衝撃のキスシーン
二度目に、宝来刹那と会った場所は、みきやの嫌いなイチャイチャ公園だった。
「何で公園なんですか?」
「そんなキョロキョロして、みっともないよ。それより返事聞かせてくれない?」
「父を騙すなんてできません。だから、や…。」
唇に一瞬何かを感じた。私は夢中で唇をゴシゴシ擦った。
「これが同意のキスでいい?少林寺憲法してるのに、避けられないはずないよね。」
私は手をふりかざした。けどすぐに、手首をつかまれる。
「おれが、華ちゃんに構う理由知りたく…いってぇー!」
私は思いきり足を踏みつけた。素早く手首を振りほどいた。
「私、そんなに簡単な女じゃないですから!もう二度と会いません。さようなら。」
刹那さんの表情も見ないで、私は公園を出た。早くみきやに会いたい。全力で走ってみきやの家に向かった。
オレはいつもの公園で、未来を待っていた。きっと化粧で時間かかってんだろう。暇で、公園を見渡すと舞原と、真面目そうな眼鏡くんがベンチに座っていた。
「へー。お堅い舞原チャンがねぇ。みきやにチクッちゃろーかな。」
次の瞬間キスしていた。ちょっとオレも、ショック受けてた。自分ながらショックを受けた自分自身に驚いた。思わず、セットに時間をかけてるハネハネの前髪を、ペシャンコに戻してしまった。
「キーヨ!遅れてごめんね。下着迷ってて。キヨ?」
「未来。いい店見つけたから、公園はやめようぜ。」
「あれ?前髪がおりてるよ。」
「雷が落ちたんだよ。」
「変なキヨ。行こっかー。」
何でフォローしちゃってんだろ。口が軽いのが売りなオレが、キスシーンの目撃ごときでショックうけるなんて、あり得ない。
「キヨ?何ブツブツ言ってるの?」
「手ぇ繋ごうぜ。」
「繋いでるよ。大丈夫?」
幹也は今頃何してんだろう。
ドスドス、ドスドスと俺の部屋で受験生二人が、ゲームをしている。
「おりゃー!ミラクルショーット!」
「させないよ!クルクルアターック!」
ってか、外で本物やれ。身振り手振りが激しい。これはもしかしなくても、宿題に悪戦苦闘してる俺への嫌がらせだ。
ピンポーン。
「お兄ちゃん今手ぇ離せないかーらっ!」
「幹也くん出てー!」
一発ずつ拳骨をおみまいした。結局俺が出るんだけどな。
「はー」
「みきや!」
「い」まで言う前に、華が飛び込んで来た。少し震えている。
「何かあった?変質者に会ったか?」
「ごめんなさい。私、キスしちゃった。」
俺は、華を突き飛ばしていた。
「…何だよ。そんなことわざわざ言いに来たわけ?」
「み…きや?」
拳が震える。しばらく何も言わなかった。
「本当は、みきやに相談すれば良かったの。」
「本当はって?話が分からねぇんだけど。」
ガンっと壁を殴りつけてしまう。
「…何よ。みきやなら分かってくれると思ったのに。」
玄関から出て行く華を追いかけなかった。何を望んで『他の男とキスした』なんて言うんだ?俺には分かんねぇよ。
私は、走って走って…気付いたら、学校についた。でも、もう、先生には相談できない。
「よう。華何してんの?」
「…はる兄。」
「こら、有野先生だろ?一回くらいは相談乗ろうか?」
いつも最後に行き着くのは、はる兄なんだ。みきやは甘えても、気付いてくれない。
「それは、華が悪い。」
準備室で、ミルクティーを入れてくれた。このイスは久しぶりな気がする。あんまり、日がたってないのにね。
「私悪いからって、あやまったんだよ?」
「はぁ?いきなりキスしたなんて言われてみ?華なら一発叩くだろ。」
「あ…。自分の事しか考えてなかったかも。」
ミルクティーを飲むと心が落ち着いた。
「華、偉いな。泣かなかったんだろ?」
「ちょっと、それ言われたらっ…。もー!」
「泣いたー。ガーキ。」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。大きな手があったかい。
「真っ直ぐなのは良いけど、もうちょいしなやかにな。」
「んー。頑張るー。」
有野先生は、私を泣かす名人だ。でも気分が軽くなるのは、はる兄の魔法かもね。
俺は受験生二人に説教を受けていた。
「華さんかわいそう!」
「幹也くんは、受け止める包容力が足りないんだよ。」
「はぁ?被害者は俺なの。キスだぜ!はっ!」
勉強用のイスをクルクル回しながら、ふて腐れる俺。
「いーい?ここはお兄ちゃんから仲直りの電話しなきゃダメだよ。」
「幹也くんの携帯…と。舞原華さんは…あった。プーッシュ。」
「勝手に触んな!」
「じゃあ、私達は退散しますからー。」
「優しい言葉でね!」
バタンとドアがしまる。
《みきや!》
「んー。ちょっと言い過ぎた。」
《私もちゃんと話したいから、会いたい。》
「明日、華んちに行く。オヤスミ。」
《うん。オヤスミ。》
やっべぇ。俺怒ってるかも。
「カァーット!ダメだよお兄ちゃん!」
「もっと優しく。軽やかな感じで。」
「てめぇら!また盗み聞きしやがってぇ!」
追いかけっこは朝まで続いた。
翌日。華は家の前に待っていた。
「来てくれたんだ。」
「俺、嘘はつかねぇだろ?」
あ、ちょっと目の下にクマが出来てる。やっぱあの電話は、そっけなさすぎたか。
「んーと、あれだ。昨日はガキすぎた。」
「私も、いっぱいいっぱいで、早くみきやに会いたかったの。」
「で、相手殴っていいか?」
やっと、目が合って良い感じになった瞬間。
「華ちゃん。お父様に挨拶に来たよ。」
いかにも育ちの良さそうな、黒渕眼鏡が俺達の間に割り込んだ。
「華…こいつ?」
「うん。」
俺の拳は、そいつの顔には当たらなかった。軽々と避けられた。
「面白い歓迎だね。吉井幹也くん。」
「あれ…。宝来?」
「え!知り合いなの?」
キヨがグレてた時、相手チームのボスだった。黒髪に染めやがって。確か、オレンジ色の髪だった。カラコンもグレーで、ヒノトリとかあだ名があったはず。
「ふーん。勝てるね。マウスちゃん。」
こいつ、お坊っちゃまだったのかよ。強くて性格も潔くて、男として憧れてた。でも。
「華は渡さねぇよ。」
憧れの男が目の前にいる。これは、負けられねぇだろ。
「私…みきやだけだよ。」
華は俺の後ろに隠れていた。