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オトコノプライド

今日はキヨたちと四人で、遊んでいる。今人気の水着ショップに行くために、駅に向かっているところだ。


「イチ、ニッ、イチ、ニッ」


野太い声の…白い集団が目の端に映った。あれは幻だ。


「みっきー…空手部って今日から合宿じゃなかった?」


「よっしーサボり?空手部上下関係厳しいからヤバいよね。」


「みきや、今からでも間に合うよ!」


やっぱり現実だよなー。空手部の集団が近づいて来る。その時、俺は3人に押された。


「オレたち楽しむから。」


「華ちゃんには代わりに、私が選んであげる。」


「時間があったら様子見に行くね。」


そして、俺は裏切られた。サボるつもりはなかったんだよ。ただ、忘れてただけだ。


「吉井!私服で何してんだ。着いてこい!!」


「部長…どこまでもついていきます。」


「その言葉忘れるなよ。」


道場に戻り、俺は腕立て、腹筋、背筋、側筋を百回ずつ、3セットした。汗が滝みたいに流れる。


「あのー、家帰って必要なモノを持ってきます。」


「さっき、妹さんが持って来てたぞ。」


雪のヤツー。華がマネの先輩と、試合を見ていた。


「吉井くんお疲れー。タオルと、麦茶どうぞ。」


「どもっス。」


「みきや、腕立て速いねー。そんなに汗かいて大丈夫?」


「来てくれたんだ。カッコ悪いとこ見られたなー。こんくらい全然平気だし。」


そこへ、鬼部長が現れた。


「最近、気が緩んでるぞ。恋愛禁止とは言わないが、他人に迷惑はかけるな。」


「はい。すいません。」


彼女の前で怒られるとか、悔しい。


「今から打ち込みするから、受けろ。」


「はい。」


いわゆる人間サンドバックっつーやつ。普通は先輩が後輩の打ち込みを、受けながらアドバイスする。

俺は少し前から、先輩たちのを受けている。

コレが結構楽しい。払ったり、避けたりたまに正面から受けたり。


雄叫びが道場に響く。その声と共に俺も乗りに乗る。



「集合!」


急な部長の掛け声に、五十人弱の部員は集まる。


「白坂先生に、令!」

《おねがいします!》

この人はいつも、タイミングが悪い。


「吉井!ちょっと来い。」


げ。俺は見逃さなかったけど、今部長が笑った。ってか情報速っ!いつ俺が遅刻したって報告したんだ。


「はい。」


空手部の顧問は、二人いる。中年の小山と、30代前半の白坂。どっちも男。



「合宿のこと忘れてたらしいな。かなりたるんどる!」


あぁ。声がめちゃくちゃ響いてますね。迫力満天。


「すいませんでした。」


「お前、ちょっと期待されてるからって、調子に乗るなよ。部長みたいにコツコツと努力をするヤツが最後に笑うんだ。」


「はい。」

出た。白坂のヒイキ。つまり、白坂派と小山派がある。小山は、割と技を見てくれる。


グダグダと説教は続く。酷い時は、途中から30分武勇伝を語る。相づちを打ちながら、他のコトを考える。華の水着姿とか。


「顔がにやけてるのは気のせいか?」


「白坂先生は、素晴らしいです。思わず顔が綻びました。」


「まぁ、良いだろう。戻れ。」


今日は20分ってトコだな。ん?華がマネの仕事手伝ってる。おい!華にベタベタ触んなボケ!とは言えない。今汗臭いから、近づきたくないし。


「それと、合宿中は携帯禁止だからな。」


「え!?マジっすか。」


「3泊4日くらい、どうってことないだろ。」


オッサンには分かんねぇだろうよ。華と連絡取れねぇじゃんか。雪にもしものことがあったら…。光に部屋を荒らされてたら…。合宿に集合できねぇよ!


「みきや顔色悪いよ?」


俺は素早くニオイが届かないくらい離れた。

「気のせい気のせい。俺かなり汗臭いからあんまり近くには」


「んー。大丈夫だよ?私も武道やってたから慣れてるんだぁ。」


「近づくの速いな。華は何やってたんだ?」

「ヒミツ。」


「うわー感じ悪いなぁ。ま、当ててやるよ。」


「うん。もう休憩終わったみたいだね。私そろそろ帰るよ。明日も来ていい?」


「明日も来てくれんの?マジ嬉しい。気をつけて帰れよ。あと、合宿中、携帯禁止なんだよ。」

「携帯禁止なら、公衆電話からかけてね!じゃ頑張って!」


あー。俺の可愛い彼女が帰っちまう。ちきしょー。こうして合宿が始まった。




合宿の夜は、体育館に布団敷いて寝る。道場には寝ないらしい。ウチの高校は、一応名の通った名門高校で制服着てるダケで逆ナンパされるとか。


俺が言いたかったのは、女子空手部は宿泊施設が整ってんのに、なんで男子空手部は蒸し熱い体育館かってコト。


しかも先輩たちの武勇伝が、熱い。


「そん時、女の子を守ったのがこのキズよ。」


俺たち後輩は『おおー』とか『スゲー』とか口々に言う。自慢してんのが、3年の岩田先輩。


そして、部長は一人読書してる。すでに寝てる先輩もいて、うらやましい限りだ。


「幹也はないのか?」

「俺っスか?先輩みたいにカックイイの無いです。」


ここで、先輩より目立っちゃヤバいだろ。しばらくして、次々と布団に入った。


俺の武勇伝は、小学校低学年のとき。俺はピータパンなんて言われてて、自分でも自覚あるほど目立ってた。このツリ目とか、雰囲気が似てるとか言われて。


ある日、ジャングルジムで遊んでいると、やっかむ男子に『ピータパンならそっから空飛べるだろ』って言われた。ここだけの話ピータパンってあだ名、気に入ってたし。


「空くらい飛べるよ。」


あろうことか、ジャングルジムの一番上からジャンプした。飛べるワケもなく、右足の骨を折った。 で縫った後が薄く残ってる。


バカだよな。男のプライドってちっさい頃からある。思い出したら古傷が傷んだ。


雪も飛べると思ったのかも。なんて考えながら目を閉じた。





次の日は、朝食前に鉄下駄で校庭十周。マネの先輩と、椿先輩がベンチで話していた。東部長が嬉しそうだ。


「あと1周!」


今十周終わったはずなのに。彼女の前だと気合い入りまくりってのは、よく分かる。でも、人を巻き込むなって言ったのは部長だよな。まだ1周追加だからましだ。


「みきや!頑張って!」


「はなー!頑張るー!」


華が来てくれた。思わずブンブン手を振ってしまった。周りの白い目。俺は全力で走った。すると、東部長も本気で走り、他の部員も負けじと競争になっていた。


「うわっ。」


後ろから声がしたと思うと、まさにドミノ倒し状態で倒れてきた。

「重いーっ!」


「お前はしばらく潰されとけ!」


「マジ退いてください!」


「こんにゃろー。彼女とイチャつきやがって!」


「今関係ないじゃないっスかぁ。」


俺はしばしスシの如く押し潰され、華は笑っていた。いや、笑いごとじゃねぇから、窒息する。


「おい。そのくらいにしてやれ。」


「部長!部長もラブラブじゃないっすか。」

涼しい顔で俺を見下す東 竜部長。今鼻で笑われた。


「ゴホッ。ゲホッ。」

クッソー。絶対仕返ししてやる。とやっと自由になった俺は決心していた。


俺の仕返しその1、必要以上にイチャつくのを見せつける。それじゃ、興奮させるダケだからボツ。


その2、正々堂々と空手の組手で倒しまくる。いつかみたく不穏な雰囲気になる。ボツ。

その3、先生の話を聞いて正座した後に、足をつつく。なんかきったねぇな。


まぁ場所をわきまえるか。合宿中じゃなくてもいいかー。


「吉井!隙有り!」


「だぁっ!急所はさけてくださいよ!」


俺…いつからいじられキャラになったんだよ。ワリとクールなキャラな方に入ってたはず。地味にショックなんだけど。


「幹也ちょっと相手して。」


「お。勇人から誘うなんて珍しいな。」


勇人はタメで、部の中では一番気が合う。


「最近のお前、隙だらけで勝てる気がする。」


「ソレ、マジで言ってんの?」


「マジ。」


勇人にまで、なめられてるなんて、ありえない。


「いいぜ。その言葉ひっくり返すからな。」

そして、俺たちは構えた。



「一本!」


今の蹴りいつの間に出来るようになったんだ?自信があるだけある。


「えい!」


負けたくない。


「幹也意外と鈍ってないな。」


「うるせぇ。試合中にしゃべんな!口切るぜ!」


他の部員たちが練習をやめて集まる。俺、見られる方が燃えるんだよな。先に一本取られたのは痛い。


「一本!」


「スゲーな。簡単に一本なんて取れねぇよ普通!」


「さすが吉井!」


おいおい。勇人を見ろよ。楽しんでるぜ。おとなしいだけだと思ってたのに。


「お前たち!何してんだ!」


小山先生が登場。ほっとする俺がいる。勇人に負ける。直感で分かる。俺、いつの間に追い越されたんだろ。


毎日走ろう。筋トレも増やして、組手のリズムも相手がタイミングが掴めにくいリズムを作ろう。中学で、決勝で負けた以来に悔しい。



「み…きや。」



俺は自分の拳を握りしめていた。大好きな華の声も耳に入らなかった。


俺は負けず嫌いなんだ。もう。誰にも負けないって決めたんだ。


ちょっとくらい強くなったからって、俺にはかなわない。


そうだよな。カノン…。

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