図書室と立川凛
「クリーン出て来いやー!」
「マウスどついたるー!」
罵声が教室まで聞こえてくる。クリーンはキヨの清いからで、マウスは幹也のミッキーからマウスなわけだ。まぁ、キヨのヤンキー時代俺も何回か加勢したけど、キヨは首を横に降る。つまり、覚えがないらしい。
ボコボコにした覚えはあるが、一年以上前の話。20人弱は校門にいる。先生が注意していた。
俺たちは、夏休みに呼び出しをくらった。図書委員の仕事サボっていたから、本の整理を教室で頼まれてた。その矢先、冒頭に戻る。
「幹也ーどうするよ。」
「校舎の中なら大丈夫じゃね?さっさと本整理して帰ろうぜ。」
図書室についた。思った以上に本が積みかさなってる。
「2時間はかかるな。」
「未来呼ぼっかな。」
「バカ。桜が俺らとつるんでたのバレてんだろ。」
「でも当時金パだったからバレないと思うぜー。」
「ったく。キヨはお気楽だな。」
俺は奥から直して、キヨは手前から直す事になった。
奥の本棚の下から足が見えた。まさか、ヤツらの…。
この明るい茶髪は確か3年の部長と同じクラスの…。金要求してきた立川先輩だ。
「あー。よく寝た。あれ?東の後輩だっけ。」
「はい。吉井です。今から本直したいので、ちょっとずれてもらえますか?」
「千円。」
「またっすかぁ?冗談やめて下さい。」
「真面目だって言うかもよ?」
図書室で寝てた上に、カツアゲとは自由すぎる!この人。
「みっきー、さっきから一人で何ブツブツ言ってんだよー。って凛先輩!」
「んー?お!キヨっち。」
「二人は知り合い?」
「凛先輩は野球部の部長だよ。そういえば図書委員長でしたね!」
立川先輩はもう一度床に寝転んだ。
「委員長だからここで見張ってんの。だからこっから先は立ち入り禁止区域。つまり有料。」
「みっきー頑張って!オレはあと3分の1くらいだもんねー。」
「キヨ助けろ!こんな自由人無理だから。」
キヨは戻り、自由人立川凛先輩は寝息をたてていた。
俺は奥に秘密でもあるのかと思った。
「ニャー。」
「ん?ニャーってさすがに寝息たてないよな。」
立川先輩の頬に子猫が頭をスリスリしてた。真っ白で綺麗な子猫だ。ってここ図書室だよな?この人図書委員長だよな。ダメじゃん!立川先輩がむくっと起きた。
「あー。ミルクの時間だっけ。ダリねみー。よしっちー自販のミルク買って来てー。」
千円札が紙飛行機と化して飛んできた。
「猫用じゃなくていいんスか?」
「じゃあそっちー。」
ニャーと猫も鳴いた。ったく。どうやったらあのいい加減な男になつくんだか。
ってオレ、目ぇつけられてんの忘れてた。校内の自販機のミルクを買った。
「買って来ました。」
図書室に入ると、キヨが猫と遊んでいた。
「お疲れ。釣りはいらねぇから。」
「いいっスよ。」
「みっきー貰っとけよ。」
「ありがとうございます。」
立川凛先輩はめちゃくちゃだ。カツアゲしたり釣りくれたり。図書室で猫飼ったり。
「つばきー。美味しいか?」
って、東先輩の彼女の名前つけてるし!人の彼女の名前つけんなよ。
「凛先輩って椿先輩が好きなんスね。凛先輩のがお似合いなのに。」
「キヨー!?」
「ははっ。違うよ。椿の花の下にいたからつばきにしただけー。」
明らかに嘘だと思った。能天気な顔が、少し揺れていたから。
「オレ暇だから手伝おっかなー。」
「マジっスか!」
俺は振り回されない様に黙々と仕事に取りかかった。
「よし。終わったー。」
3時間はかかった。ほとんど話してばっかだったけど。
「そういや、クリーンとマウスについて聞かれたよオレ。」
俺とキヨは固まってしまった。これじゃあバレバレだよ。
「だからオレ、クリーンは掃除する。綺麗にする。でマウスは鼠って答えたー。なぁつーばき。」
ニャーと素直に答える猫のつばき。
「そうなんスか?初めて聞きました。なぁ幹也?」
「あ、あぁ。頭いいスね。さすが図書部長!」
「何かあったらここに隠れろよ。この窓の鍵いつも開けてるからさ。」
その窓から先輩は出ていった。
「待てよ。ここ2階。」
「しかも真下は職員室。」
「今日の当番は、鬼の田鍋。」
「てことは。」
俺たちは窓の下を見た。立川先輩が先生に追いかけられていた。
ちょっと前までいいシーンだったのにな。しかも立川先輩のこと見直したのに。
「凛先輩はああでなきゃなー。」
「最後にはかっこつかないって事か?」
「そうそう。」
追いかけられる先輩を傍観しながら俺たちは勝手に先輩を分析していた。
「あ、東先輩が出てきた。」
「フォローしてるみたいじゃねー?お、鬼の田鍋が引いた。さすが空手部は違うねー。」
その後、立川先輩が東先輩に何か言ってふりきっていた。
「余計な事するなよ!とか?」
「勝手な真似すんなよ!じゃねぇの。」
「幹也一緒じゃん。まさか三角関係だとはね。」
「やっぱキヨも気づいてた?」
「オレは凛先輩を応援するから。」
俺は何も言わずに図書室を出た。
職員室の前に東先輩がいた。
「部長。」
「どうした。何でいるんだ?」
「図書委員で呼び出されたんです。」
「そうか。」
「あの!椿先輩とは上手くいってますよね。」
「…当たり前だろ。」
東先輩は笑ってなかった。なんとなくこれ以上関わるべきじゃないと思った。もし、キヨが東先輩と椿先輩を引き離すとしたら、見て見ぬフリはできない。
「幹也、これ以上凛先輩に傷ついて欲しくねぇから、オレの邪魔するな。」
後ろから、キヨの声がした。いつにない、低すぎる声。
「第三者が入る問題じゃねぇだろ?」
「関係ねぇよ。」
立川先輩とキヨの間に何らかの絆があるとか知らなかった。それは、光が俺に対するモノと似ている気がした。そう、兄弟みたいな絆。
立川凛先輩は、少し話しただけでも分かるくらい、つかみどころのない人だ。キヨはいったい何を企んでいるんだろうか。
今は、キヨと仲間割れしてる場合じゃねぇのに。これじゃあ、他校の奴らにどっちかが、ボコられるのも時間の問題だ。
「あーもう!なんなんだよ!」
教室で一人叫んでいた。
立川凛先輩に出会ってから俺たちのネジが少しずつずれ初めていた。