別れと始まり
家を出たら、キヨが待ってくれてた。
「キヨ!」
「未来。しばらく会えないから会いに来た。」
「待って!もうボスとはケリをつけたって、言ってたじゃない!」
キヨのシャツの裾を掴んだ。このまま離したら、もう戻ってくれない気がする。
「知ってた?オレ思った以上に欲張りなんだ。」
後ろ姿だから、顔が見えない。でも、はっきりした男らしい言い方だった。
「未来、愛してる。」
キヨは振り返ってゆっくり、キスをした。スローモーションみたいで、久しぶりのキスは、切ない別れの味がした。
「ばーか。泣くなよ。プロポーズはしに来るからさ。」
「っ…バカはっ…キヨでしょっ…?他のっ…良い男と…結婚するんだからっ!」
「くっそー。あんま可愛い事言うなよな。」
私が最後に見たキヨの笑顔は、大好きな彼らしい、はにかんだ笑みだった。
『レイン』と『シャイン』は、この町から消えた。俺とマサと光は、毎晩歩いて聞き込み調査をした。
「実は、兄貴は隣町の高校に編入するんです。」
「はぁ。何で黙ってたの?僕たちムダ足じゃん。」
「あんま、ふざけた事言うな。早く探そうぜ。」
冗談なんかじゃねぇって分かってた。昨日、キヨが会いに来たから。夢だと思った。夢なら良かった。
夕べなんとなく眠れなかった。いきなり、キヨから電話で公園に呼び出された。
「よ。久しぶり。」
いつものキヨで、拍子抜けした。
「よ。じゃねぇよ!みんなにどんだけ心配かけてるか知ってんのか?…元気そうで良かった。」
「オレ、しばらくここ離れるから。唯一のダチには、知らせねぇとと思ってさ。」
「あんなに受験頑張ったのに、離れて高校どうすんだよ。」
「隣町に行く。編入試験ちょろかったんだぜ。受験頑張って良かった。」
いきなりキヨが拳を突き出してきた。
「いつこっちに戻れるか分かんねぇけど、ダチでいてくれるか?」
コツン。と俺も拳をあてる。
「俺はもう、一番のダチのつもりだぜ。」
「まーた、かっこつけやがって。」
その後は、バカ話で盛り上がった。会いに行こうと思えば簡単に会えると思ってたんだ。
人との出会いは、別れる為にある。なんて、誰かが言ってた。立川先輩とは、短い付き合いだったけど別れる時は、切なくなった。キヨとは、隣町だし電車ですぐ会える。だから、別れなんて言わねぇんだ。
「みきや、荒城ほんとに転校したんだね。」
「隣町だし。近いだろ。」
「だといいけど。チャイムなっちゃった。席に着かなきゃ。」
華は、自分の席に戻った。華までどこかに行ったらどうする?絶対連れ戻すに決まってる。現実は、ドラマチックにはいかないよな。
後ろから、シャーペンでつつくヤツはもういない。自然とため息が出る。
「吉井ー。先生の授業そんなにつまらないか?黒板の問題解け。」
「げー。はい。」
ヤバ。古典だ。華が小声で答えを教えてくれた。
「正解。次は自分の力で解けな。」
キヨに助けられてた部分結構あったんだ。
昔使われてた小学校の音楽室。
「いいか。ここからは無理強いはしない。まぁ、いつもしてるつもりは無いが。」
どっと笑いが起きる。
「ヒノトリとオレの争いにお前らを巻き込むのは、これで最後にしよう。これからは、『シャインレイン』それがオレ達のチーム名になるんだ。」
『おー!』と男たちの雄叫びが校舎に響き渡った。
キヨは一人、窓の外を眺めていた。ここでの最後の夜を噛み締めるかの様に。
とある建物の地下室では、真面目そうな男達が会議をしていた。
「もう、真面目なフリは疲れただろ。もう一度あの頃みたいに暴れてやろう!『シャインレイン』の名はオレ達がとる!」
男たちは雄叫びの変わりにダデ眼鏡を投げた。
まさか、さわやかサッカー少年が、この中にいるなんて誰も想像してなかっただろう。