心とカラダの成長期
体育は俺たちにとってのオアシス。梅雨の今は男女共に体育館なわけで。
「坂木の胸揺れてね?」
「赤井美脚ー。」
「桜ナイスバディーだな。」
そこで鈍い音が響いた。
「オレの彼女を変な目で見ないでくれるー?想像すんのもヤメロな。」
犯人はキヨだ。そこまで自分の彼女を独占するのはある意味うらやましい。そして他のヤツらは桜を盗み見ていたりする。
高1にしてあれだけのプロポーションなら誰だって一度は…。俺に手をふる華を発見した。おいおい試合中によそ見はヤバいでしょ。
「華危ない!」
俺もいっちょ彼氏らしいことやりますか。
バシッと華の顔面命中しそうなバレーボールをはね返した。ヒューとかキャーとか野次が飛ぶ。
「幹也君ありがとう。」
「当たり前だし。」
「何が当たり前だ!ガキのクセにかっこつけやがって!吉井は正座しとけ。」
はぁ。体育教師め。今時体罰だぜ。
俺はキヨたちの元に帰り、バカ笑いされながら正座した。
「でもさ、舞原チャン狙われてなかった?」
「オレも見た見た。」
俺以外の周りのヤツらも見たとか言ってる。
「はぁ?んなワケねぇし。だとしたらイジメじゃん。」
シンと静まる。ちょうどホイッスルが鳴り、試合が終わった。
「まぁ気のせいかもしれねぇし。余計なこと言って悪かったな幹也。」
キヨにポンと肩を叩かれた。もしも俺と付き合うことで華に何かあるなら、絶対許さない。一度のコトだしただの偶然だよな。
幸せの体育が重苦しくて仕方なかった。
その日部活が遅くなるから先に帰ってもらった。女の子を遅くに帰したくなかったし、避けてるとかそんなんじゃねぇ。そんなんじゃねぇんだ。
一人の帰り道はマイナスなことばかり頭に浮かんで、胸が苦しかった。
ガチャ
「ただいまー。」
玄関に見慣れない靴がチラホラ。しかも男モノばかり。
ドタドタと俺は二階にあがった。俺の部屋のドアが少し開いてる。
「不法侵入!警察よぶぞ。」
光がパソコンいじっていた。光だけなら日常茶飯事だけど、まさか友達まで連れ込むとは。
「幹也くんおかえりー。僕のパソコン壊れてさ。」
「んな事聞いてねーだろ。てか誰ソイツ。」
見た目好青年だけど、光の友達だけあってなんか胡散臭い。
「あ、こんばんは。勝手にお邪魔しちゃってすいません。ぼく舞原 樹です。」
神様嘘だと言って。よく見るとただのヤンキーだ。
「あ!お兄ちゃん、樹くん私の彼なの。」
そして妹は舞原弟に抱きついた。これは光の仕業?ちらっと光を見たら満面の笑みしてますねー。
「俺、絶対反対だからな!不在の人の部屋に入るな。今すぐでていけ。」
「あのお兄さんぼくは!」
「お兄さんはお兄さんでも違うんだよ!あーまどろっこしい。」
俺はテンパっていた。華と結婚して樹が義弟になるなら良くて、雪と樹が結婚しての義弟になるのは猛反対って言いたかった。
「ごめんねー。幹也くん今こんがらがってるから、帰ろうか。」
「雪のお兄さんってシスコンって聞いたけど、ここまでなんてね。ぼくもシスコンだけど負けるよ。」
「樹くん私の事嫌いになった?」
「まさか!」
パタンと部屋のドアが閉まり、三人の会話が遠ざかる。俺はベッドに寝転んだ。今日は波乱の1日だった。ただ言えるのは、舞原弟の出会いは最悪だった。
電話しようかなー。瞼が重くなり、目を閉じた。
目が覚めると、携帯の光が点滅していた。華からメールがきていた。まだ朝方の2時だから、俺は目を閉じた。
目覚まし時計をとめ、俺は歯を磨きながらある事に気付いた。樹はもしかすると従兄弟とか、華とは全然関係ないかも知れない。そうだよな!俺名前に敏感すぎんだよ。
「あ、おはようございます!」
俺はブハッと歯磨きの泡を吹き出した。その声の主はここいるはずのない舞原樹だった。これが華ならどんなに嬉しいか。
「また不法侵入か!」
「樹くんには私が準備する間あがってもらってるの!お兄ちゃん洗面所独占しないでよ。」
「驚かしてすいません。玄関でいいって言ったんですが。」
あー。この完璧な標準語ムカつく。俺は無視してリビングに向かった。なぁにが、「~ですが」だ。おまえは文法の専門家か!いかにも頭いいんです的な顔しやがって。認めないっつってんのに。
「あら、おはよう。幹也珍しく早いわね。朝からイケメン見たら母さん幸せでねー。」
「はよ。いつもとあんま変わんねぇよ。イケメンは毎日ここにいんだろ。」
食パンをかじりながらぼやく。もちろんイケメンとか冗談。
「自分で言うあたりまだまだね。彼女にそんなことばっか言わないのよ?」
「はぁ?」
「光くんに聞いたわよ。」
「全くプライバシーの侵害だ。朝からどいつもこいつも~。」
「樹くんはやっぱり言葉遣いから違うわよね。」
「すいませんね。俺そろそろ行きますから。」
ったく。樹に聞くのは悔しいから華に聞くことにした。
いつもより早く学校に着いた俺は、教室に入るなり2・3人でだべる華に話しかけた。
「ちょっと話があるんだけど。」
「…なに?」
華の手をひいて渡り廊下に移動した。二階の渡り廊下はカップルの憩いの場で、朝イチは誰もいなかった。
「あのさ。」
「幹也君、私に何か言うことない?」
これは…もしかしなくても華さんキレてます。
「な、何怒ってんだよ。」
「聞きたい事あるなら私が怒ってる理由見つけてからね。それまで会話禁止だから。」
フンッと俺を通り過ぎて教室に戻る愛しい彼女。 まさか、もっと言葉で愛情を表現して。とか?いやいや、俺意外と言いまくりだよな。
パカッと携帯を開く。そこにはメール一件の表示。紛れもなく華からのメール。内容を見て俺は走り出した。
そして廊下の窓から外を見ている華を見つけた。
「はなっ!」
「分かった?」
「デート!今週の日曜大丈夫だから。」
廊下で大声であり得ないけど、俺は必死だった。
「幹也君全然デートに誘ってくれないんだもん。普通最初は男の子から誘うんだよ?だから精一杯メールしたのに、の・に!」
「ごめん。俺あんまべったりすんの好きじゃねぇんだ。けど華がそんなに悩んでたなんて、ちゃんとしたデート行こうな。」
その瞬間、華の目から涙がぶわっとあふれた。
「もう、もうやだ!別れる~。」
「は?意味分かんねぇ。」
そんな騒ぎだから周りには野次馬だらけ。
「幹也ちょっと来い。」
「華、落ち着いて。」
俺はキヨに呼ばれ、華は友達になだめられた。
男便で俺は説教?をくらっていた。
「鈍いのにもほどがあるぜ。べったりしたくないなんて、本人の前では言わないもんだぞ。しかも、デートとか『誘いまくって最後まで』ってゆうだろ?」
キヨが先生に見える。どーせ、経験少ないですよ。しかも『誘いまくって最後まで』って初めて聞いた。
「分かってるよ。アイツやっぱ少女漫画に夢見すぎなんだよ。ちょい疲れてきた。」
俺の言葉にキヨがため息をつく。
「それを含んで舞原チャンが好きなんだろ?みんな言わなかったけど、付き合ってるってバレた日ヤバかったんだぜ。」
「ヤバいって何が?」
「舞原チャンの呼び出しだよ。今はだいぶ収まったけど男なら好きな女守れよ。有野先生が守ってたみたいだぜ?よく分かんねぇけど。」
まだまだ俺はガキなんだよ。キヨとか有野とかみたいにはなれない。
人の気持ちってすぐ冷める。けど、今回は違った。
俺はあるドアをコンコンコンとノックした。
「どうぞ。」
「失礼します。」
「そろそろ来ると思ったよ。」
「作文書いてきただけっスよ。」
有野はデスク用の眼鏡を置いた。そして作文なんていつも持ってない。
「なんてちょっとかっこつけただけ。舞原のことは吉井に任せてるからね。」
先生の鋭い眼力で一瞬怯みそうになった。だけど逃げたくない。俺も睨む。
「華って呼ばないんスか?それともやっと自分の立場に気付いたとか。」
「調子に乗るなよ。好きな女も守ってやれないガキが彼氏ぶるな。」
「誰にでも知られたくねぇことはあるんだよ。俺が言うのはナンだけど、カッコ悪いとこ好きなヤツには見せたくねーから。」
「男と女は違う。そして、本音と建前もな?最近のガキは文学を読まないから知識が足りないな。この本読んでまた作文を持って来い。」
ぽいっと本を投げられた。避けたい衝動にかられたが、反射的に受け止めた。
「…はい。先生に聞いてもらって少し分かったよ。」
「小便臭さが残るから早く出ていけ。」
「言われなくても行くから!」ガチャン
本なんて久しぶりだ。漫画なら読むけど。漫画と言えば華に借りっぱなしだ。
有野は本気で華を好きなんだ。華は何で俺を好きになったんだろう。あー考えるだけで会いたくなって来た。ケンカしてもやっぱ好きなんだよなぁ。
好き好き言いすぎだし。好きっていつも感じ方違う。キュンとかキューとかズキッとか心臓に一々突き刺さってくる。俺だけじゃねぇのか?って苦しむと、相手の表情も辛そうだったりするから、この気持ちは平等なんだ。
さてさて、どう謝るかなー。
この場合、直で言うしか無いだろ。が、しかし。学校中探しても華はいなかった。
帰る途中、俺は見た。妹が両手に男ではないか。だけど、いつもみたく乱入する勢いもなく。片方は光だし。片方は…樹かー。何か俺帰宅拒否しようかな。
近くの公園に入った。時間的にちびっこはいなかった。ただし、カップルだらけ。
うわっ!あんなことしちゃってるよ。まるで発情期の猫だな。
「幹也ー。」
イチャイチャカップルの友達いねーし。
いた。
「キヨか。」
「よっしーちゃんと華ちゃんに謝った方がいいよ!」
「うるせっ。もう俺行くわ。」
桜とキヨはラブラブだな。この間までしばるだの言ってたのによ。石を蹴りながら公園を後にした。
あーあ。俺のべったりってあの公園のカップルみたいなイメージなんだよな。やっぱ公園とか外ではムリ。でも家には、受験生の妹と幼なじみの光がいるからいちゃつけない。逆に妹はすぐ彼氏家に入れるんだよな。必然的に邪魔するけど。
家の前で何やら、樹が急いでいた。
雪がわがまま言ってる。またまた、近所迷惑だっつうの。
「なーにしてんだ!」
「お兄さん。実はウチの姉ちゃんが高熱で、今すぐ帰らないといけないんです。」
「私も行くー。お粥作るから!」
樹の腕をひく雪に、拳骨を一発。
「雪のお粥食べたら、ハラ壊すだろ?俺のチャリ貸すから樹くん気をつけてな。」
雪は俺の拳骨には弱い。滅多に叩かないから黙りこんだ。
一礼して樹は姉の元に帰った。
「雪、光にチャリ借りるって言っといて!」
「…はーい。」
雪トーン低ッ。俺は樹の後を追った。つか光のチャリ高い。ちょうど信号機赤になる。
「樹くん!」
めっちゃ貧乏ゆすりしてるよ。もしかすると彼も極度のシスコン?
「どうかしましたか?チャリ必要になったとか。」
樹から貧乏ゆすり消えた!好青年に早変わり。でも、余裕の無さが伝わる。
「あー、実は華さんと付き合ってんだ。華は君のお姉さんだよな?」
「マジかよ。はぁ。オマエが姉貴の彼氏とかあり得ないから。まさか、着いて来たいとか思っちゃったりした?絶対教えねーよ。ばーか。」
「テメェ、猫かぶってやがったなぁ。こっちこそ雪のこと認めてねぇし。バカっつー方がバカなんだよ!自力で行けるわ。」
「俺の後着けたらストーカ扱いするからよ。せいぜい頑張るんだな!」
信号機が青になった瞬間、ヤツは俺のチャリで走り去った。あの表情、雪に見せたら一気に恋が冷めるぜ。
といいますか、お見舞いくらい、いいだろ?俺ももうちょい大人な発言しねぇとなぁ。結局この日は家に帰った俺だった。
「幹也!雪には手をあげないって約束したでしょ!」
「うるせぇな。もーほっといてくれよ。」
玄関に入るなり母さんの説教。雪は甘えんの上手すぎなんだよ。ふん。俺悪くねぇし。
今日は何人とケンカしたんだったか。まず、華を泣かせ、有野は微妙、雪は殴って、樹は言い合い。一つ言えんのは、イッチャン最低なのは俺だってことだけ。
「だぁあ!もう面倒臭いんだよ。」
そして、うるさいと父さんに叱られた。