ゲームスタート
立川先輩を睨む華。立川先輩は余裕で鼻歌を歌う。
「みきやにはそんな趣味ありません!」
「誰も恋愛感情って言ってないでしょー?コケシちゃーん。」
何でこうなってしまったと言うと、数分前にさかのぼる。
俺は部活が終わり、華と『さあ帰ろう』としていた。
「みっきー。一緒に帰ろうぜ?」
キヨが走って来たところまではいつもと同じだった。
「オレもー。」
「立川先輩!?何でいるんスか?」
「よしっちの事気に入ったんだよねー。」
俺を隠すように華が先輩の前に立ちはだかった。
「それはそのままの意味ですか?」
「んー?誰このコケシ。」
「凛先輩…。コケシじゃないっすよ。舞原チャンは幹也の彼女です。」
「じゃあ、ライバルだなー。」
普通に言いはなった一言に俺たちはフリーズした。
そして、一番先に我に帰った華が冒頭の言葉を言った。
「夏にパーカー来てる人にコケシなんて言われたくないデス。」
「フードにお菓子とか入るから便利なんだよ?コケシちゃーん。」
この奇妙な言い争いは何だ?キヨなんか先に歩いてる。俺とめるべきだよな。ってか、すっげぇ仲良しのカップルっぽく見えて来た。ヤベー。変なヤキモチやいてるよ俺。
「ぜっっったい!だーめーでーす!」
「コケシちゃんには言ってないでしょー?よしっち今日1日付き合ってー?」
「パー先輩はみきやの何なんですか!?」
「華。パーは言い過ぎだから。先輩も、華は最近髪切ったばかりなんであんまり言わないで下さいよ。」
「コケシちゃんって言わないかわりに、オレに付き合え。」
この凄まじい迫力!脱力系が迫力系になってる。
「あー。1日くらいいいっすよ。」
「私とのデートは?」
「彼女の事悪く思われたくねぇだろ?」
「みき…や。」
「はいはーい。よしっち行こうか。バイバーイ、コケシちゃん。」
「引っ張らないでくださいよ!しかも最初っからコケシ言ってるし!」
こうして立川先輩に強引に引っ張っていかれた。
電車を乗り継いで、都心に着いた。
「先輩どこまで行くんすか?」
「どこだろうねー?」
高層ビルが並ぶ場所までズンズン進んで行く立川先輩。
一番高いビルの前で止まる。そして入って行った。
「え…マジ?」
俺着いてっていいのかよ。と不安になった。急いで先輩を追った。
「おかえりなさいませ。凛お坊っちゃま。」
受付嬢が頭を下げた。立川先輩が静かに近づく。
「誰が言わせた?お袋か?オレが来てもスルーしろって言ってるだろ!」
「申し訳ありませんでした。」
「今度お坊っちゃまなんてフザケたら、ク・ビだ。」
あの立川先輩が、社長の息子!?いや、最近ドラマとかの見すぎだ。こんな夢みるなんて。
「よしっち行こーか。」
エレベーターに乗る。オッサンたちが頭を下げた。これが縦社会。…実感した。
「驚いたー?これが俺に友達ができない理由。」
「うらやましいですよ!すっげぇ!」
そして凛先輩は屋上に連れて行ってくれた。
「吉井みたいな反応初めてだ。ほとんど怖じけづいて、急に敬語使うヤツもいるんだぜ?」
「あちー!暑くないっすか?俺そういう計算とかしませんから。」
「オレさー。暑さ感じないんだよねー。」
「え?」
隣を見ると涼しげな顔をしていた。
「ウッソー。引っかかったー?」
立川先輩はフェンス越しに町を眺めている。俺は日陰に立っていた。
「この景色を見てどう思うー?」
「全部ちっこいなって思います。」
「ぶっ!ハハッ。オレなら考えない答えだなー。大抵、綺麗か、飛びたいって思うだろー?」
「俺には分かりません。飛びたいって何すか?」
「その瞬間、鳥になるんだよ。」
俺は先輩が空を見上げる姿が、あまりにも絵になって切なくなった。
「よーっし!美味しいレストランあるんだけど行こーか?」
「高くないんすか?」
「今日だけは奢るよ。」
その笑顔が今にも崩れそうで怖かった。
フレンチレストランのマナーなんてさっぱりで、恥ずかしかったけど、先輩はゆっくり教えてくれた。
「ダメだよー。女の子連れて来た時恥じかくから教えてあげよう。」
裏庭で昼寝するような人が英才教育を受けてたなんて、人は見かけによらない。
「よしっちなら、信じられる気がする。友達になってよ。」
「先輩は先輩じゃないっすか。」
「まー、今のところはねー。」
正直、先輩がセレブだって事を教えてくれて嬉しいのもある。
でも、なんか嫌な予感がしてたまらない。こういう勘は意外と当たるんだ。立川凛先輩には要注意だ。
「オセロって知ってるー?両側を挟んだら反対の色に変わるゲーム。」
電車で立川先輩が急に言い出した。
「知ってますけど。」
「人も同じでねー。すぐに、正反対に変われるんだよー。君のオレへの疑いもすぐに、変えちゃうから。ねー?」
「立川先輩とまだ付き合いは薄いじゃないっすか。これからですよ。」
「オッケー。ゲームスタートだねー。」
この人は、人との付き合いをゲームとしてしか考えられないんだ。あんなに尊敬していたキヨは、気づいてるはずだ。確か、立川先輩に傷つかないで欲しいってキヨは言っていた。
「ゲームでも何でも受けてたちますよ!」
俺は負けない。先輩に人のつながりの良さを気づいて欲しいから。
そして、立川先輩はうっすらと笑った。