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浴衣の中とフードの影


他の誰かが目の前で話していても、耳に残るのは貴方の暖かい唇のぬくもりと、少し低めの声だけ。



だから、私を許して。


『お見合いではなく、話をするだけ』なんてお父さんは言ったけど、ただ話をするだけで真夏なのにわざわざ着物は着ない。



目の前の男の人は、5つ離れた大学生。いかにも真面目そうで、黒渕眼鏡をしている。



「ねぇ。華ちゃんさ、彼氏いるでしょ?」



二人きりになったとたん言葉遣いが軽くなった。きっと、この人は、見た目をわざと真面目っぽくしている。



「はい。刹那さんもいそうですね?」



「ざっと片手で数えきれないくらいかな。」


お父さんが決めたお坊っちゃまが、とんだ外れだ。でも、これなら一度ですみそう。



「今、安心したね?おれ、華ちゃん好きかも。おれを前にして、他の男を見てる瞳とか…燃えるんだよね。」



「私、もう会えません。一度くらい父の言う事聞かないとと思っただけですから。それに、」



「それに彼氏以外考えられません。とか?じゃあさ、表面だけ付き合おうよ。おれ達が付き合うって聞いたら、お父様も喜ぶかもよ。それに、こうやって他の男と会わなくてすむじゃん。」



罠に決まってる。こんな男信用できない。



「今すぐにとは言わないよ。おれはかなり心広いからね。」



そうして、宝来刹那と初めての食事を終えた。






「華?」



「あっ。何?」



今日は、華の楽しみにしていた花火大会なのに華は、ぼーっと上の空だ。出店もスルーして歩いてる。



「熱でもあるんじゃねぇ?ベンチにすわるか。」



「そんなんじゃないよ。ほら、熱も無いでしょ?」



俺の手を握って、華のおでこに持って行った。



「んー。熱くはねぇけど、まさか!違う男の事考えてたか?」



「…っ!な、無いから!」



冗談で言ったのに、そんなに動揺されたら怪しいよな。また、ぼーっとしてる。俺は、華の肩を掴んだ。あれ、ブラのヒモが無いってことは、ノーブラ!?


「みきや、どうしたの?顔スッゴい赤いよ?」



「まさか、これは!下着つけてねぇの?」



「…当たり前だよ。着物の時もつけないし。」



って、喜んでる場合じゃねぇ。話ずれたぜ。えーとのーがー、そうだ。



「まさか、下も…?」


「みきやのえっち。」


「もう一度そのセリフプリーズ!」



「ちょっと…。やだ、どこ触ってんの?」



「腰っす!腰の流れっす!」




バカな俺はすっかり忘れ去っていた。頭の中は、華の蝶々が舞うワイン色の浴衣の中身の想像でいっぱいで。いつも隠してあるうなじとか、少し濃いめの化粧とかクラクラした。


ヒュードン!パラパラパラ。



「わぁ!みきや見て!」



「え?うなじを?」



「違うよ。花火キレー!」



花火よりも、華を見つめていた俺だった。やっぱ、浴衣最高!!





俺は幸せを噛み締めながら、華を家まで送り届けた。深くキスしたらそのまま浴衣を脱がしたくなりそうで、別れ際に軽いキスだけした。



「おかえりー。」



「あー!立川先輩!」


「さて、オレはロスに行くでしょうか?」



俺の家の前にしゃがんでいた立川凛先輩。表情が読み取れない。



「行かない。であって欲しいっす。家入りますか?」



「結果報告だけだからいいやー。ロス行かないよー。でも、オレが行かないなら、親子の縁を切るんだって。」


フードをかぶった先輩が少し頭を傾けたから、どんな顔してるか分からない。ただ、声がかすかに震えていた。


「…そんな。」



「親父にはオレもうんざりしてたんだー。だからいいんだよ。バイバーイ。」



「行って下さい!ロス行った方が…!」



ドッとギリギリ頭の横に立川先輩の拳がとんできた。



「竜ちゃんにも言われたー。オレってただの人形なの。これで実感した。」



「先輩…目殴られたんですか?」



近くで見たら、フードで隠していた意味が分かった。左瞼がはれていた。



「機械的で感情が無い親父と思ってたら一発ガツンと『甘えるな。目を覚ませ。』だってさー。何かオレー。カッコ悪いよな。」



「先輩…愛されてるじゃないっすか。」



「ははっ。虐待で訴えよーかなー。オレも一発きめたんだぜー?急所は避けられたけど。もう、頭グリングリンだよ。」



「先輩の決意固まってますね。いつでも、ゲームの続き乗りますから。」



「よしっちは初めての合格者だよ。お前は、金意外で信じられる力を持ってるから。」



立川先輩はニッと笑った。吹っ切れた様な、俺から見てもすっきりする笑顔だった。






数日後、立川先輩はロスに行った。俺は、見送りとかいかなかった。先輩は、そういうの好きじゃないと思うし。



《アド変えんなよ。》


とだけ、メールが来ていた。変えても東先輩あたりから、バレると思う。



子猫は東先輩が飼っているらしい。あんなに引っ掻かれてたのに、大丈夫なのかよ。



「で、何故オレんトコロに来てんだ?」



「有野先生のおかげで、ロス行きの話も知った訳だし。報告しに。」



「汗臭いんだよ。シャワーあんだろ、シャワー。」



「青春の汗っすよ。先生は好きな人いねぇの?」



「舞原華。」



日本語なのに、違う言葉かの様に聞こえた。つまり、聞きたくない、いや、聞こえたくなかった。



「…マジ?」



「こんくらいで動揺してどうすんだよ。余裕を見せろ、余裕を。」


こんくらいって、もっと試練があるってことか?



「早く帰って宿題でもしろ。夏休みもあと少しだろ?くれぐれも大どんでん返しがない様にな。」



有野は、意味有り気な顔をして、シッシと手を振った。



「余裕か。」



無意識に呟いた。

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