先輩を応援してくださいよ。マジ、東先輩がキレたら怖いんスよ。」
「竜はいーの。」
「椿行くよ!」
「うん。吉井くんまた目の保養になってね!」
いーのって何がいいんだか分かんねぇな。上手くいってねぇとか?今は、杉岡に注意しねぇと。
走って教室に戻った。
教室に入ると、杉岡は何も無かったように友達といた。拍子抜けした俺は華のもとへ行った。
「放課後暇?」
「びっくりしたぁ。今日はちょっと用があるんだよね。」
あからさまに目をそらされると傷つく。
「用って俺には言えねぇことなんだ?」
「家の用事だから。」
むなしく予鈴が鳴る。授業中何も耳に入らなかった。
杉岡は動いてる。こんな簡単にギクシャクするもんなのか?
「みっきー。体育の後椿サンと密会してたらしいじゃん?」
キヨが後ろから話しかけてきた。そしてすぐ気まずくなった理由も分かった。
「また変な噂流れてんの?俺しゃべっただけだから。」
授業中に話しかけんな。
「接点ないのにー?」
ポキッとシャーシンが折れた。
「あんま俺に構うな。俺だって考えてんだよ!」
声が響いていた。教室は静まる。
「吉井!この問題を解け!」
今は数学の時間。俺は余裕で解いた。
「授業中は静かにしろ。今度しゃべったら、吉井に授業してもらうからな?」
「…すいませんでした。」
席に着くとキヨは寝ていた。タヌキ寝入り。いつもキヨに当たってしまう。チャカされんのが頭にくるんだ。
まずは、部長の誤解を解くしかない。一発殴られんのは覚悟の上で。
昼休み。2年1組の教室。
「すいません。東先輩呼んでもらっていいっスか?」
「千円。」
「はい?」
「有料なんだよね。」
この明るい茶髪の先輩は、ドアの前にいたから声をかけただけ。「金」と手を差し出してきた。この先輩…本気?
「こら。立川、後輩をからかうな。」
「…東先輩。」
「いいじゃん。あの東 竜がかわいがってる後輩チャンらしいし。」
「…まぁな。それより吉井どうした?」
「あの、東先輩に話しがあるんスけど。」
「場所を変えるか。」
そして、立川先輩に頭を下げて東先輩についていった。
東先輩は凛とした雰囲気で、男らしい。身長も180はある。俺より10センチは高い。
で、着いた先は体育館でした。
「椿は誰にも渡さないからな。」
この構えは…闘うんスか!?
「ちょっと待ってください。ここは話し合い」
「吉井くん頑張って!」
何で椿先輩がいるんだよ。また話しをごちゃごちゃさせてる。しかも椿先輩の一言で、堅実な東先輩の表情がガラリと変わった。
「話し合いなど無用だ!男なら力で勝負しろ!」
東先輩の上段突き速い!俺は払う。
「俺には他に彼女がいるんです!」
俺は上段蹴りをギリギリ寸止めした。
「ならばなぜキスしていたんだぁ!」
東先輩の上段と中段突き炸裂。ちょっとあたったぁ!
「すいませんでした!一発殴って下さい!」
ドゴォっ
先輩の突きが、俺のミゾオチ入りました。
「悪かった。本当は椿と上手くいかないのを、吉井のせいにしていた。」
「っりゅう!」
椿先輩は東先輩に抱きついて、二人はうまくいきました。
俺倒れてんのに、二人して行っちゃうんだ。ツボ入ったたから、しばらく動けねぇな。
これで、誤解は解けるだろう。体育館の天井を見上げた俺だった。