名探偵ヒカルと助手のミキヤン
「あー!思い出した。」
「何だよ急にデカい声出しやがって。」
「僕、雪から相談のってた時期あった。『年上のショップ店員』がどったらって。」
「おい。どったらじゃねぇだろ。」
「駅前にティアラって店あるでしょ。雪毎日通ってた時期あったらしくて。」
俺たちは、その店に向かった。
「いらっしゃいませ。」
「あ!あん時の。」
小さい紙袋を雪に渡してって言ったヤツ。頭を下げてきた。
「幹也くん知り合い?」
「微妙。」
「雪ちゃんは元気ですか?」
短髪で爽やかな男。この笑顔で女ならみんなイチコロになりそうだ。
「あんたさ。今も雪と会ってるだろ。」
「幹也くん抑えて。」
俺が睨んだのを気にもとめず、にっこりと笑いかけてきた。
「あなたに袋を渡してから、関わってません。」
「いきなりすいませんでした。」
光が頭を下げて、俺を引きずって店から出た。
「幹也くんあれは、いくらなんでも失礼過ぎるよ。僕もあの笑顔にはイラッとしたけどね。」
「大人の余裕…か。」
「そういえば雪、あの人に恋愛感情はないって言ってた。」
「はぁ?来る前に言えよ!」
「さっきの幹也くん面白かったなぁ。オラオラ系っぽくなってた。」
「なってねぇよ!」
ショップ店員と何もないなら、樹が怒ったのは何でだよ。何だかんだで、樹は俺と華がケンカした時仲直りさせてくれたし。まぁ…いいヤツだから。
「樹んち突入する?」
「だーかーら、俺の彼女の家でもあるんだよ。光、楽しんでるだろ?」
「ちょっと探偵気分?」
「最低だな。こっちはマジなのによー。」
「幹也くんは、さっきから力みすぎだよ。もっとリラーックス。」
やたらと発音がいい光が笑えた。確かに今の俺はキレやすい。
「樹に会っていいのか分かんねぇよ。雪が嫌がるかも知んねぇし。」
「今さらだねー。このままじゃ、雪が非行の道まっしぐらだよ。お兄さん。」
「このパターンだと、良かれが悪かれだぜ。ガキん時も雪に怒られたろ。」
「『私は一人で大丈夫だから、余計なことしないでよ。』でしょ。雪はやたらと呼び出しくらってたからね。」
「俺たちは、ただ守りたかっただけなのによー。」
「僕たちのせいで、エスカレートしてたからね。」
「だから女は分かんねぇ。」
「分かんねぇ、か。まだ、分かんなくていいんじゃない?」
「そうだな。」
樹が急に立ち止まった。
「キヨさんち行っていい?」
「めんどいな。一人で行けよ。」
「ほら、マサも情報通なんだよ。」
…何か、上手く丸めこまれてるっつーか。
「はいはい。分かったよ。」
古着屋に隣接する家の門を開ける。
「幹也さん!光先輩!」
子犬みたいなマサが玄関から出てきた。
「マサ香水つけすぎ。甘ったるい香りだな。」
「僕があげたんだよ。ねぇ、マサ。」
「はい!ありがとうございます。」
こりゃ忠犬ハチ公だな。マサが尻尾をふってる様に見える。マサは光に憧れてたりする。
「光か!オレのマサをこんなにしたのは!」
店からキヨが出てきた。さすが地獄耳。キャラ違うし。
「ども。キヨ先輩は相変わらずピョコンって前髪決まってますね。」
「これセットに時間かかるんだよ。自然な仕上がりだろ?」
光のペースにハマったな。
「兄貴ダサいって言ってんだろ。」
「マサも似合うかもね。」
光のせいで明日からマサもキヨヘアーの餌食になる。
「マサはこのふわふわな髪が似合うよ。」
「先輩!」
はいはいやっとけ。
「みっきー、海早く行こうぜー。仲直りしたんだろ?」
「さすがキヨ。情報はやっ!行きてぇけど、土日以外朝練なんだよ。」
「オレも朝練行ってるし。じゃあ今週の土日な!」
土日じゃ…夏休みの意味なくね?ってか他の二人ねキヨスケジュール把握済みかよ。
「お前に似合う服あるんだよ。見る?」
「見るだけな。いっつも、すぐこずかい無くなるんだよ。」
キヨの後に続いて店に入った。オシャレなキヨのおじさんとおばさんに挨拶した。
「幹也くん久しぶりね。」
「部活が忙しくて。」
「キヨも最近頑張ってるのよ。」
「母ちゃん余計なこと言うなよ!」
「じゃ、ゆっくり見てね。」
若い母ちゃんだなぁ。うらやましい。
「これこれ。このチェーンオレがつけたんだよ。」
「へぇ。スゲーな。このボタンも?」
キヨはジーンズをアレンジするのが趣味で、仕上げはおじさんがするけどなかなかの腕前だ。世界に一つだけってのがいい。
「どうスか?お客さーん。」
「…ちょっと俺には派手かもな。」
「幹也は、黒とか白とかしか着ないからなぁ。こんなのも似合うと思うぜ?」
「うーん。絶対これマサに作っただろ。」
「はは。ばれちゃった?」
「最近反抗期だから、着ないってところか?」
「鈍い幹也が鋭くなった!ピンクとか黄色とかカラフルすぎんだよ!だとー。ぼくちん、嫌われちゃったよ。」
「雪も反抗期なんだ。マサと関係あったりしてな。」
俺たちはそれは無いだろと笑った。
これは、お兄ちゃんが指輪を受け取って、私に渡してからの話。
私は樹くんに指輪の話をして、『ちゃんと自分で返す』って言った。『僕もついていくよ。』この言葉を貰えて、最初は嬉しかった。でも、信じてくれて無いんだって思う自分がいた。
「僕がついて行ったら迷惑なんだ?やっぱり、やましいことがあるんじゃないか?好きなんだろ。あいつが。」
「何で私一人で行っちゃダメなの?信じてよ!私を信じて!」
「信じられないよ。しばらく距離を置こうか。」
去り行く樹くんを、ひきとめるのも怖かった。信用できないなんて付き合う意味ないもんね。
私は結局、学校の帰りに指輪を返しに行った。意外とあっさりしてて、樹くんとの言い合いが馬鹿みたいに思えた。
「あの。」
振り向くと、子犬みたいな目のくりくりした男の子がいた。
「ポチ。」
私は思わず呟いた。
「はい!よく言われます。」
変わったこだな。
「なんか用?」
「雪先輩ですよね!光先輩といつも一緒に帰ってる。」
「光ちゃんの知り合い?」
「はい。光先輩は憧れなんです。」
「君、明るいね。」
「先輩もいつもは、太陽みたいに元気じゃないですか。あんまり話したことないのに、変だけど、オレで良ければ話聞きます!」
あまりにも必死なポチに、私は。
「ぷっ。あははっ!最高!」
爆笑した。
「笑うことないじゃないですか!」
「ごめんごめん。あまりにも可愛くて。」
これがポチ、いや、荒城マサとの出会いだった。