トウダイモトクラシ
「また戻って来てくれるって信じてた。」
オレは報告係。報告しに来ただけなんて、甘っちょろいワケはなかった。ボスに手をさしのべられたら、すがってしまう。初めて会った日の様に。
中1は最悪な年だった。幹也と出会ったけど、他の奴らと同格で1クラスメート。ダチなんて必要無い。オレは冷めていた。ある日、トイレに入ろうとした時。
「キヨって調子乗りすぎだよな。」
「面白くねぇよな。」
「やめろって。お前ら言い過ぎ。」
悪口なんて言われ慣れてたし。自分も言いまくってた。でも、幹也は違っていた。フォローされたのにすっげぇ腹が立った。 心のどっかで、かっこいいと思ったけど、良い奴ぶってムカついた。周りの奴らも『あちゃー、言い過ぎたなー』みたいな雰囲気にさせる幹也が、羨ましかったんだと思う。
「ちょっと来いよ。」
「どうしたんだよ!」
授業が始まるのに、幹也を裏庭に引っ張った。
「いつも、いい奴ぶってんじゃねーよ!」
「やっと本音言ったな。キヨはいつも嘘っぽいんだよ。」
「うるせー!」
オレは殴ってんのか、平手打ちか、蹴ってんだか、頭突きだかめちゃくちゃだった。幹也は冷静に、避けなかった。
「なんでっ、避けねぇんだよ!」
「おもしれー。壊れたオモチャみてぇ。」
「ふざけんな!」
ストレートが顔面にきまった。
「いってー!おい手加減しろよ!」
「オレ、初めて人に対して怒った。」
オレは腰を抜かしたようにへなへなとしゃがんだ。
「最初っからダチだろ!ほら!」
さしのべられた幹也の手は、すっげぇ熱かった。きっと幹也は痛みを手を握りしめる事によって耐えてたんだ。かっこつけだ。
オレは今でもダチはお前だけ。
回想終了。今の思い出の中にボスが現れなかったな。しかも最悪の1年が幹也によってまとまってしまった。
オレが不良チームに入ったのは、入ったのは…。
「あんれー?こんな時間に中坊が何してんの?」
家にいるのが嫌な時期だった。ゲーセンで時間を潰してたら、たむろってる高校生に目をつけられた。
「そこ通るんで、退いてもらえますか?」
「どうします。ボス。」
「お前さ、いつも退屈そうだよな。どう?オレらのグループ入んねぇか?」
ボスと呼ばれた男は、今まで会った男とは、雰囲気が違う気がした。
「キヨって言います。よろしくお願いします。」
オレは頭を下げていた。絡まれたヤツらの仲間になるなんてバカげてるけど、オレの居場所をくれた人がボスなんだ。
今さら裏切れねぇよ。
キヨが1番荒れてた時に戻った。一匹狼で授業はサボってばかり。誰が話しかけてもシカト。傷痕を見れば分かる。わざと人を遠ざけてる。特に桜に冷たい。
「よっしー。キヨは、またボスに会ってるみたいだね。」
「キヨをそこまでさせるボスってどんな男?」
「太っ腹で、一匹狼なところがあって、本当は優しい人。今は、何もできないけど、もしもの時はキヨを助けるよ。」
「キヨはいい彼女持ったな。」
ニッコリ笑う桜が、今は痛々しかった。
数日後の夜に、光の家に、マサと3人で集まった。
「僕が二つのグループの歴史を教えてあげよう。」
「光先輩知ってるんすか!?」
「ったく。どこルートだよ。」
丸テーブルの上に何やら紙を出した。
「これがまとめた紙だよ。二つのグループは実は一つだったんだ。」
「だから?今は乗り込むか乗り込まないかを話してんだ!」
テーブルをダンッと叩いた。キヨは、家にも帰ってない、学校にも来ない。お気楽な両親だからいいものの。俺んちなら捜索願い出してるぜ。
「幹也さんすいません。バカ兄貴の為に。」
「僕が意味もないのに、調べると思う?」
「…分かったよ。早くしろ。」
ある町に、不良にとって、先輩から代々伝えられてきた憧れのグループがあった。それが『シャインレイン』。晴れの日も雨の日も共に…という意味らしい。
「前フリなげぇよ。」
肘をつく俺。
「物語もプロローグが肝心だろ。」
「一つだったなんて、あの二人のボスも同じグループだったんすかね。」
「あぁ。なんせ二人のボスの代から『シャイン』と『レイン』に分かれたんだからね。」
光のイラスト見る限り、ボスたちの顔知ってるな。ふ~ん。レインのボスこんな顔してんのか。このイラストどっかで見たような。
「気付いた?レインのボスは、前近所に住んで麗兄だよ。」
「マジかよ!」
「幹也くんと僕の言い分なら聞いてくれる。……と思うよ。」
「その間だと、あんまり希望ないんすね。」
「ぶっちゃけ、光とイタズラしまくってた。泥団子投げたり、水まいたり…とにかく。ヤバい兄ちゃんだったんだな。」
血がサーっと引く。キヨを返せ。なんて言えねぇな。まず、『イタズラしてすいませんでした!』からだよな。
「ほらイタズラしたら、仕返しされてたし!もう大丈夫だよ。」
「さっきから何の心配してるんすか?」
「溜まり場とか調べたよな?」
光がペラっと紙を見せた。住所が書いてある。
「行きましょう!」
「マサにはまだ分かんねぇんだよ。あの世界の怖さをな。」
「キヨ先輩に守られてたからね。て訳だから、マサは邪魔。」
まぁ。これはマサを試す為に言ってるだけだ。
「オレ足手まといになりませんから!」
満月の夜、俺達はキヨを檻から救いに向かった。
住所を頼りに、着いた場所は昔小学校があった場所。そのまま校舎が残っていた。いかにもデソウ。
「誰もいないんじゃないすか?」
「マサつかまるな。自分で歩け。」
「音楽室の電気ついてるよ。」
先頭を歩く光が振り向いて言った。
「せーので入るぜ!」
「いっ。」
「せーの。」
「で。」で突入した。一人の男が窓際に座っていた。
「久しぶり。近所のワルガキ。」
他には誰もいなかった。麗兄は相変わらず、さらさらの色素の薄い茶髪を風にそよがせていた。女の人みたいな綺麗さがある。
「麗兄。キヨは?」
「おい。幹也くん順序があるでしょ!」
「キヨ?あぁ。クリーンの事ね。オレは声をかけただけ。戻ったのはキヨの自由。」
「兄貴を返せ!」
「マサまで落ち着けって。」
麗兄はゆっくり立った。そして、マサに近づく。
「昔のクリーンにそっくり。弟がいたんだ。面白いね。」
「麗兄。キヨは?」
「知らない。他の奴らと遊んでんじゃない?あと、いきなり来ないでほしいな。ここは、オレ達だけの場所なんだ。」
それだけ言うと、また窓際に座った。 その後は何を言ってもシカトされ、俺たちは一旦帰る事にした。
「明日は、遊びそうなトコロにまわろう。」
「さっきの人、怖かった。オレ、一人にしか会ってないのに情けねぇよ。」
「あー。麗兄は別格だから大丈夫だよ。僕たちもついてるしね。」
マサは黙りこんだ。せめて学校来いよキヨ。不安で仕方ない。何かが引っかかる。俺はなかなか眠れなかった。