道端でキス
トン…カタンカタンカタン。
「で、幹也くんオセロ全然知らないのに、勝負するんだ?」
「いつの間に白に染まった!」
「幹也くんルール聞いてた?」
実際にはオセロで勝負ってワケじゃないけど、立川先輩のゲームのヒントが分かるかも知れない。けど、何でひっくり返すんだ?
「だからー、僕のこの白を黒で挟むと色が…間にある白が黒に変わるの。」
「ひどいルールだな。」
「ただのゲームなのに、さっきから真剣に考えすぎだよ。しかめっ面してさ、何かあるだろ?」
鋭い。それにしても俺をひっくり返すって、逆立ちにさせる気か?
「なぁ。人をひっくり返すって何だと思う?」
「それは、幹也くんが想像してる逆立ちとかじゃないだろうね。」
「逆立ちなんて考えねぇし。ただのバカじゃん。」
光はカドをとった。ほぼ白に染まった。
「うん。そうだね。どっちかっていうと、僕なら土下座させるかな。」
「意味分かんねぇよ。つーか、光に聞いた俺がバカだったし。」
「今のままじゃ、このゲームには勝てないよ。じっくり教えてあげよう。」
「勉強詰め込みすぎて、おかしくなったか?」
「僕のこつその1…。」
「最初からズルかよ!」
「はぁーあ。正々堂々勝負するバカは、幹也くんくらいだよ。」
確かに、隠し技とかって意味相手にはできないから、ある意味じゃズルかもな。
その日俺たちはオセロで徹夜した。仕事で忙しい光のおばさんが、お菓子とか持って来てくれて、光も嬉しそうだった。おばさんも仕事があって徹夜だったらしかった。
「幹也くん絶対勝ってよ。勝たなかったら罰ゲームね。」
「勝つよ。つか、まだ何するかよく分かんねぇけど。」
「はいー?それじゃあオセロは何だったんだよ。」
「シミュレーション?」
3秒後、光にヘッドロックかけられたのは言うまでもなかった。
ヤベー。寝てた。しかも光んちだし。今何時?
「お兄ちゃん!部屋に華さんと不審な男が待ってるよ。」
「はぁ!?何で不審な男を入れんだよ!」
俺は慌てて俺んちに戻った。バタバタと部屋に行くと…。
「何で立川先輩までいるんですか!?」
「みきや聞いてよ!パー先輩脅してくるんだよ!」
「よしっち遅いー。」
何だこの図は。
「俺の部屋でくっつくな!華ー?何触らせてんのかな?」
「みきや違うの!良く見て!腕で首しめられてるだけだから!」
「そうそう。このチビちゃん目の前で、チョロチョロ目障りだからさー。」
どう見ても、誰が見ても…。
「お似合いカップルだね。」
「光ー。お前がいつ来たかは、この際どうでもいいや。それ言わないでな?」
ここは、先輩だとか関係ねぇ。
「離して下さい。俺の彼女に触るな。」
俺は立川先輩の腕を掴んだ。すると立川先輩はニッコリと笑った。
「どうしようかなー?飽きてきたしーもういいやー。」
「あなた幹也くんの何なんですか?幹也くんをいじっていいのは、この僕だけでいいんです。」
「なんでー?オレ気に入ったんだもーん。君に関係無いよねー。」
つかこの部屋むさ苦しい。華がいるからまだ良いけど、良くないだろ。女の子一人は良くないだろ。
「みきや、さっき嬉しかった。ありがとう。」
「俺につかまっとけ。」
「うん。」
腕にしがみつく華。立川先輩と光の言い争いとかどうでもいいや。俺、今幸せ。
「ちょっと、幹也くんこんな人家に入れないでよ!」
「君の家じゃないよねー?生意気なガーキーが!」
「ガキ?あぁ。あなた自身の事ですね。」
光の目がすわってる。こりゃキレたな。
「はいはい。二人とも、犬猿の仲なのは分かったから。」
「今日は私が優先なんで、パー先輩は帰って下さい!」
俺二股してるみてぇじゃん。華と立川先輩?立川先輩男だろが!
「じゃあ、夜あいてるよねー?」
「夜は僕と予定があります!」
「みきや…光くんと夜何してるの?」
「ゲームだよ。ちょっ、光!変な言い方するな!」
『幹也はある意味男にモテる』というキヨの迷言が頭によぎる。
「俺は華だけだ!行くぞ。」
華の手を引いて部屋を出た。
「手…痛い。」
「ごめっ。」
離そうとすると、キュッと華が手を握った。小さくて柔らかい指が気持ちい。
「ゆっくり歩こう?」
「何かバタバタして悪いな。」
「ううん。何かスリルがあって楽しい!映画みたい!」
髪を切って雰囲気が変わった華は、可愛かった笑顔が綺麗になった気がする。さっき、立川先輩が華を後ろから抱きしめてるように見えてめちゃくちゃやけた。
「わっ!みきやどうしたの?」
「あんま、ヤキモチ妬かせんな。」
俺は、道端で抱きしめた。人が通り過ぎたけど、ガキが冷やかしたけど今は気にならない。少し前まで、人前じゃ無理だとか思ってたけど関係ない。
きゅうっと俺に抱きつく華。
「私も、最近かまってもらえなかったから、寂しかった。」
「ん。キスしてぇなー。」
「もう。ちゃんと聞いてた?」
俺は華の耳たぶにそっとキスした。
「聞いてたよ。」
しばらく華は固まっていて、俺は思わず笑った。
髪が短くても長くても、寂しがりやでも照れ屋でも、そんなキミが好き。好きすぎて、もっと触れていたい。
「よしっち遅いなー。」
「何で僕の家に、地球外生命体がいるの。」
「ふーんふん。」
「ニャン。」
僕は猫が苦手だ。別に引っ掻かれたからとかじゃないよ?まぁ、それは2割だけどね。
「ちょっと近づけないでよ!うーわー!」
「肉きゅうパンチー。」
鼻にふにゅっとした感覚。ナニコレ…気持ち…。うわっ。爪がはえてる。
「どけろ!幹也くんが帰るまで静かにしててよ!」
地球外生命体は、やはり怖かった。