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カスミソウ

必要なモノ以外いらない。幹也くんがいればそれでいい。どうして僕は幹也くんの弟じゃないんだろう。


雪がうらやましい。小1から僕は幹也くんの後をべったりくっついていた。雪をキライと思ったことはない。もちろん幹也くんを恋愛感情で好きなわけでもない。



でも幹也くんの一番近くにいる人間が僕でないと気にいらなくて。色んな人を傷つけた。たとえ雪でも僕の中で邪魔だったんだ。



「光ちゃーん。」


道端で僕に抱きつく雪。いつものことだから何とも思わない。


「一緒に帰ろうか。」

「うん。光ちゃん大スキ。今日もお勉強教えてね。」


「幹也くんの方が頭いいじゃん。」


「だってお兄ちゃん『歴史は暗記だろ。自分でやれ。』とかめんどくさがるんだもーん。」


幹也くんらしいな。ってか幼なじみのお兄さんに執着する僕自身にいい加減吐き気がする。時々、僕って同性愛者かって思うくらい幹也くんのこと考えてる。



「おいおい。おまえら近所迷惑。目の毒だ。」


白の学ランに少し長い髪をワックスで遊ばせて、切れ長の目に高い鼻の幹也くんが近づいて来た。本人は気づいてないが、町を歩けば誰もが振り返り、写メを撮られたりしている。


「げぇ。お兄ちゃん邪魔しないでよー。」


そんな彼の妹の雪は正反対のくりくりの目で年齢より下に見られる。こんな妹を溺愛するのも分かる。ポニーテールが揺れて可愛い。よく兄妹でカップルに間違えられるらしい。

「お兄さんこんにちは。雪がいつもお世話になってます。」


「だから何キャラだよ光。雪は後で俺の部屋来い。」


雪が僕の後ろに隠れた。


「やーだよ。私光ちゃんとお勉強するの。お兄ちゃんと違って受験生は忙しーんですー。」


「じゃあ。僕が代わりに幹也くんの部屋行こうかな。」


「えー。私の部屋来てよう。」


いつの間にか幹也くんは前を歩いていた。よく見るとメール不精の彼がメールしてる。まさか。


「幹也くん彼女できた?」


「…まぁ。ってか光に関係なくね?」


「相談乗ってあげたのになぁ。」


「お兄ちゃんサイテー。」


幹也くんは走って行った。口が達者じゃないから、二人にせめられ耐えられなかったらしい。

ギュッと雪が僕の腕にしがみついた。


「どうして光ちゃんはいつもお兄ちゃんをみてるの?」


「何のこと?僕はいつも雪のこと考えてるよ。」


「とぼけないで。」


「しょうがないよ。側にいたいって思うんだ。」

「それって…ホ」


「ホモじゃないから。雪にもいるだろそんな友達。」


僕は雪の頭にゆっくり手を置いた。


ホモとかレズとかバイとか気持ち悪いとは思わない。


あなたを思う気持ちは恋に似ているんだ。



「光ちゃんやっぱホモだね。」


「だから違うって。…たぶん。」



また一つ想いが深まった。




付き合って初日のメール。もちろん嬉しいけどめちゃくちゃめんどい。華のメール可愛いんだけどごちゃごちゃしてる。


俺電話のが好きなんだけどな。まぁしゃべんないけど声聞きたい。

マナーモードにしていた携帯が震えた。


「…はい。」


《あっ…舞原です。今話せる?》


「今声聞きたいって思ったんだ。全然大丈夫。」


《私も幹也君の声聞きたくて。》


今心臓鷲掴みされた。携帯から俺のドキドキが伝わりそうだ。


《幹也君?》


「どうしよう。俺、華のことめっちゃ好きだ。今から会いてえ。」


《いつから好き?》


「はい?」


《私はね。最初幹也君はただのかっこつけだと思ってた。》


まぁ。俺も舞原をキモオタクだと思ってた。

《…やっぱり電話じゃやーめた。私も大好きだよ。おやすみ。》


ツーツーとむなしい音が携帯から響く。何かよく分かんねぇな。ま、嬉しかったけど。


ガチャ

「お兄ちゃん。…何にやにやしてんの?変態!」


バタンと部屋から出ていく妹。しまった。エロ漫画ベッドの上に開きっぱなしだった。


「幹也くーん!」


今度は窓からドンドン音がした。ベランダをつたって光がきた。



仕方なくガラガラと窓をあける。


「おまえ一歩間違えれば真っ逆さまだぞ。」

「僕にもエロ本見せてよ。」


ヒョイっと侵入する光は…クソ身長無駄に伸びやがって。雪いわく水田光はアイドル級の人気者らしい。なんじゃそりゃ。


「光くんはアイドルらしいからヨリドリミドリだろ?それに中坊にはまだ早い。」


俺は光が漫画を掴む前に取り上げた。



「幹也くんって相当欲求不満だね。」


「何だよその余裕。」

「僕がいいサイト教えてあげよう。」


「マジ?どんなのだよ。」


「もちろん無修正。」

俺はパソコンをつけた。すぐに光がネットで検索している。光の横顔はあまりにも真剣で俺は吹き出しそうになった。



「すごいだろ?」


「金髪じゃねぇか!俺黒髪が好きなんだよなぁ。」


「この待ち受けみたいな?」


携帯を勝手に開く光。

「って 俺待ち受けにしてねーよ!華のヤツいつの間に。」


「なんかこの女、幹也くんの元カノに似てるね。」


それには触れて欲しく無かった。


「全然似てねーよ。」

「あーそういえば、元カノさんこの間駅で見たよ。」


ダメだ。もう終わったんだから。


「関係ねぇだろ。もう光には邪魔はさせねぇよ。」


本当に関係無いのか?


オレは現代国語の教師、有野春吉(27)。やっと授業が全て終わった。ネクタイを緩めて準備室に向かう。



今日は見回りか。ふとあの日を思い出した。


あれは半年前。放課後見回りしていたら、1―5の灯りがついていた。消し忘れかよ。勿体無いな。そう思い、反対校舎まで向かった。



教室のドアを引くと、艶やかな黒髪のロングストレートが目に入った。こんな髪が綺麗な生徒は一人しかいない。


「舞原、下校時刻過ぎてるぞ。」


「あっ。すいま」


「はい。漫画没収な。」


それが君とのきっかけだった。オレは取り上げた漫画をめくりながら話した。


「へぇ。今の女子高生ってコンナの見んだ。結構過激ー。」


「有野先生まだ二十代じゃん。」


「文学小説を読め。文学を。オレ二十七だからな。ひょっとしてモテてるか?」


「先生ってそんな性格だったの?カタブツかと思った。一部にはモテるかもね。」

女子生徒と二人きりの放課後の教室は、少しキケンな香りがした。

「もう暗いから送ってやろうか?」


「あはっ。先生のほうが危なかったりして。」


彼女の髪が揺れて、ほのかに甘い香りがした。


「…そうだな。」


全ての雰囲気がオレを狂わせた。まさか生徒にキスをするなんて…あり得ない。


「えっ…やめて下さい。」


教室から逃げるように出ていく舞原。


「何してんだオレ。」


きっとこれは夢だ。自分にそう言い聞かせた。夢なら彼女を抱いてるはずだよな。教師と生徒とか見つかればクビだ。先輩の教師に結婚した人いたけど、お互い相当な努力だったんだろな。


何真剣に考えてんだろ。一歩間違えばセクハラで訴えられる。オレってかなり現実的。てか、彼女いるし。やっぱ今のキスは浮気だよな。ガキに欲情するとかまだまだだなオレ。


「はる兄!聞いて!」

「おまえ声でかい。」

想い出に浸っていたら、一気に現実にひき戻された。


「ノックしろ。ノック。」


「ごめん。私吉井と付き合う事になったの!はる兄のおかげだよ。」


「雛鳥が巣だった気分だな。」


「何それ。もっと喜んでくれると思ったのに。」


「これからはここに来るな。勉強の質問以外って言いたいトコロだが、華はオレに勉強なんて聞かないからな。」


バカ。そんな寂しそうな顔するな。抱きしめたくなるだろ?


「分かってる。それがはる兄との約束だもんね。」



そして彼女はまた逃げるように部屋を出るんだ。


「はる兄も彼女とお幸せに!」


今度は笑顔でゆっくり部屋を出た。

オレの目から水がこぼれたのは、気のせいだ。


「彼女なんていね―よ。」


あの瞬間から君だけを守るって決めていたんだ。君が傷つけばいつでもそばにいたいから。


あの瞬間がいつかはオレしか知らない。明日からは普通の教師と生徒。今日まで仲良しの教師と生徒。略奪愛なんてオレにはムリだなんて想いは、一瞬にして崩れていた。これが本気で人を好きになるってことか。



絶対に華はオレを頼る。そのため、オレは優しい兄ちゃんを演じてきたからな。吉井幹也には負けない。



「口が軽いヤツは寂しがりやなんだよ。」


幹也はいつも核心をつく。最近モテ期だなんて言うけど、幹也は中坊の時からモテモテだった。まぁ、アイドル的女の子はこの荒城清がいただいたけど。誰にでも好かれるヤツってムカつくだろ?


「キヨー。ノート返せ。」


お。噂をすれば影。


「マジ助かった。さすが数学マシンみきや。」


「おわっ。また落書きしやがったな!しかも油性かよ。」


心が広く生まれたかった。いや、鈍いヤツになりたい。


「悪い悪い。自分のノートと間違えちった。」


そんなのウソ。


「いいよ。これ計算用だし。」


かなわねーな。数学なんて簡単だけど、わざとノートを借りる。


「あ、キヨさ。桜と別れたら後悔すんぜ。」

「おまえに言われなくても分かってるから。」


はー何をやってもかっこつくんだよな。これからも利用させてもらうぜ。イロイロと。



華の漫画を読むことにした。まぁどんなのがタイプとか参考になるし。1ページ捲るとやっぱエロい。というか、絵のアングルが際どいっつうか。


「幹也ぁ。何読んでんのぉ?」


ぶりぶり女来たぁ。香水クサッ。


「あー。妹に借りた本だよ。」


もちろん隠す。


「そうなんだぁ。それよりぃ今日の髪型どぉ?」


髪になんかが刺さってる。ひたすらケバいわ。


「何で俺に聞くんだよ?いーんじゃね?」


「冷たいー。ゆんたんショックぅ。」


早くどっか行けよ。ってもういねーし。今度は杉岡んトコ行った。ヤベッ鼻が効かなくなった。



「幹也君。今日クッキー作って来たんだけど、食べる?」


キミは天使だ。


「もち食べる。すっげぇ!手作り?ウチの妹とか料理全然駄目なんだぜ。」


「あはっ。喜んでくれて良かった。妹さん会いたいなぁ。可愛いでしょ?」


「めっちゃ嬉しいし。雪?会わねーほうがいいぜ。生意気だし。」

そこにキヨが乱入した。


「雪ちゃんめっちゃ可愛いじゃん。幹也かなりのシスコンでさーこのあいだとか」


「わーわー!余計なこと言ってんじゃねぇよ。キヨだってブラコンだろ。」


「オレの場合、面倒見が良いんだよ。」


華は笑って聞いている。なんか俺この幸せを皆に分けてあげたい。とか心の中でだけ思ったり。


「そういえば華は兄弟とかいんの?」


「うん。弟が二人いるよ。」


「へぇ。」


なんか手強そうだな。キヨは桜のところに行っていた。素早いヤツばっかだな。


「小6と中3だよ。」

「俺の妹も中3。同中だったりして!」


「ウチの弟は新緑中だよ。」


「一緒だ。」


他愛もない話が、これから試練を呼ぶなんて俺達は想像してなかった。

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