膝枕の誘惑
キヨと会った次の日。有野に準備室に呼ばれていた。
「おう。お前にお客さんだ。オレは忙しいから。」
俺が入るなり、有野は部屋を出て行った。
「吉井幹也くん。」
「宝来が現れたからキヨは転校するハメになったんだ。」
その時の俺は、八つ当たりする場所が無かった。俺がキヨに話さなければ良かっただけの話って分かってるのに。
「あれ?おかしいなぁ。オレの思う吉井幹也は、もっと冷静な判断力のある男なはず。」
「…からかいに来たのか?警備員呼ぶぞ。」
「怖い怖い。オレの仲間になれよ。まぁ、華ちゃんは貰いたいけど、それとこれは別だしね。それに、お前がいたら早く決着がつく気がするんだ。」
シャインのボスの仲間になって?キヨと敵になる?バカばかしい。昨日やっと誓ったんだ親友だって。
「荒城キヨの特技知ってる?『裏切り』って。アイツ、口が軽いし。すぐ裏切るし。だから、チームの奴らに目をつけられてんだぜ。」
「うるせぇよ。悪口言うんじゃねぇ。」
「悪口じゃねぇ。オレが言いたい事分かるだろ?」
一度やめたって事だけでも、良く思われないはずだ。宝来は、『シャインに入って、キヨを助け出せ』って言ってる。
「考えさせてほしい。」
「そう?たまに、ここにいるから。答えは出来るだけ早めにね。」
それだけ言うと、窓から出た。よく、見つかんねぇよな。
ガラっと、ドアがあく。
「とっくに授業始まってるぞ。」
「げ。次移動教室だし。」
「いいか。不良グループに入ったら、周りにも迷惑がかかる。それだけは覚えておけ。」
「あー!立ち聞きしてましたね!」
「見張ってたんだ。早く授業行けよ。」
頭が痛くなってきた。しかも、気絶とかさせまくってた奴らと、仲間になれとか、ややこしいだろ。キヨは転校してまで、周りを守ろうとした。俺にはそんな度胸も勇気もねぇよ。
ぼうっとしてたら、昼休みが来た。
「みーきや!今日天気良いから中庭で食べよ!」
「おう。」
華に手を引かれ、中庭で弁当を食べた。華が一生懸命しゃべってくれてるのが分かるけど、ただ頷いていた。
「ね。膝枕してあげよっか?」
「おう。…って膝枕ぁ?」
「嬉しくない?みきやが元気が出るように!」
照れたように笑う華は最高にかわいくて、綺麗だ。
「お、おじゃまします。」
「どうぞ。」
初膝枕!誰か写メとってくれ!ヤバい。とろけそうだ。感触が知りたい?それは俺だけの秘密だろー。うわぁ。顔がにやける。
「楽しそうだな。」
「杉岡か。邪魔すんな!」
「みきや、そろそろ…ね?」
しぶしぶ起き上がった。今度は俺の部屋で耳かきなんて!
「あれ?杉岡は?」
「分かんない。すぐ行っちゃった。」
「なぁ。今日放課後どうすか?」
「大丈夫だよ。何で敬語ー?」
そりゃ。下心満々ですから。
うお。今日誰もいねーよ。
「みきや?家に入れないの?」
「鍵持ってるから!」
ルンルン気分で鍵を開ける俺。隣の華は少し、もぞもぞしてる。
「やっぱり私、帰るね。」
「大丈夫。俺紳士だから!」
「鼻の下が伸びてるよ。」
「え!マジ!?」
鼻の下を確認中です。
「あ、華さんこんにちは。隣の晩御飯を貰いにきました光です。」
「まだ時間早いだろ。絶対窓から見えただろ。」
「良かった。光くんがいるなら大丈夫。」
「俺ってそんなに信用無いのかよ!」
光が華を俺んちに上げた。俺の家だっつうの。
自然に俺の部屋に入る光。俺は耳かきしてほしいのに!
「そういえば、おばさんは大学時代の友達と会いに行くって。雪は、マサとラブラブデートらしいよ。」
「俺より詳しいな。」
「あはっ。いいなぁ。光くんみたいな幼なじみいたら楽そう。」
「幹也くんは抜けてるトコロがありますからね。」
「へいへい。俺は茶持ってくる。」
トントンと階段を下りた。華の笑い声が響く。
適当に菓子を持って部屋に戻った。
ガッシャーンと落としたい心境。
「華さんの膝枕は気持ち良いですね。」
「弟にもよくしてあげてるの。」
「光このやろう!離れろ!」
ニヤリッと笑いゆっくり起き上がる光。
「弟によくするらしいよ。膝枕。」
「悪かったな!」
「みきや何で怒ってるの?」
俺はオレンジジュースを一気に飲んだ。華はクエスチョンマークが頭の上に浮かんでいる。光はべーっと舌を出した。
「あれだ。ただのカルシウム不足!」
「毎朝牛乳飲んでるよね。僕を追い越すためとかでね。」
「えっ?えっ?えー!?」
混乱中の華。膝枕誰にでもするなよー。俺落ち込むわ。
「あ。幹也くんが拗ねた。」
「みきや?どうしたの?」
寝転がる俺を揺する華。
「どうせ俺は弟みたいなもんですよっ。」
「華さん。膝枕は誰にでもしたらダメですよ。僕以外なら危なかったです。」
「そうなんだ?分かった。幹也おいでー。」
「華!」
結局、膝枕をして貰い、ご機嫌になっていた俺だった。
さすがに光は帰り、二人きりになった。ちなみに、まだ膝枕は続いてる。華は俺の前髪を触った。
「弟扱いすんなよ。」
目が合うと、華の顔が近づいてきて、キスをした。
「弟にはこんな事しないよ?」
「華…もう一回。」
「みきや?」
「俺ちゃんと彼氏だったんだな。」
「もう!当たり前でしょ?」
二回目のキスは、俺からリードした。膝枕からのキスってかなりイイかも。と思った俺だった。
華を途中まで送ってから、宝来の言葉を思い出した。いきなり現実に引き戻される。
「不良か。俺に合わねぇよな。」
気が付けば声に出てた。
「お兄ちゃん!」
「近所迷惑だ。うるさい。」
「だってお兄ちゃんがフラフラしてたから、溝に落ちそうだったんだもん!」
「うわ。マジだ。危なかった。さんきゅ。」
「さんきゅ。とか怪しい。何か隠してるでしょ?」
女の勘は怖い。
「早く帰るぞ。今日オムレツだったぜ。」
「あー!話しそらした。オムレツかぁ。やったぁ!」
単純な妹で良かった。まぁ、よく考える事にしよう。