整理できない恋
「美味しー!幹也君も食べる?」
苺パフェを食べる彼女。オマエを食べるゾーなんて、キヨなら言いそうだな。
「ん。さんきゅ。」
うぉー。甘酸っぱい間接キスの味!今日は待ちに待ったデートの日。誰にも邪魔されず。
「幹也くん?あっれー偶然だな。」
「ひーかーるー。マジ邪魔。ばいばい。」
「わぁー、君背ぇ高いねー。」
「ははっ。幹也君がチビなだけですよ。」
ってさりげなく人の彼女の隣座るなー。さりげなくチビ言うな。これでも整列した時、後ろから三番目だ。
「幹也君の幼なじみなんだー。」
「あなたは幹也くんの彼女ですか?…それでは僕用事を思い出したんで、また。」
今の間何だよ。勝った的な表情とか、ちょっと寒気がしてきた。光がすぐにいなくなって良かった。
「いいなぁ。幹也君あんな幼なじみいるんだねー。って顔色悪いけど大丈夫?」
コツンとオデコとオデコがくっついた。
「熱は無いみたいだね。」
優しく笑う華さん。ここは、外だ。しかも店の中。抑えろ俺…我慢できねぇ。
唇の距離あと1センチ。
「朝から熱いな。」
「はっ、はる兄!何でここに?」
「はようございまーす。…たく。どいつもコイツも暇だなぁ。」
「吉井君何か言ったかな?ん?不純異性交友を補導してるダケだろ。」
今度は俺の隣に座りやがった。初デートなのに何で邪魔されなきゃなんねぇんだよ。
「ふじゅっ!違うよ。幹也君が熱がないかって計っただけだよ。」
「しかも不純異性交友ってもっとエロい行為っしょ。先生怪しー。」
俺たちを見て、有野が鼻で笑った。
「まだってトコロか。先生は忙しいんだ。じゃあな。」
だから何がしたいんだよ。華の顔が赤くなってるではないか。こっ、これは!
「華ちゃーん想像しちゃった?何なら続きヤリますか。」
「なっ。これは違くて…そのー、あのーまだ早いよ。」
可愛スギッ。このまま襲っちゃいますか。いやいや、今遠回しに断られ…うおっ!俺の太ももに手が!
「幹也君?どうしたの?」
「ちょっそこはっ!」
「我慢が足りないねー。みっきーは。」
「キヨかー!気持ち悪いっ離せっ。」
犯人はキヨだった。ってか何でデートの日とか場所バレてんの?
「みんな初々しい二人をからか…心配してるんだぜ?」
ケラケラ笑うキヨ。今からかうって言ったよな。
「舞原チャンも気をつけなよー。幹也はこう見えてゼツ(ピー)だから。」
「そうなんだぁ。すごいねぇ。」
「ちょっ二人してドコ見てんだよ!」
「ドコって コカァンだよ。」
「何でその発音?」
甘い雰囲気かえせ!
「キヨー。遅くなっちゃってごめんね!」
桜が登場。
「全然待ってないよー。みっきーで暇つぶしてたし。というわけで、俺たちは大人なデートをするから。じゃーにー。」
「華ちゃん、よっしー初デート頑張ってね!」
人のデート場所を待ち合わせにすんなよ。やっと二人きりになれた。
「美味しかったー。次ドコ行く?」
「ちょっと雨降りそうだから、洋服とか見に行くか?」
「うん。洋服欲しかったんだよね。」
「俺が選んでやろうか?際どいヤツ。」
「やだぁ。」
そんなこんなで、パフェ屋を出た。
俺から手を繋いでみた。華は指を絡めてきて、絡め方が何かこうゾクッときた。妖艶って言うのか分かんねぇけど、反応した。
「恋人繋ぎだよ。」
いや、いくら俺でも知ってるから。指がこんなに敏感って知らなかった。ちょっと指を舐めて欲しくなってきた。やーばーいな。
「ここ入りたい!」
ビクッ入りたいって、入りたいって…。まぁ、店だけどな。
「いいぜ。って、姫系?」
「今私に似合わないって思ったでしょ?」
「んーん。華なら何でも似合うと思う。」
華は俺の手を引っ張って、店に入った。
妹の荷物持ちしたりするけど、眩しいな。キラキラした目で服を選ぶ華が、無邪気で可愛いい。
あ、このブレスレットいいかも。華が服に目を奪われてる間に、買った。ちょっと恥ずかったけど。
「幹也君、どお?」
「へぇ。そんな服もあるんだな。連れて帰りたいくらい可愛い。」
「もう。お世辞はいいから!」
シャッと試着室のカーテンを閉められた。アレは照れてたな。今の服は似合ってた。 水色のワンピース。いやらしくない具合に着いたフリルがいい。
「み…きや。」
今日は人に会いすぎると思ってた。でも、この人にだけは会いたくなかった。
「…花音さん。」
シャッとカーテンが開いた。まるで俺の目を覚ます様に。
「幹也君やっぱりこれやめようかな。あれ?知り合い?」
「何でもねぇよ。行こうぜ。」
俺の彼女は華だけ。俺は逃げるように店を出た。
「雨かよ。」
「さっきの人すごく綺麗だったね。」
「そうか?俺は華が一番だよ。」
歯の浮く様なセリフ。花音。俺の元カノ。初めての彼女だった。
その後は覚えてない。初めてのデートだったのに、グダグダだ。
家に着いて、自分の部屋でベッドに転がった。
「幹也くーん。」
俺が返事する前に光が入って来た。今は誰にも会いたくねぇのに。
「その様子じゃ失敗した?」
「…。」
「何かそれどころじゃないみたいだね。」
勉強机のイスに光がまたがった。
「あぁ。花音さんに会っちまったよ。」
「あれー別れたとき、会ったらシカトするってあんなに言ってたのにね。」
「別に話しはしてねぇよ。」
「じゃー何でオチてんの?早く今の彼女にメールで『楽しかった』くらい送らないと。好きなんだろ?」
「うるせぇな。そんぐらい送ったよ。」
「花音さんにベタボレだったのは分かるけど、会ったくらいでそんなじゃ華さんに失礼だろ。」
「分かってるよ。光みたいにすぐ整理できたら楽なのにな。」
光を見ると、顔を歪ませていた。
「僕が整理できてたら、とっくに彼女つくってるよ。」
あんな光初めて見た。今にも泣きそうで、壊れてしまいそうだった。過去に捕らわれない。このまま過去を美化し続けるのはダメだ。
まずは、思い出の品を処分しよう。
ちょうどその時呼び鈴が鳴った。しぶしぶ階段を降り。
「はーい。」
ガチャっと玄関を開けた。
「こんばんは!お兄さん。」
「出た。二重人格樹。」
「失礼します。」
玄関入るのに失礼しますってと思った瞬間、拳が飛んできたが、間一髪受け止めた。
「はぁ!?」
ゴッと鈍い音が。スネから痛みが走る。
「チャリ返しに来るだけにしようと思ったけど。姉貴を泣かせやがって。」
右スネを抱える俺を見下してきた樹。
いや、声も出ないくらい痛いんですけど。
「今度は着いて来てもらいますから。」
「ちょっ。引っ張るな!ってタクシーいつの間に呼んだ?」
「うるさいんですけど。一々騒がないで下さい。」
バタン。タクシーに押し込められた俺。これは誘拐っていうんじゃねぇの?
シンとした車内。しゃべっちゃダメですからねー。
「ここです。」
旅館?何この広さ。
「フンッ。お前みたいな庶民を家に入れるのは久しぶりだ。」
「キャラまた変わったー!誰?樹はどれが本当だよ!」
「…。」
「シカトぉ?」
学校並の広さだな。絶対迷子になる。
急にピンクの襖の部屋の前に止まった。
「姉貴ー入るよ。」
何その優しい声。
「やだ。」
ぷっ。拒否されてやんの。
「吉井幹也を人質にとっている。放して欲しくば出てこい。」
そして俺は、右スネを蹴られた。
「いってー!」
しゃッと凄い勢いで襖が開いた。
「えっ!幹也君?樹何で?」
「姉貴が最近落ち込んでんの心配なんだよ。コイツと付き合ってからだし。」
樹にギロっと睨まれた。
「二人とも入って?」
中はピンクの世界だった。例えるならお姫様が住みそうな。
「ジロジロ見んな!」
「樹!幹也君に謝りなさい。」
「いや、もう慣れたし。それにしてもファンシーな部屋だな。」
「両親が揃えちゃったの。ちょっと恥ずかしいから友達とか呼べないんだよね。」
さっきから樹が威嚇した猫に見える。猫目だしな。
「それよりごめんね。樹ったら見境ないから。」
って樹の頭撫でてるし。俺も撫でられてぇ!
「いいって。それより落ち込んでんなら、話し聞くし。」
「あの人元カノ?」
うわぁ。いきなり来たぁ。俺はガシガシ頭をかいた。ちょっと聞かれたく無かった。
「おい、姉貴を無視すんな!」
「樹ごめん二人きりにさせて?」
「…分かった。」
あれは絶対盗み聞きする感じだな。また睨まれた。
「今はまだ話せない。」
まっすぐ華の目を見て言った。華もそれに応えて俺の目を見る。
「そっか。じゃあさ、いつか話してくれるんだよね?」
怒ると思ったのに、華の考え方に驚いた。
「怒んねぇの?」
「うん。だって何か嬉しかった。ごまかさないで宣言してくれて。」
俺の肩にコテンと頭を寄せる華。
そして、やっとキスをした。
ドサッ。華の甘い匂いが香るこの部屋で、俺たちは初めて…。
ドカッと襖がはずれた。犯人は言うまでもなくシスコン樹。
「姉貴に何してんだよ!」
「愛の育み?」
「僕に聞くな!」
何だかんだで、樹は俺が嫌いではないみたいだ。愛情の裏返しとして受け止めよう。
辛い思い出は、思い出すのにも勇気がいる。華となら乗り越えられる気がするんだ。