セカンドゲームと行き過ぎた恋
いかにも、青春ドラマに出そうな倉庫。東先輩が次のゲームに使って良いと貸してくれた。
「よしっちー。こんなとこで、怪しい取引きでもする気ー?」
「違います。宝探しゲームしましょう。」
ふざけて笑っていた先輩が眉を潜めた。
「宝探しゲーム?」
「この倉庫の中にある紙を隠してます。ただし、小さな箱に入ってますから分かりやすいと思います。」
「やけに敬語が丁寧だな。もう、ゲームはスタートしてるってことねー?」
たくさんの棚に段ボールが重なっている。少し埃っぽいけど、そんな事言っている場合じゃない。先輩は探し始めた。
「こんなところよく借りれたねー?竜ちゃんに借りたんでしょ?」
「秘密です。」
「見ーっけ!簡単じゃん。」
立川先輩は赤い箱を開け、中の黒い紙を開けた。
【私は誰でしょう。人を守りたいと強く思います。】
「まさか、この紙をまだ見つけろって言わないよねー?」
「その通りです。でも、先輩がその人が分かったら先輩の勝ち。最後の一枚を見ても分からないなら、俺の勝ちってゲームです。」
「へー。なかなかの策士だねー?【私】は勇気でしょ。」
「違います。」
先輩はフッと笑って、また段ボールのある棚に戻った。
青い箱の中には、黒い紙に白の文字で。
【私は誰でしょう。あなたと話すのが好きです。】
「違う。」
「何が違うんですか?本当は気づいてるんですよね?最初から。」
黄色の箱には、黒い紙に。
【私は誰でしょう。あなたにいつも勇気を貰えます。】
白い箱の中には。
【私は誰でしょう。気づいてる?凛。私だよ。】
「…椿。」
「最初紙を開いた瞬間、文字で気づいてましたね。」
「【好き】なんて書くなよー。バカなカップルだなー。」
先輩は大事そうに紙をたたんで元に戻した。
「本当は【私】は誰だったと思いますか?」
「あー。そういう事ねー。オレには言えない言葉だねー。」
「負けになりますよ?」
「いいよ。竜ちゃんいるんだろー?」
入り口から東先輩が出て来た。心配して見に来たらしい。
「凛、【私】は【愛】だ。」
「ダメだねー。他の人に協力してもらったらペナルティーだよ?よしっち。」
全ては立川先輩のためだった。
「二人で、オレを笑わせてー?そうだなー。漫才とかー。」
「漫才っすか?」
「悪いが、とても吉井とは…。」
「何で真っ青なんすか!?失礼っすね!」
立川先輩が笑い出した。
「二人はナチュラル漫才だよねー。しかも愛って話せないよー?バカだねー。」
「凛、例えばの話だろう?まぁ、吉井が考えたのだが。」
「えー!?俺のせいっすか?」
セカンドゲームは、俺の反則負けになってしまった。立川先輩が嬉しそうで良かった。って俺、最近立川先輩の事ばっか考えすぎだから!俺は、華に会いに行くことにした。
ちょうど、華の家から樹が出て来た。
「おー、樹じゃねぇか!華はいるか?」
「元お兄さんこんにちは。いたとしても、いないです。」
「それって絶対いるよな。」
樹がじーっと俺の顔を見た。そして、わざとらしいため息をついた。
「何だよ。」
「何でもないでーす。僕は勉強に忙しいんで、(永遠に)さようならー。」
「元気出せよ。ファイト樹!」
ガチャっと玄関から華が出て来た。
「みきや来てくれたんだ!入って入ってー。」
「お、おう。元気だな。」
「もうすぐ花火大会だねー!」
華の部屋には浴衣が立て掛けてあった。深いワイン色で蝶々が舞っている柄だ。
「すげぇ。綺麗だな。」
「お母さんのおさがりなの。ちょっと、大人っぽすぎるかも。」
「最近、綺麗になったから…似合うと思うぜ?」
やべぇ。柄にも無いセリフ言ったから、顔があちー。華の顔見れねぇな。
「ありがと。みきやも甚平着てくれる?」
「甚平あったかなー。まぁ、気が向いたらな。」
「みきや…こっち向いて?」
華が飛び込んできた。ちょっとぐらつく。
「おっと。綺麗になったって言ったばっかなのに、まだまだ子供だな。」
「まだ大人になりたくないよ。でも、みきやとなら…。」
「は…な…。」
そこで、勢い良く襖が開いた。
「忘れ物した!」
「やっぱりお約束なー。」
「樹!勝手に入らないで!部屋は隣でしょ!」
シスコンは健在ってか。俺も人の事言えねぇけどな。花火大会かぁ。花火をバックに…いいねぇ。
「エロオヤジ!にやけんな!」
「こらっ!樹ったら。」
「樹め。言い逃げしやがったな。よし!続きしよっか?」
「姉ちゃん、おやつ。」
「弦ちゃん待っててねー?」
もう一人いたんだった。弟その2。アイツも確信犯だな。結局この日はキスは、オアズケだった。弟くん邪魔しないでくれよー!俺は心の中で叫んだ。
「だっ…めだよ。」
「はぁっ。ちょっと…ナメるだけだから。」
建物と建物の間から怪しげな声が聞こえた。外で何してんだよ。うわっ。胸まさぐっ。うーわ!
「マサっ!マサのぉ…部屋がぁ…いいっ。」
マサ?まさかな。
「はぁっはぁっ。雪…綺麗だよ。」
「ちょーっと待った!人の妹に外で何しとんじゃー!!」
俺はマサの頭を一発殴った。慌てて雪がシャツを直す。
「すっ。すいませんでしたぁ!」
ひとまず、俺の部屋に入れた。二人は正座。
「私悪くないもーん。マサの事好きだしー。お兄ちゃん全然最近かまってくれないし。」
「雪…あやまって。」
「よく分かった。お前なんてもう妹じゃねぇから。何処へでも行けよ。早く出てけ!」
「っ!お兄ちゃんなんて、だいっきらい!」
「ちょっと言い過ぎじゃないっすか?雪!待てよ!」
二人が出て行った部屋はシンとしていた。雪があんなことするなんて。絶対雪から誘惑したはずだ。わざとあんなミニスカはかれたら誰でも、ヤリたいと思うはず。
「…どうすりゃいいんだよ。」
マサは、思ったより男らしいみたいだ。追いかけるって意外とできない。雪の口から、俺が相手してくれないなんて初めて聞いた。嫌われてるもんだとばかり思ってたんだ。
どんどん成長する妹に戸惑う俺がいる。感覚は華はまだ幼稚園児のままみたいなのに。まるで、親の心境だな。なんだか笑えた。
「雪!」
オレは雪の腕を掴んだ。このまま、どこかへ行ってしまいそうで怖かった。
「私本当は、わざと誘ってたの。」
「オレ、エロい雪も好きだ。」
真っ直ぐ見つめたら、雪はオレに抱きついた。
「どうしよう。お兄ちゃんあんなに…怒らせちゃっ…ふぇっ。」
「大丈夫だよ。幹也さんは、雪を本気でっ…心配して…くれたんだ。」
「ぐすっ。何でっ…マサまでっ…泣くのー?」
「雪がっ…泣いたらっ、オレもっ…悲しいー。ぶぇー!」
オレ達は泣いてばかりだ。それでも、一緒にいるのは悲しみをわけあってるからだと思う。それに泣いた後はラブラブだしな。
「お互いに鼻水ついちゃったね。」
「家まで送るよ。」
幹也さんは家の前で心配そうに立ってた。頭をかきながら「ゴメン」なんて言っていた。雪が抱きついたの見てちょっと妬けたけど、何も言わずに立ち去る事にした。さすがに、一緒に泣かないようにしないとな。オレは密かに決意した。