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ミキヤノアノヒ


普段と同じ通学路に、似つかわしくない黄色い声が飛び交う。


ヤツが来たのだ。



「おはよう。」


そして女子生徒の頬に次々とキスを落とす。誰?紛れもなく彼は…。


「みっきーやり過ぎ。」


そう。吉井幹也だった。いつもの幹也はぶっきらぼうで、クールなイメージだが、毎年この日はネジが取れたように、ホスト化する。



しかも次の日何も覚えてないらしいからタチが悪い。結果、触らぬ神に祟りなし。でも、めっちゃウケるんだぜ!



今度は大人しそうな女の子に話しかけてる。

「君の瞳に吸い込まれていい?」


いや、周りもキャーじゃないから。絶対このキヨ様が言ったら、凍り付くし。幹也帰って来いー。今日舞原チャン休みだからますますヤバい。去年までは水田光がいたから良かったものの、オレには幹也を抑えんのムリだから。



今度は手にキスしてるよ。しかも、先輩にまで!ありゃりゃー、確か空手部の部長の彼女じゃない?みっきー今日の部活ドロドロだぜー。未来と見に行こ。


「キヨー。よっしーどうしたの?」


「何、未来もちゅーされたいのかよ。おいらがしてあげようか?んちゅー。」


「きゃっ。ここじゃダメだよー。いつもの場所行こ?」



よくここまで育って(?)くれた!最高!



幹也がモテる最大の理由はこの日にある。



最近、未来チンと俺の愛の巣は野球部の部室。臭い?汚い?それ以上に燃えるだろ。



「やっだー。彼女はいいの?」



うげ。先客かよ。ってか合い鍵俺しか持ってねぇのに!


「キヨ。あれ英語の佐伯先生と…」


「あちゃぁ。幹也かよ。さすがにやべぇな。」



今日が何の日か光に聞いたコトがある。それは幹也が過剰なまでのシスコンになったきっかけだった。


光は一人っ子で、いつも雪を守るように側に置く幹也と幹也にべったりの雪がうらやましかったらしい。光はある遊びを雪にしかけた。それは、屋根の上での押し合いっこ。だんだんと憎しみが増してとうとう、本気で雪を落としてしまった。



家にいた幹也は、ドスッと鈍い音を聞いて庭を見た。そして、雪は急所は避けていて命に別状はなかった。でも、見えない傷は残った。幹也の心にも傷が。どうして側にいて守れなかったのか。



自暴自棄になる幹也を光は見ていた。一番の原因は僕だと…。そして、光が幹也を止める方法はひたすら幹也に殴られること。



「よっしー酷いよ!華ちゃんがいるのに。」

「幹也にも事情があるんだよ。」


「キヨ?」


「オレには受け止められねぇな。」



光がしたことは悪い。人として間違ってる。だけど、殴られるのは違う気がする。いい加減なオレは言えねぇけど。二人を見て雪ちゃんは何を思うんだろうか。


部活の時間が来た。幹也は空手の黒帯だ。練習中は先輩もいるからとか謙遜して、白帯をしている。野球部のオレは中坊の頃から、幹也の立ち姿に憧れていた。



今は…。



何が起こったか分からない。ただ一瞬にして相手の先輩が倒れていて、しかも何十人が白目向いていた。



「よっえー!そんなんで空手語ってんじゃねぇよ。」



中学の時のあの事件も、幹也だったのか。路地裏で気絶している男たち。そして、意識を戻した男たちはバケモノが出たと震えていた。



幹也の目は、ここを見ていない。黒い目がいつもに増して黒く見える。オレは震えていた。とめないといけないって分かってんのに、足が動かない。



「幹也くん!」


光の声で幹也の手がとまる。


「来んな!」

ところが、光はズカズカと幹也の前に行った。


ドカッ


「これで今までの事チャラね。」


右ストレートが幹也の顔にヒットした。俺たち野次馬はハラハラ見ていた。



シーン。



しばらく誰も動かない。そりゃそうだ。光が殴るなんて誰も考えなかった。



「…悪かった。本当は、自分自身が一番情けなくて光にあたってたんだ。今のパンチでスッキリしたぜ。サンキューな!」



「幹也くん。僕はいいけど、この人たちどうにかしないとね。」



…パチパチパチパチ。何処からともなく拍手が巻き起こる。



「なんか、よく分かんないけどっ…良かったね。」


「って未来ちゃん泣いてんの!?泣く場面あったぁ?」



未来を抱きしめながら、光を見ると案の定先生に怒られてた。まぁ、中学生が勝手に高校に入っちゃいかん。

幹也は…褒められてる!?何でだぁ?


聞くところによると、幹也は今まで先輩に手加減、いや遠慮していたらしく今回は、やられる方が悪いとのこと。日頃の行いが良いヤツは特だよな。



さぁてと、オレは未来とデートでもしますか。





「っはぁ、はぁ。」


ゆ、夢か。スッゲー夢見た。通学路で女をはべらせたり、色んな女とヤリまくって挙句の果てに、国語の佐伯にキスマークつけられ…。空手部の先輩思いっきり倒してめっちゃスッキリしたぁ。あと光に打たれたっけ。



夢ってあり得ない事ばっかだよなー。便所、便所。



「…なんだよコレ。」

便所の鏡にうつる自分は、右頬が腫れていた。そして、学ランで隠れるか隠れないかの首筋ギリギリラインに、キスマーク。


変な汗が流れて来た。いっそ誰か俺をトイレに流してくれ。



夢だと思ったのが現実だった。学校行けねぇ!今まで築きあげてきた俺のイメージが、1日でドンガラガッシャーン。頭がこんがらがってきた。各なる上は。


「お母さまー、俺ちょっと頭が。」



「はいはい。頭がおかしいのはいつものことね。」




「ちぇー。雪が休みたいって言ったら休ませんのに。」


「お兄ちゃんがそんな事言わない!早く準備しなさい。」



今は余裕がねぇんだよ。



「みーきーやくん、遊びましょ。」


呼び鈴ナシはキヨしかいない。俺は玄関のドアを開けた。


「おー。どした?」


「その顔を見ると、やっと現実認めたっポイな。」


キヨが嫌な笑みを浮かべる。でも、こんなダチがいて良かったって思う。


「カバン持ってくっから待ってて。」


「未来を迎えに行く途中だったんだけど、ま、いいや。」


ドタドタ自分の部屋に行くと、机の上にメモを見つけた。


【明日の俺へ

一日一膳

昨日の俺より】


俺は口元が緩んだ。一番好きな言葉。しかも、今と関係ねぇし。なんか笑える。



「みっきー置いてくぞー!」


「今行くー。」


今日の俺は昨日と違う。それは誰にでも言えるコトだけど。


しばらく俺たちは無言だった。桜の家は俺の家より学校に近いはずだし、「ついでに」だなんてキヨにしては下手な嘘。



「公園で桜とは待ち合わせしてんだけど、舞原チャンも来るんだよねー。」


「あのイチャイチャ公園か。華、俺が来んの知ってんの?」


「あー」とキヨが頭をかいた。一目瞭然、俺が来んの秘密でセッティングするってことか。


「キヨ。今度いいサイト教えてやるよ。」


「いきなり何だよー。」



この角を曲がれば公園が見える。ヤバい手が震えて来た。正直者がバカを見るって言うけど、秘密って言わない方が気持ち悪いだろ。


「お、美女二人はっけーん。」


「はよ。桜、華。」


「きゃは!そっちは美男二人だねー。」


「…おはよう。私、幹也君が来るなんて聞いてない。」



桜とキヨはお構いナシに、手を繋ぎながら前を歩く。離れて歩く華と俺。



「華、熱出たって?」

「メールもくれないんだね。」


「昨日は、俺も余裕が無かったんだよ。」



ケンカなんてしたくないのに、ついムキになって止まらない。


「それに、私に何か隠してるでしょ?」


「何かって何だよ。」

「さっきから目を合わせてくれないじゃん。」



ぐいっと詰め襟を引っ張られた。顔近いですよ姉さん。ヤベッ…キスしたい。


俺はそのまま華の可愛い唇めがけて…。

バッチーン



さすがのイチャイチャカップルも振り返る。


「幹也君コレなぁに?」


「いてっ。」


首元を思いっきりつねられた。すっかり忘れていたキスマーク。会話がかなり夫婦っぽいのはおいといて、言うか?真実言っちゃう?


「オレ見ちゃったんだよねー。ねぇ、未来ちゃん?」


「そうそう。アレはスゴかったよね?キヨ。」


マジ黙れ。セッティングしてもらって悪いけど、話かきまわすなぁ。最初から面白がるつもりか。


「どういうこと?」


おいおい。まず俺のほっぺ心配しろよ。


「華ちゃんはヤラシイなぁ。俺の顔より首筋見て、朝から誘ってんの?」


ツイっと華の顎を人差し指であげる。俺だって男だ。ヤる時はヤる。


ポカンとした顔をする華。


「まさかまだ、ホストバージョン幹也抜けてねぇのか?」


「昨日から変わっちゃたんだね。よっしーこれからも友達だからね。」


「幹也くん大好き!」

俺に抱きつく華。めでたしめでたし。



じゃねぇ!しまったぁ。ごまかしちまった。俺こんなキザだったっけ?成長期って怖いぜ。

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