ティアーアンドスマイル
ノックが聞こえて、部屋を開けた。
「なんだ雪か。お前がノックするなんて雪降るんじゃね?」
「光ちゃんから伝言です。『僕に返事くれるまで、話しかけないでね。』以上。」
「俺から『3人で話し合おうとしたのに、俺が怖いのかよ。ヘイ!チキン。』って伝えとけ。」
「またぁ?私が何で伝言板しなきゃなんないわけ!」
「そういや、駅前のケーキ屋にかぼちゃケーキ置いてたなぁ。」
「お兄サマ喜んで!」
居酒屋かよ。部屋を出る雪を見て、売り言葉に買い言葉な自分が情けなくなった。
数分後、雪が戻って来た。
「伝言です。『幹也くんが僕に本音言いたくないんじゃない?チキン…弱虫か。そのまま返す。』だって。」
「光の真似してるだろ。似てねぇな。もっと卑屈っぽいだろ。」
「はい。伝えます。」
「おい!」
「私これから友達と遊ぶから、あとは自分たちで解決してよね!行ってきまーす。」
「そのスカート短いだろ!」
ったく。反抗期かな。ついこの前まで、素直だったのによ。それともアレの日か?
5分後、水田さんちのインターホンを連打した。
「僕会わないから。」
いつもはドタドタ走って来んのに、つまんねぇ。
「返事書いて来た。」
ガチャっとドアが開いた。俺の手紙を受け取りカサっと封筒を開けた。
「…ふざけてるの?」
「そんだけじゃダメか?それ以上…書けなねぇよ。」
「俺達は一生兄弟!って、だから僕は最低なっ…」
「もう自分を攻めんのやめようぜ。俺も光も雪も、あん時はガキだったし。だから、もう泣くの我慢すんなよ。」
「ずっと、ずっと二人に嫌われよう嫌われようってわざと…わざとっ!」
光が咳き込んだ。泣くのが下手なんだ。ガキの頃から光が泣くのは見た事ないくらいガマンしてたんだ。玄関に入り、背中をさすった。
「ばーか。お前が本当は不器用なのも、我慢強いのも知ってるよ。人間泣かなきゃ、どす黒いもんがたまるんだぜ。」
生意気に俺より背が高い光は、心はまだガキで、俺より背伸びしようって無理してた。俺は光が落ち着くまでただ黙って隣に座っていた。
光は涙腺が切れた様に、涙を流し続けた。まるで赤ん坊の様に。普段大人びてる光が今泣いてるだなんて誰も想像しないだろうな。
光は今までの辛い想いを洗い流しているように、涙はただただ溢れていた。
そして安心したように光は、リビングのソファーで寝た。俺は家に戻って、ふと携帯を見た。
「あー!華に連絡してねぇ!!」
慌てて電話をかけた。
《はい。》
「華?マジごめん!」
《今みきやの家の前に着いたところだよー。》
俺は玄関まで全力で走った。ドタバタうるさくても今は関係ねぇ!
「華!」
勢い良くドアを開いた。クイズ番組で、どちらが正解かAの部屋かBの部屋かを開ける様に。分かりにくい例えだ。
「電話来なかったら、修羅場だったね!」
俺は玄関で華を抱きしめた。
「今から華に大事な話があるんだ。」
「私別れないよ!」
「違うよ。俺の秘密だよ。ようやく解決したんだ。」
「分かった。」
俺の部屋で、華は黙って真剣に聞いてくれた。途中から少し目が潤んでる気がした。俺たちの話は、可哀想な話なのだろうか?華が何て言うか少し怖くなった。
「そうなんだ。近くにいる人って意外と分かり合うの難しいよね。気持ちを伝えるのも勇気がいるから、みきやが私に教えてくれて嬉しいよ。」
「俺、今まで誰にもこの話できなかったんだ。華には分かって欲しくて。光も俺の兄弟みたいなモンだから、華にも知ってて欲しくてさ。」
「それって、私も家族になるからってこと?」
「あーまぁ。まだ先の話だけど結婚しような。俺恥ずっ!」
「うん!みきや大好きだよっ!」
そして、俺たちはベッドでごろごろした。キスまでは…なんとか。でもベッドだぜ?俺も男だ。
「みきやって細いのに、腕の筋肉ちゃんとついてるね。すごーい。」
「そんな触ったら、くすぐってぇよ。」
「きゃは!」
きゃはっじゃないよ。よし。キスまでキスまで。
「いいよ?」
「マジっすか!いっただきまーす!」
そこでガチャっとドアが開いた。
「幹也くん!これからは頻繁に遊んでね。」
「光…いい加減にしろ。今からやっと、やっと…。」
「光くんありがとう。ちょっと目が血走って怖かったんだ。」
「僕で良ければいつでも呼んで下さい。」
「華?俺血走ってたぁ?」
「いただきます。はムードないよー。やっぱりまだオアズケ。」
「愛してるとかが良いよ幹也くん。」
「俺のガラじゃねぇんだよ。」
問題は解決して、俺は幸せな時を過ごしていた。しかし、Hしたかったなー。Hって変態行為の頭文字って聞いた事がある。変態行為って字ならび悪いよな。
久しぶりに光と華の自然な笑顔を見た気がした。俺、そんなに笑わせてなかったっけ。そうか、きっと無理して笑わせてたんだ。
「みきや、聞いてる?」
「僕が邪魔したの、そんなに残念だった?」
「今、『僕はわざと邪魔しました』って言ったようなもんだよな?」
「当たり前じゃん。僕は幹也くんのお兄さんみたいなものだからね。」
「お兄さん?確かに、みきやの方が弟みたいだよね。」
「華まで!地味にショックなんだけど。」
だから、俺いじられキャラじゃなかったんだってば。どうせ、身長のせいだろ。
「今、身長が低いからって考えたでしょ?」
「性格だよね。」
「軽くイジメか!?はいはい、お二人の言う通り。はい終了。」
「もっと大人にならないと、華さん大変ですよねー。」
「そうなんだよね。」
これ以上、ムキになるとそれこそガキだ。落ち着け自分。深呼吸、深呼吸。
「ただいまー。」
雪が帰って来た。
「おー。俺たちさ、仲直りしたよ。」
「雪、おかえり。」
「お邪魔してます。」
雪が入り口から入らない。
「なんで、最初に私に言ってくれなかったの?…華さんに言う前に言って欲しかった。」
「雪待てよ!」
「幹也くんここは僕が説明するから。」
光は外にでる雪を追いかけた。
「雪ちゃんの言う通りだよ。3人の問題だから、私より先に雪ちゃんに話すべきだったね。」
「俺は雪も華も同じくらい大切だから。順番とか重要なのか?」
「もう!みきやは鈍感なんだから。私今日は帰るよ。ちゃんと雪ちゃんにあやまるんだよ。」
俺に優しくキスをして、華は帰った。女って複雑だな。
窓からコンコンと音がした。窓を開けると光がムダにカッコ良く入って来た。
「雪のヤツ相当怒ってたよ。僕の話も聞いてくれないなんて、初めてだよ。」
「マジで?」
「立場が逆なら、気持ち分かるよね?」
うわぁ。おっかねぇな。さすがに、かぼちゃケーキじゃ許してくれねぇよな。
「でも、僕も悪かったよ。メールくらいしとけば良かった。」
「ここは、二人で協力しようぜ。」
「そうだね。」
光はひたすら雪にメールを送った。返事は『うん』ばかり。
俺は、かぼちゃプリンやかぼちゃケーキなどを買った。雪の反応は、『今ダイエット中だからイラナイ』。
「機嫌とりみたいなことしないで。しばらくほっといてよ。」
俺は、3人のコト以外に何かあるんじゃないかと思った。最近の露出の多い服装とか、遊ぶ友達の名前を言わなくなったこととか。
「雪どうした?」
「な…にが?」
「最近変だよなお前。化粧とか濃くなったし。」
「流行ってんの。」
「何か言えないコトでもしてんのか?」
「私のコト信じてよ!お兄ちゃんまで信じてくれないの?ひどいよ!」
俺まで?ってことは、他の誰かに信じられないって言われたのか。
「幹也くん。今は様子を見よう。あんまり刺激したら逆効果だよ。」
「あぁ。分かってるよ。」
「雪には雪の世界があるだろ。学校の友達とかにも聞いとくから。」
「さんきゅ。」
一難去ってまた一難。まさにこのことだな。
「雪の友達に電話で聞いたら、樹絡みらしいよ。」
次の日、部活から帰ると当たり前の様に、ベッドに光が座っていた。
「完璧な不法侵入だな。それより、樹絡みってどういうことだよ?場合によっては殴り込みに行くかんな。」
「僕も殴り込み、手伝うよ。」
華の弟ってのが、気が…引けねぇよ。雪を傷つけたなら、誰でも許さねぇ。
「と、言いたいところだけど。雪にも落ち度があるらしいから。」
「落ち度だぁ?」
「年上の男と、樹を天秤にかけたとか。」
「…まさか。」
「雪の友達だから、詳しくはさすがに教えてくれなかったよ。」
「信じられないって樹が言ったんだな。」
「そうらしいね。」
俺に相談くらいすればいいのに。きっと雪のことだから、理由があるはずだ。
「雪を助ける?」
「当たり前だろ。」
「じゃ、久しぶりにいきますか!」
「おう。」
俺たちは、もがき苦しむ雪を救うべく、作戦会議をした。