華のおまじないのキス
光と元カノを目撃した後、真っ直ぐ家に帰った。寄り道するつもりだったけど、そんな気分にもなれなかった。
「ただいまー。」
「おかえりー。可愛い彼女が部屋で待ってるわよ。」
「分かった。」
俺は自分の部屋のドアをあけて、目があった瞬間、華を抱きしめた。そして、めちゃくちゃにキスをして、押し倒した。
「何で抵抗しないんだよ!」
「みきやが泣きそうな顔してたから。」
「俺っ、俺、華が好きなんだ。華だけが!」
華はゆっくり俺の頭をなでた。まるで子供をあやす様に。
「知ってるよ。光くんとケンカした?」
「…違う。」
華を押し倒したまま見つめた。凛とした瞳をしてる。まるで本当のコトを言ってと言うようだ。俺はゆっくり華をおこした。そして、座ったまま後ろから抱きしめた。
「顔が見えないよ。」
華が俺を見上げる。唇に軽いキスをあげた。
「もう。」
「照れてる?華かわいい。」
「今日のみきや甘えん坊だね。なんかくすぐったいなぁ。」
華に相談するには、元カノとのコトを話さないといけない。このまま言わないと華への秘密がつもりつもる。
「みきや?何かしゃべってよ。」
「今から華が聞きたがってた元カノの話するよ。」
華はギュッと俺の手を握った。
「やっぱり怖いよ。聞かない方がいいかも。何かみきやが遠くなるきがする。」
「大丈夫。俺のコトもっと好きになるから。って、本当はそんな自信なんてねぇけど。」
「分かった。じゃあもっと好きにさせて?」
もう一度俺を見上げる華。ってこの会話初めてのHみたいじゃねぇか!ヤバい俺のエロ心が出てきた。手が自然に華の胸に…。
「って違う。初めてアイツと会ったのは。」
中1の春。桜が綺麗で、校舎の窓に舞い降りてた。入学したばっかの俺は、桜を見てて友達とはぐれた。友達の後ばっか着いて行ってたから、校舎の道なんて覚えてない。一人うろついてたら、花音さんが声をかけてくれた。中1の俺にとっての中3はすっげぇ大人に感じていた。
花音さんもお姉さんで、道案内してくれてる時緊張した。そしたら笑って『緊張しなくていんだよ。先輩はみんな優しいから。』なんて言ってくれた。最初は憧れだったんだ。
「そんな優しい顔して話さないで。やっぱりちょっとキツいなぁ。」
「華?」
「本当はね。光くんと元カノさんが一緒にいるの何回か見たんだ。元カノさんのコトを思い出して欲しくないから、みきやには言い出せなくて、ううん、言いたくなかった。」
「俺だけが知らなかったんだ。取り乱してバカみてぇだな。」
華が俺の胸元に顔をうずめた。
「…ばかだよ。元カノ元カノって、今目の前にいるのは私でしょ?」
「あー。だから華だけって言ったの!俺がショックなのは光が内緒にしてることなんだよ。」
今度は正面から抱き合う形になる。
「光くんには俺に構うなみたいな感じなのにね。過保護なんだから。」
「…まぁそうだけど。それとこれは違うだろ。」
「それに本人に確認してないのに、騒ぎすぎ!」
俺らは、暑い中密着しながら話していた。抱き合うと俺らだけの空間って感じがする。
「俺さ、光に県外の高校に行くの変えたのかもまだ聞いてないんだ。それなのに、何で二人で会ってんのかとか聞くタイミングもつかめねぇよ。」
「そっか。光くんが話してくれるの待ってるんだね。」
「かっこ悪いよな。」
華は何も言わず、俺の頬にキスしてきた。
「勇気が出るおまじない。」
「ありがとな。あー、もう!かわいすぎ!」
華はまだエロ漫画を読んでんのかな?読んでても読んでなくても、オタクでもオタクじゃなくても、華だから好きなんだ。
そして華を家まで送った。
その夜、光は来なかった。まるで、俺が目撃したのを知ってるかのように。
「お兄ちゃん、光ちゃんは?」
「知らねぇよ。アイツも、やっと受験に専念するんじゃねぇの。」
「うわー。冷たぁい。」
「夏だからちょうどいいだろ。」
「また親父ギャグ?」
「親父ギャグも頭の体操になるんだぜ。」
「うっそだー。」
光の部屋に明かりがついた。って、悪魔でも偶然見えただけだから。華に勇気のキスを貰えたんだ。
「雪、俺光んち行って来る。」
「はーい。」
酷い真実でも知りたい。俺はチャイムを一度だけ押した。
「幹也くんがチャイムを連打しないなんて、珍しいね。」
「光に聞きたいコトがある。」
「暑いでしょ?まぁ、中に入ったら?」
光は気づいてる。ほんの一瞬、顔が強ばったのを見逃さなかった。
「何でも聞いていいよ。ただし、答えるか答えないかは、僕の自由だからね。」
「あぁ。まずは、第一志望は変えた?」
「んー。まだ迷ってるから、まだ親父に相談してない。」
「じゃあ、今日花音さんと会ってたのは何で?」
光はゆっくりため息をついた。
「何で?幹也くんと出会う前から、花音さんのコトを知ってたんだよ。話しかけたのも僕が先。いけない?今は幹也くんと花音さん関係ないでしょ。花音さんのコトを無視したの幹也くんだしね。」
「おまえっ!知らないふりしてずっとバカにしてたのか!?」
俺は光に本気で掴みかかった。
「バカになんてしてない。ただ、今さら花音を好きになっただけだ。いいだろ!僕だって好きになんてなると思わなかったんだ。」
「ちげーよ。俺はお前がそれを隠してたのが嫌なんだよ。」
ゆっくり光から手をはなした。
「どっちも大切だから、それにまだ付き合っても無いだろ?僕だけ盛り上がってバカみたいじゃん。それに花音も僕とは付き合わないと思う。」
「光にしてはやけに、弱気だな。」
「ほんっと鈍感でいいよね。罪だよそれ。自分で考えたら?」
光が俺を鼻で笑った。ムカつく。鈍感じゃねぇよ。鈍感鈍感みんな言うけどな。
「でも幹也くんが、聞いてくれて良かった。僕、バレないかビクビクしてたんだよね。」
「光から好きな人できたって言っただろ?バカか。」
「それが精一杯だったんだよ。僕デリケートだからさ。」
「俺応援するから。ま、せいぜいガンバレ。」
家に帰ってからすぐ、華に電話した。華も相当不安だったらしく、応援するって言ったら喜んでくれた。
俺が応援するって言った時の、光の緊張の糸が解けた様な笑顔は、今までの中で一番自然な笑顔だった。
いつもあんなに素直に笑えばいいのに。と密かに思ったのだった。