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スクリーム

今日も未来は縄で緩くオレを結ぶ。痕がつかない程度まで絞めるんだ。



「今日は何がしたい?」



オレの体を未来の細くて綺麗な指がはう。



「気持ち良いこと?それとも…。」



ブチッ。オレは縄を自力でひきちぎった。



「なぁ。もう限界だよ。最初に浮気したオレが悪かったけど、今はしねぇだろ?」



「また女のところに行くのね?だから、私が邪魔なんでしょう?」


「未来ちゃんと聞いて?オレは、未来だけだよ。でも、恋人を縛るなんておかしいだろ。」



未来も俺もかすかに震えていた。



「よっしーを好きだった私を無理矢理抱いたのはキヨの方じゃない!別れるなんて許さない!!」


「うるせぇ。オレをバカにしたお前が悪い。だからこうやって責任取ったじゃねぇか!」


どんどん崩れていく。楽しかった思い出も、未来の綺麗すぎる笑顔も。最初からオレ達は、終わっていた。



「キヨごめんね。私…私。」



「オレが全部悪いんだよ。別れるなんて言って…悪かった。」



「じゃあ今日は私の全身にキスして?」



「ん。分かった。」



また縄で縛られる。まるで囚人。オレは未来の道具。





土砂降りの雨の中、キヨが家に来た。母さんが慌ててタオルを貸した。キヨはいつもの調子がなくて、無表情に『今夜泊めて』と言った。



「キヨ。その手首の痕どうした?」



「おっかしいなぁ。いつもは退いていい頃なんだぜ?」



「縛るとかってマジだったんだな。悪いけど、俺かなりショック。まさかお前らが。」



キヨは壁にもたれてそのままズルズルと座った。



「みきや知ってた?未来の本気で好きだったヤツ。」



「あー。さすがにあんだけアピられたら、俺でも分かってたよ。」


「しかも、両想いだったよな。幹也は、あん時はまだ恋に臆病だったけど。」



昔の話をしても意味ない。俺は、今が重要だと思う。



「もう前の話するなよ。今肝心なのはその手首の痕の話だろ?」



「俺、未来の初めてを無理矢理奪ったんだよ。未来を振り向かせたくて、気がつけば、全てがぐちゃぐちゃだった。」



「付き合ったばっかの時すぐに、キヨの誕生日が来ただろ?あん時さー、桜のヤツ必死に色んなヤツに、キヨの好み聞いてたんだぜ。」



「ウ…ソだ。」



「あのネックレス、お揃いって知ってたか?」



今も肩身離さずキヨはしている。シンプルなシルバーネックレス。だんだんと未来は、キヨが好きになりかけていた。キヨは、タイミングが少しずれただけだ。世間ではホニャ…イプと言うが…。



「オレ自暴自棄になってたんだよ。自分が嫌で、浮気しちまった。」


「うっ。耳が痛い話だ。で、何で縛られるんだよ。」



「怖いんじゃねーのかな。オレがまた乱暴になるんじゃねーか…って。オレの自業自得だけど。」



怖い…か。俺の場合真逆で、華に安心されすぎてる気がする。ってか今、キヨがクスっと笑わなかったか?



「今はガマンできるんだろ?」



「オレは幹也と違って、まだまだ真っ盛りだから。」



「どーゆー意味だ!」


「そのままだよん。」


「って、時と場合によっては、ガマンしないといけねぇだろ!」



キヨが床に寝転んだ。


「さてはて、それはどうかな?」



「はぁ?」



「男は強引にいかねーと。」



キヨの言いたい事も分からなくはない。いわゆる肉食系ってやつだろ。うーん。ワイルドな男ってうらやましい。



「なぁ。修学旅行みてーだな。」



「ぷっ。キヨどうしたんだよ?そんなに好きなのか?」



「あー!未来が好きだー!」



「ここ山じゃねぇし。」



無表情のキヨがいつものお気楽キャラに戻った。キヨが前もって何も言わずに泊まりに来たのはこれで2度目だ。



「花火大会誘えよ。俺は華と行くんだー。良いだろ?」



「花火大会か。オレこう見えて、人ごみ苦手なんだよな。」



「ちょっと違う場所で見れば良いだろ?」



「穴場ってヤツ?穴場って意外と集まるんだよな。」



「だーっ!もう知らねーよ。」



「オレは打ち上げ花火より、二人きりで風鈴の下で線香花火したい派。」



線香花火って寂しくねぇか?せめて、バァーって明るいヤツがいい。



「キヨの柄に合わねぇな。」



「静かな花火も情緒があっていとをかし。」


「古典苦手なんだよ。しみじみと趣き深いだったっけな?」



「そ。たまには、幹也もムードを大切にしたら?舞原ちゃん惚れなおすぜ。」



俺はふと、外の雨を眺めた。



「人の受け売りは受け付けねぇよ。」



キヨと俺は顔を見合わせて笑った。男ならポリシーを持っていたい。人に流されるのは簡単だけど、自分を持つのは大切な事だと思うんだ。



最後のゲームは明日だ。まだ、最後って事しか聞かされてない。勝って、立川先輩の本音が聞きたい。そう思った。




目が覚めるとキヨはいなかった。



【今度は俺んち泊まりに来いよ】



メモ帳に筆圧の高い字で書いていた。



文字まで苦しんでる様に見えた。俺、何もできねぇじゃん。玄関で無表情なキヨを見た時、思わず後退りしてしまった。4年の付き合いなのに、キヨは意地っ張りなところがあるから、弱みなんてなかなか見せない。



本当は気づいてた。俺を敵視したり、利用してる事も。桜と付き合うって聞いた時、正直、殴りたくなった。俺が失恋したばっかだったから、両想いでも踏み出せないって知ってて、キヨは…。



ちょうど、華からメールが来た。



【今日逢える?】



ラストゲームは今夜。俺は華にイエスのメールを打った。



『幹也くんは自分を犠牲にして、他の人の事ばっかり考えるよね。』といつか、光に言われた。そん時は、他のヤツの事ばかりなんて考えるワケないと思った。



でも今は、立川先輩やキヨや、雪の事を馬鹿みたいに心配している。余裕のある人は周りが見えるなんて嘘だ。自分に精一杯な俺が、こんなに気づけるんだから、みんな見てみぬふりをしているだけだと思った。



俺にとってのハッピーエンドが、他の誰かをバッドエンドにするかも知れない。

誰かの助けが、ただのホラーな叫びに聞こえる場合もある。



「お兄ちゃーん!光ちゃんが大変!」



頼む。これ以上問題を増やさないくれ。

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