目覚めたウワサ
ツンツン。
「ーであるからにしてー、この方式をー。」
夏休みも終わり、久しぶりの授業だというのに、後ろから邪魔するヤツがいる。
「なんだよ。」
結局、先生の様子を見ながら振り返る俺。
「ほい。ラブレターあげる。」
ノートの切れはしを渡してきた。前を向き、開いた。
【舞原チャンの浮気現場目撃したよん。ちゅうまでしてた。(ウインクバッチン)】
あー。キヨに見られたんかよ。また噂流すかな。
「まだ誰にも言ってねぇよ。」
休み時間便所で、キヨがいきなり言いだした。
「おいおい。まだって事は言おうと思ってんな?」
「やはっ!バレちったー?ってか、幹也知ってたっぽいな。つまんねぇの。」
やはっ!て笑い初めて聞いた。
「んー。華は正直だからな。自分から言い出したんだぜ?」
「舞原チャンらしいっちゃらしいな。幹也キレただろ。」
「よしっ。そろそろ戻るか。」
「話さないと、ばらすかも?」
「ったく。キヨは知りたがりだな。」
その頃の教室。
「華。次自習らしいよー。」
「未来ちゃん。二人とも遅いね。今頃は席に着いてるのに。」
隣の席に座る未来ちゃん。確か隣は、サボってばかりのナントカ君。いや、さん?
「キヨたち自習なのに、サボる気だろうね。それより、有野が自習にしたのには、噂があるんだよ!」
ズイッと、未来ちゃんがよって来た。ちょっと近い。
「ウワサ?」
「そ。何か結構前から生徒とウワサになってたらしいよ。んで、転勤になるとか。」
『もうオレのトコロに来るな』というはる兄の言葉が、頭によぎる。まさかあの時から、私とウワサになってたの?
「あくまでも噂だよ。」
私は、先生に助けられてきたのに、何もできないのかな。
裏庭で、キヨと俺は寝転がっていた。
「ヒノトリが、華チャンの婚約者か。」
「婚約はしてねぇから!」
「アイツ死んだってウワサあったんだぜ。ボスが言ってた。」
俺はそういう集まりとか、出たことなかったからキヨのグループのボスを知らない。
「なんでか、宝来にはよく鉢合わせたんだよな俺。」
「世の中は必然だぜ?お前引き抜かれかけてたじゃん。めっさ幹也の事気に入ってたらしいぜヒノトリ。」
「からかわれてただけだし。キヨはかなり嫌ってたよな。」
いきなりキヨが起き上がり座った。
「ったりめぇじゃん。敵だぜ?今でも敵だからな。」
その瞳は真っ直ぐ前を見ていた。揺るがない心の現れだ。俺はキヨの助っ人しかしてない。しかも、キヨといて絡まれた時だけの話。有名私立に入ったのも、校内だけでも争いを避けたかったからだ。
「勝てよ。」
「もう勝ってる。なんて、やっぱ迫力が違うんだよ。」
「んなの、最初から分かってんじゃん。幹也は、幹也なんだからな。」
「ぶっ!真面目なキヨって変。」
「コノヤロ!」
しばらくくすぐられた。宝来の事をキヨがボスに伝えたら…。華にまで被害が及ぶかも知れねぇ。それを、防ぐのが俺の役目か。
「悪い幹也。」
「俺も何で話すんだろうな。」
昨日の仲間は今日の敵。
そして、キヨはまだ集まりに行っていた事も知らなかった。
行っちゃダメなのに、準備室に行く。
「はる兄!」
「うぉっ!急に入んな。」
段ボールが目に入った。
「やだ。行っちゃうの?」
「…は?」
「転勤するんでしょ?」
よく見ると、段ボールにはティーセットが。
「あいにく。オレは何処にも行かねぇよ。結婚式には行って来たけどな。」
「ウワサは?」
「ウワサ?あー。演劇部の内容だろ。ごっちゃになったんじゃね?」
私…ただの恥ずかしい人じゃん。
「華がそんなんだと、本当に噂になるかもな。まぁ、茶でも飲めよ。」
「はる兄のバカ!もう来ないから。」
来るなと言われたら行きたくなる。きっと、はる兄の思惑通りなんだよね。
華が準備室を出てから、奥からヤツが出てくる。
「危機一髪。」
「ったく。刹那は、ストーカーか?」
「おれ、レモンティー。」
「誰が入れるか。大学戻れ。」
たまに、来てる宝来刹那。ダテ眼鏡なんてかけるのは、荒れてた時のカモフラージュとか。でも、こいつの瞳の強さはそのままだ。
「そーんな見つめたら穴があいちゃうよ。春ヤン。」
「うっせ。眼鏡も黒髪も似合わねんだよ。」
「春ヤンは教師が似合わねんだよ。」
何だかんだでお茶を出すオレは甘いと思う。
「華ちゃんにあんな甘えさせるなんて、妬けちゃうな。」
「話聞いてると、お前ただの不審者じゃん。」
「知らねぇの?第一印象は悪い方が、後からじわじわと印象が良くなるんだってこと。」
こいつほど、瞳で人をコントロールするヤツを見たことは無い。
「は?華は、用心深いって知んねぇの。ってか、吉井の事かなり気に入ってるらしいよな。」
「吉井幹也?アイツ良いよな。一回本気で勝負したい。」
「おい。刹那が本気になったらやべぇだろ。」
刹那はウインクした。
「おれ、かなりのサドなの。そろそろ授業行かないと。」
窓から出た。ここは3階。ヤツは、木をつたう。
「窓開けててねー。」
無事に着地したようだ。問題児ばっか。オレは、頭を抱えた。
夜の静かな倉庫。
「やっと見つけた。ヒノトリ。」
「何でおれ、ヒノトリなんだっけ?伝説じゃねぇのにな。しかもすれ違ってて、気付いてねぇのはそっちじゃん。」
そろそろ卒業したい。こんなやり取り…返り血がベタベタするだけ。あと、絶望的すぎる虚無感。
「キヨいや、クリーンだっけ。ソイツがチクッた?」
「相変わらずお気に入りしか覚えてねぇな。」
そのあとは地獄絵図。拳に生臭い血。自分か相手か分からないくらいの血の量。
次の日。
キヨの全てがボコボコだった。桜が駆け寄っても、シカトしてた。
あぁ。戻ってきた。
一番荒れてた頃のキヨが。