星の降る夜
今日の雪は、可愛くて綺麗で、正直誰にも見せたくなくなった。
「マサー!早く行こうよ。花火始まっちゃうよ。」
「いつもの場所で見たらダメ?」
「せっかく浴衣着てるのに、やっぱり変かな?」
変な訳ない。
「うん。変。雪に浴衣なんか似合わねー。」
「ひどい!そんな風に思ってたんだ。マサの為に頑張ってオシャレしたのに!もう知らないっ。」
雪は暗い夜道の中走って行った。オレは慌てて追いかけた。手首を掴んだけど、案の定振り払われた。
「触らないで!」
「あんまりかわいくて、他のヤツに雪の浴衣姿見せたくないんだ。ちっちゃい男でごめん。」
「ほんとう?」
素直になれない。光先輩に男らしくなる為の秘訣を教わったけど、雪を目の前にしたらそんな余裕なくなるんだ。
「マサのばか。じゃあ、いつもの星がよく見えるトコロに行こうか。」
雪はオレの手に自分の指を絡めた。早くちゅうしたい。
「ひゃっ。もう、歩いてる時に、ちゅうしないの!」
「やだ。ほら星スッゲェ綺麗!」
「今日のマサかっこいいよ。」
ギュッとオレは手を握り返した。甚平着てきて良かった。兄貴のオススメっつーのがかなり嫌だけど。
「ほんとここは、誰もいないねー。」
「オレが見つけたからなー。ちゅうしよ!」
「マサってば。さっきしたでしょー?」
そこで花火が打ち上がった。
「たーまやー。」
「あはっ。きれいだね。」
「雪!来年も再来年もずっと、一緒にここで花火を見てくれますか?」
雪はオレのほっぺにちゅうした。
「よろしくね。」
花火はまるで星が降ってるみたいだった。
「花火始まっちゃったね。」
「未来は行かなくていいのか?」
「うん。線香花火しようか。」
未来の家の庭からは、打ち上げ花火が見えた。その下で、オレ達は線香花火をしている。
「キヨって派手そうなのに、実はシンプルが好きだよねー。」
パチパチと線香花火の音と、ドンっと打ち上げ花火の音が心地よい。
「まさかー、オレっち派手な未来ちゃん大好きよー?」
「あー、それって逆に地味な娘が好きって言いたいんでしょ?」
ボトッと線香花火が落ちる。
「星が綺麗だなー。打ち上げ花火って星が降るみたいだなー。」
「今話そらしたでしょー?星が降るなんて、相変わらずロマンチストなんだから。」
「未来が現実的すぎんだろ?」
未来の方を見た瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。すぐに、オレの方からリードした。
「私の部屋行こっか?」
「んー。今日は縛るのナシで。」
いくら、体を重ねても名前を呼び合っても、埋まらない気持ちがあった。
星の降る夜。オレ達は心まで繋がった気がする。
窓から見る打ち上げ花火は、ガラス越しというだけで、幻想的じゃない様に感じた。今年は、花火大会に行く気になれなかった。
「光。人んち押し掛けといて、さっきから何ため息ついてんだよ。」
「いやぁ。やっぱり日本庭園は違うねー。花火が似合うよ。」
「立花とかに誘われてなかった?」
立花とは、クラスの女子。それ以上でもそれ以下でもない。
「樹だって、誘われてたじゃん。」
「ダルいし。光も同じ理由だろ?」
「まぁね。本当の理由は樹と同じかな?」
いわゆる失恋。もう会わないって言われてから、花音さんから連絡はない。自分からなんて、変なプライドの高い僕が出来る訳ない。
「たーまーやー。」
「まるでフヌケだな。光はまだ完璧にフラれてねーじゃん。」
「オヤスミ。」
「せめて布団しけや。って、寝るのはやっ。」
星の降る夜に、僕は、樹と過ごした。一人じゃ、マイナスばかりが浮かんでいたと思う。
高級レストランで、最高の女とワインを飲む。これがオレ。
「有野さん?そういえば今日、花火大会があるそうですね。」
「あぁ。ここは一番花火が見えるレストランだよ。」
赤いルージュが似合う彼女。オレにはこんな女が良いんだ。
「わぁ!綺麗ですね。」
ちょうど花火が上がった。冷めた目で見る自分がいる。華は、今頃吉井と…。
「ありがとうございます。こんな素敵な場所に連れて来てくれて、嬉しい。」
「貴方となら何処へでも行けますよ。」
今なら、君の瞳に乾杯って言えそうだ。
「今度は、好きな人を連れて行って下さいね。」
だから、女はなかなか騙せない。この女に興味を持った星の降る夜。