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魔王城は勇者撃退で大忙し

作者: 九漆
掲載日:2025/11/23


 十七代目の魔王、リオネス。

 

 魔王の家系に生まれ、幼少期から大変優秀で、それはもう一族最高の魔王と言われるようになるほど魔族から尊敬される魔王。

 

 そんな彼と対になるように誕生したのが、勇者ルキア。


 リオネスが魔王になってから、五十年たった頃だった。

 

 当時の魔王城含む魔界では、人間界に負けない程の強さを手に入れていた。魔界に住む魔族達は、人間界をも手に入れられるかも知れないと、実に欲深かった。

 

 そんな魔族達を恐れ、人間界で崇められる神が誕生させたのが勇者ルキア。

 勇者ルキアは、若いながらも仲間を集め、今も魔王を倒さんとばかりに魔王城へと迫ってきている。

 

 そんな状況もあってか、魔王城は今現在、バタバタと忙しい状況であった。特に医療班が。

 

 医療班に臨時で所属していたヴァンパイアのヴェイラは、仕事場の慌てぶりに辟易していた。

 

 「第五部隊全員重傷です!!至急治療を!」

 「了解です!そちらに運んで下さい!」

 「第十一部隊ポーションが無くなりました!供給をお願いします!」

 「リーアさん!あそこの棚にあるポーションを渡して下さい!」

 「分かりました!」

 「第十六部隊ーー」

 

 このような声が様々な場所から飛び交う。

 ヴェイラは、ひたすら負傷者を回復魔法で治療する。

 

 (はぁ……なんでこんなに、何時も何時もバタバタしてるのです?というか、ヴェイラは所属が違うのですけど……)

 

 溜め息を付きながらも、増え続ける仕事をこなしていく。

 

 ヴェイラは、元々攻撃系統に特化している第十八部隊の所属である。だが、魔法系は大体は使えるため、こうして医療班に手を貸している。最近では第十八部隊の出番が少ない為、医療班の手伝いをする事が多くなっていた。

 

 (うぅ……休みたいのですッ!休暇、休暇がほしいのです!)

 

 そう思いながら、負傷者を治療していく。

 やがて、最後と思われる人を治療し終えた。

 

 (この人で、最後ーーー)

 

 「ヴェイラさん!追加で第五部隊の治療もお願いします!」

 「は、はぃぃ……」

 

 数時間後ーー

 

 結局、ヴェイラは丸一日、医療班の手伝いをしていた。

 終わったと思うとまた次の負傷者、そして次の負傷者、次の負傷者……と、ヴェイラはそれを繰り返し、ピークと思われる時間が過ぎると医療班に来る負傷者が減り、仕事も無くなった。

 

 「ヴェイラさん、今日はありがとうございました!とても助かります!是非また来てくださいね!」

 

 と言われ、ヴェイラは、拒否したい気持ちを押し殺して、笑顔を作る。

 

 「一人でも多く治療をすることが大切なのですから、私のやった事は当然なのです」

 

 ヴェイラはそう言った。

 

 (ほんとは行きたくないのですぅ……!うぅ……いい顔しておかないとあの人うるさいのですよぉ……)

 

 ヴェイラは心の中で本音をそう呟いた。

 

 ◇

 

 仕事が終わったヴェイラは、とある場所へ向かっていた。

 そこはヴェイラにとっての癒しの場所であり、くつろげる場所。

 ヴェイラはその扉を勢いよく開ける。

 

 「ヴェイラなのです!レイはいるですか!?」

 

 ヴェイラが向かった場所、それは第一部隊の待機室だった。

 

 「ヴェイラちゃん、久しぶり~!隊チョーなら向こうの部屋に居るよ」

 「ニェイ姉お久し振りなのです。向こうの部屋なのですね!行ってくるのです!」

 

 ニェイ。

 

 オーガの第一部隊の副隊長。ヴェイラとは、とある人物経由で知り合い、そしてヴェイラは『姉さん』として慕っている。

 

 ヴェイラはスタスタとニェイに言われた部屋に向かう。

 そしてバンッ、と大きな音を立て、その扉を開けた。

 

 ヴェイラは中に居た目的の人物に目を輝かせる。

 

 「レイ!」

 

 ヴェイラは勢いよく抱きついた。

 

 「!おい、ヴェイラ!」

 

 その拍子で、二人同時にバタンと床に倒れた。

 

 レイ。

 

 ヴェイラの恋人で、悪魔の第一部隊の隊長。魔王の護衛を主に主体とし、第一部隊の育成、研究班の助っ人、その他部隊の助っ人を行う超ハイスペックな悪魔。ニェイとヴェイラが知り合ったきっかけの人でもある。

 

 ちなみに、二人が交際していることはニェイのみが知る。

 

 「ヴェイラ……」

 「ごめんなさいなのです。ヴェイラ、疲れが溜まっ、て……いて……」

 

 ヴェイラはカクンカクンと体が揺れ、目が今にでも閉じかけている。レイはその様子に気がつき、直ぐに近くのソファに寝かせる。

 

 「医療班の手伝い、一日中頑張ったんだろ?さっさと休め」

 「は、い、なの、ですぅ……………」

 「……………寝たか」

 

 レイは軽くヴェイラの頭を撫で、近くのソファに寝かせた。

 

 ヴェイラの意識はそこで深い夢の中へ入り込んだ。

 

 ◇

 

 ヴェイラは、夢を見ていた。

 

 レイと出会ったあの日の事を。

 

 その日はまだ勇者が誕生する、ずっと前の話。その頃は、リオネスが魔王に成り立ての頃だった。

 

 ヴェイラはレイが隊長を務める部隊に所属しており、その隊で同期からは落ちこぼれと言われていた。

 

 魔法が思うように扱えず、直ぐに暴走する。更に当時では使うとすることすら見下されるような武器、剣に集中したのだから、クビになるのも時間の問題、と思われていた。

 

 しかし、ヴェイラは魔法も諦めておらず、夜中に一人でこっそり特訓していたのだ。

 

 そこに偶々レイが通りかかる。

 

 レイは、初めはただ傍観していた。何も言わず、何もせずに。

 

 しかしレイの性格上、欠点を見つけると直ぐに教えたくなるもので、レイは我慢しきれず、若干怒り気味にヴェイラに指摘した。

 

 レイが見ていたことにヴェイラは驚くが、指摘されたところを素直に受け入れ、実践した。

 

 すると、以前よりも見違える程に上達した。

 

 「すっ、凄いのです! あっ、あの! 教えて下さってありがとうなのです! ヴェイラ、レイ隊長に何かお礼がしたいのです!」

 「は……お礼? そんなものは要らな────……いや、そう言えばお前は、剣が得意だな?」

 「はいなのです。今時使えないと言われてる武器ですけれど、それがどうしたのですか?」

 「俺に教えてくれないか? それでお礼はチャラだ」

 「えぇぇっ!? そ、そんなのでいいのですか!?」

 「ああ。興味があるからな」

 

 これをきっかけに、二人の夜中の特訓が始まった。

 

 深夜は誰も居らず、人目はない。誰からも見られることは気にせず特訓をすることができるのである。二人の腕は、みるみる上達していった。

 

 そして数ヶ月後。ヴェイラは魔法の腕が、レイは剣の腕が上達した。むしろ、二人の方がそちらを極めているという疑惑がある。ヴェイラはその実力が上がったことにより、隊員から馬鹿にされる事は無くなった。

 

 つまり、相互指導は成功したのである。

 

 そしてある日、魔王軍全体で遠征をすることになった。

 

 その時、レイが剣を使って遠征に行き、好功績を残したことによって剣に対する偏見は無くなった。

 

 その遠征の成果により、レイは第一部隊の隊長に配属され、魔王の護衛を務めることになり、ヴェイラも魔法の技術面が認められ、攻撃に特化する第十八部隊に配属されることになった。


 他のレイの隊員も、今回の遠征で認められる者が多く、他部隊に移動する者が多かった。

 

 翌日には、この隊はほぼ解散になってしまう。

 その事を頭に残しながら、最後の時間をヴェイラとレイは、二人きりで過ごした。

 

 「なぁ、ヴェイラ」

 

 切り出したのはレイだった。

 

 「はい……なのです」

 

 ヴェイラの声は、心なしかか細い声だった。

 

 「ここまで来れたのも、お前のお陰だとずっと思ってる。あの特訓、初めはお前の魔法があまりにも下手で、イライラして教えていたのだが、一緒に剣も振ってるうちに、お前がよく頑張ってる事が伝わってきた。一生懸命な所、まっすぐな所。そんな所が好きだ。いや、お前の全部が好きだ。ヴェイラ。俺の恋人になってくれ」

 「……!っ、はい、なのです!」

 

 その言葉を聞いたヴェイラは、目に涙を浮かべ、緊張がほぐれたのか、一気に大声で泣き出した。

 

 「うわぁぁぁぁぁん!!」

 「えっ!? な、なんで泣くんだよ?」

 「ひっぐ。だ、だって、今日でレイと離れるのが寂しかったのです……! うぅっ」

 「そんな事で泣くな。俺はヴェイラを離すつもりはないから安心しろ」

 

 レイは、泣きじゃくるヴェイラを抱き締めた。

 

 「絶対に、ヴェイラをおいて行かないで下さいなのです」

 「……あぁ」

 

 レイの腕の中から、にっこりと泣き顔のヴェイラは顔を出した。

 

 ◇

 

 ヴェイラは目が覚め、欠伸をする。

 

 (……よく寝たのです。ふふ。懐かしい夢でした…………あれ?ここの部屋って……)

 

 ヴェイラは辺りを見回す。部屋にはヴェイラ一人だけで、レイの姿は見当たらず、手元には毛布が掛かっていた。

 

 (はあっ!! ヴェイラ、勝手にレイの仕事部屋で寝てしまったのです!)

 

 どうしよう、とヴェイラはあたふたと慌ててソファの上から起き上がり、その部屋を出る。

 

 第一部隊の待機室は、普段副隊長のニェイと、隊長のレイしか使っておらず、ほとんど誰もいない。

 それは今日も同じのようで、誰もいなかった。

 

 (あわわわわわ、仕事に遅れちゃうのですー!)

 

 各部隊は、朝に集合することが義務になっている。その時に今日の予定も伝えられる事になっており、遅刻するとかなりヤバイのである。

 

 ヴェイラは急いで集合場所の食堂へと向かう。

 

 食堂へは、ヴェイラ以外の隊員が揃っていた。

 

 「遅いッ!」

 

 腕を組み、仁王立ちをして待っていたのは、第十八部隊隊長である、オーガのクリスだった。

 

 「ひあぁっ!? ごめんなさいなのですー!!」

 「一時間だぞ? 流石に待たせすぎじゃねーか?」

 「うぅぅ。超ブラックな医療班に送ったのは誰なのですか!!ヴェイラは一日中頑張ってたのですよ!?」

 「うるせぇ。魔王様からの命令だったんだぜ? 俺が断れる訳ねぇだろ。んなことより、さっさと並べ。第十八部隊の副隊長は誰だったかなー?」

 「……はいなのですぅ!」

 

 不服そうにしながらも、ヴェイラはクリスの隣に並ぶ。

 

 「よし。ンン"ッ、……おはよう、第十八部隊の諸君。何時もなら点呼とって手伝い来てほしい奴だけ残して終わりなんだが、今日は珍しく上が慌てててな。会議で聞いた話じゃあ、なんでも勇者が魔王城付近まで来てるらしい。そんでもって、第二部隊から第十七部隊が全て落ちた」

 『ーー!?』

 

 落ちた、とその言葉を聞き、大半の者は驚きを隠せずにいた。

 十六の部隊が全て勇者にやられた、という事になる。

 

 「ど、どういうことですか!?」

 「一体何があったのですか!?」

 「落ち着け。どうやら俺ら魔族の中に裏切り者が複数人含まれていたらしい。それが各部隊に潜んでおり、そいつらの奇襲にやられたようだ。どうやら裏切り者はバカじゃあないようで、問題を起こしてすぐに撤退していった。それと、第一部隊の裏切り者は対処済みで、俺らの部隊はさっき俺が片付けておいた。安心しろ。ちなみに今は地下で拘束している。これから拷問するわけで、本来ならヴェイラとかにやらせるべきなんだろうが、今回ばかりは重要すぎるから俺がやることになった。えー……以上。また随時連絡はするつもりだ。招集する場合は魔王様が全体に連絡する。じゃ、解散解散ー……はぁ。拷問クソだりぃ……」

 

 クリスは説明し終えると、帰れとばかりに手で追い払うよう指示する。

 

 (た、大変なのですね……。どうしましょう。この後やることもないですし……あっ、そうなのです!勇者の偵察に行ってくるのです!ふふふ。我ながら面白くなりそうなのです…!)

 

 こうしてヴェイラは、魔王城付近に居ると言われている勇者達の様子を観察しに行った。

 

 ◆

 

 レイ。

 それは今や魔界では知らぬ者はいないほど有名な人物。いついかなる時でも忙しい身の者である。そんな忙しいレイは、今日は一段と疲れていた。

 

 「……はぁ……」

 

 ふと、疲れのあまりに溜め息が溢れる。

 それが聞こえたのか、本来そのような事をする性格ではないと内心驚きつつ、魔王はレイをチラリと見た。

 

 「随分と疲れているようじゃな、レイよ」

 

 魔王の言葉ではっとなり、自分の失態に気づく。

 

 「ええ、まぁ。しかし、魔王様の心配には及びません」

 「無理するではないぞ?今日はただでさえ十六の部隊が落ちたのじゃ。生き残っているお主とクリスの部隊にも頑張ってもらわねばならん」

 

 レイは魔王のその言葉に、ことの重要さがどれだけ大きいのか再確認される。

 

 「はい」

 「ところで、拷問の結果はどうだったのじゃ?」

 

 切り替えていこう、と、手に持っていた資料を魔王に渡す。

 

 「はい。そちらに全て纏め上げましたが、一応報告致します。まず、人間達は、エルフ、ドワーフ、精霊などの、魔族以外の種族を仲間に付けました。今回の奇襲は、それぞれの種族が混ざっていたようで、各部隊が仕留められなかったようです」

 

 魔王は、資料を捲りながらレイの言葉に耳を傾ける。

 

 「ふむ。人数も多かったようじゃな」

 「左様でございます。さらに嫌な情報ですが、どうやら勇者パーティには天使が混ざっているようです」

 「何?レイよ、詳しく説明するのじゃ」

 「詳しくはあまり聞けませんでしたが、恐らく天使は勇者が召喚し、仲間になったのでしょう。どの階級かは分かりかねませんが、恐らく四大天使のうちのどれかなのかと思われます。拷問で得た情報は以上です」

 「……なるほどのぅ。第十八部隊の特攻を考えようかの」

 

 魔王は資料をパラパラといじりながら、そう思案した。

 

 (どうしてこんな事になったんだか……。はぁ。やはりヴェイラが足りないな……)

 

 レイにとってヴェイラは癒しそのものであり、生き甲斐でもあった為、何時もこうしてヴェイラのことばかり考えていた。

 

 (正直、魔王も勇者もどっちでもよくなってきたな。……早く終わらないのだろうか………)

 

 ◆

 

 魔王城四階ーー。

 

 勇者達はそこで、休憩をしていた。

 その様子を、ヴェイラは気づかれないよう、こっそりと除き込んだ。

 

 人数は六人。

 その中から予めリストアップされていた人物を当て嵌めるとこうなる。

 

 魔法使い、メイラ

 聖女、ハレイナ

 エルフの弓使い、サールイ

 大剣使い、ガルヴィン

 天使、ミカエル

 勇者、ルキア

 

 この六人全員が、大きく円を作って休憩もとい、作戦会議を行っていた。

 

 「よしっ。皆、魔王城の最上階まであと少しだ」

 

 そう意気込むのは、リーダー感のある、勇者ルキア。

 

 「あと二階ですね、皆さん!」

 

 明るく声を張ったのは、聖女ハレイナ。

 

 「ああ。長かったな……」

 

 今までの旅を振り替えっている、大剣使いのガルヴィン。

 

 「ふふ。どれもいい思い出よ。個人的には、四大天使のミカエルさんが仲間になったのが意外ね」

 

 笑顔でミカエルを見ながら言ったのは、魔法使いメイラ。

 

 「私は、面白ければ何でもウェルカムよ!まぁ今回は、上の人から命令が来たから降りてきたのよね。正直、私も今回の魔王はバランスがおかしいって思ってたから、上からの命令も納得しちゃったわ!」

 

 これまでの経緯を軽く語る、四大天使ミカエル。

 

 「そうですね。それにしても、今回の戦いでこのパーティが最後となると、僕、かなり寂しいです……」

 

 凹みがちな、エルフの弓使い、サールイ。

 

 それぞれが、それぞれの国から派遣され、旅に出たメンバー達。名残惜しいのは明らかである。

 

 「はいはい。気は抜くなよ?何時襲われてもおかしくない状況なんだぞ?」

 「勇者様、ご安心を!わたくしの結界が有る限り、此方にはこられませんから」

 「そ、れ、に!四大天使の私に勝てる魔族何ていないもの。身の安全は保証するって、一番最初に言ったじゃない」

 「そうだな。まぁ、それもあるが、魔族側も今回の奇襲で大ダメージを食らってるはずだ。今俺たちを襲う余裕なんて無いだろ」

 「十六も落としたんでしょ?すごいよねー!」

 

 敵地なのにも関わらず、楽しく会話する勇者達の横で、ヴェイラはしっかりと勇者達の顔を覚える事にした。

 

 (うぅ。名前と顔が一致しないのです……。がんばって覚えるしかないですね……。というか、勇者達頑張りすぎだと思うのです。あと二階上がれば魔王様が居る所なのですけど……)

 

 すると、突然近くを通っていたモンスターが勇者達を襲う。

 

 全員が焦る事もなく、そのモンスターを眺めていた。

 

 「なんだ。ただの虫か」

 「えぇっと、僕がやればいいんですよね」

 

 サールイはそう言い、背中に装備していた弓で全てのモンスターを貫いた。

 

 (えぇぇぇ!? い、一瞬!? あれって確か、野良のオーグでそれなりに強いハズなのですけど……?)

 

 「ふぅ」

 「やるじゃない」

 「別に体したことないですよ。魔王の方がもっとヤバイのは明確ですから」

 

 (あわわわわっ! 勇者たち、思ったよりも強すぎるのです!……見つかる前に帰った方がよさそうですね)

 

 ◇

 

 ヴェイラが本部に帰ると、第十八部隊全員が慌てていた。

 

 (おや……?)

 

 ヴェイラが不思議に思っていると、隊長であるクリスが此方へ寄ってきた。

 

 「お前、今まで何やってたんだ!? 探すのが大変だっただろうが!」

 「す、すみません!!」

 「はぁ……まぁいい。説教する時間もねぇからな。いいか、よく聞け。第十八部隊の特攻が上から命令された」

 「ふあっ!?」

 

 ヴェイラは驚きが隠せず、思わず声に出してしまった。直ぐにはっとなるが、クリスの顔はより険しくなる。

 

 「……」

 「ご、ごめんなさいです」

 「ちょっと黙ってられるかなぁ?ヴェイラちゃんよぉ?」

 

 (ひぃ!出たぁ、隊長の怖いときに出る声が変わるやつ!)

 

 ヴェイラはびくびくしながら、黙ってコクコクと頷いた。

 

 「勇者たちは四階まで来ているようでな、上としても相当焦っているようだ。後二階上がったら魔王の間だ。勇者たちに奇襲を仕掛けられる最後のチャンスと言ってもいい。決行は今夜。勇者たちは今日中に五階までやって来る予定らしいもんで、その隙を狙うってんだ。注意すべきは勇者と召喚されたって噂の四大天使、それと聖女だ。まぁ、お前は何時も通り後ろで俺たちの支援をしてればいい。分かったか?」

 「りょ、了解なのです……!」

 「分かったんなら早く準備しろよな!後三十分で五階に行く予定だぞー!」

 

 クリスはそう言って、他の隊員の方へと向かっていった。

 

 (つ、ついに来てしまったのです……。私達は、勝てるのでしょうか……)

 

 不安を抱きつつも、ヴェイラは自身の装備を整える事にした。

 

 ◇

 

 三十分後。

 

 ヴェイラ達第十八部隊は五階までやって来た。

 各自身を隠せる場所を見つけ、勇者が来るまでその時を待った。

 

 (死なない。それだけは決定事項なのですよ…!)

 

 約十分後。勇者達はやって来た。

 

 「今だッ!」

 

 隊長であるクリスの響く声に続きながら、第十八部隊の前衛隊は勇者に突撃する。

 

 「メイラ」

 「オッケ~」

 

 勇者達はその様子に焦ることなく、魔法使いのメイラが近付けないように強い結界を張り、近づいてくる第十八部隊に炎の魔法を放った。

 

 「くっ。お前ら一旦退け!」

 

 クリスのその指示で、突撃していった第十八部隊はメイラの炎を回避する。

 そして後ろへ退く時、チラリと此方へ向いたことにヴェイラは気づく。

 

 (出番なのです!)


 『皆さん、いきますよ!』

 

 そう思い、ヴェイラはテレパシーで後衛の人たちに合図をする。返事は返ってこないが、全員分かっている様子だった。

 

 そしてその瞬間、目が眩むような、先程の魔法使いが使う炎以上の炎々とした炎が勇者達を目掛けて放たれた。

 

 ヴェイラ達、第十八部隊後衛隊が放った先程の強力な魔法。複数の魔法使いが特定の魔法使いに魔力を受け渡すことで放つことができる、ヴェイラ達自慢の魔法であり、あらゆる結界をも壊すことのできる魔法で、普通の水魔法や氷魔法でこの炎は消えやしない、そんな強力な魔法だ。

 

 さすがの勇者達も驚きを隠せずにいた。

 

 「あっつ!なんとかできないの!? メイラ!」

 「今やってるわよ!」

 

 魔法使いのメイラはその炎をなんとか消そうと水魔法で消しているが、一向に消える気配がしない。

 

 「ーーっ、な、なんで!? なんで消えないの!?」

 「メイラさん、わたくしに任せてください」

 

 聖女のハレイナは、メイラにニッコリと笑顔を見せてそう言った。

 

 「ハレイナ……。分かったわ。貴女に任せるわよ!」

 「無茶だけはするなよ」

 「分かってます、勇者様」

 

 そしてハレイナは、放たれた炎に手をかざし、浄化の魔法を唱えた。

 

 浄化というのは、聖女が持つ魔法で、回復魔法に近いもの。

 ハレイナは、浄化をすることで、この炎も消えると考えたのだ。

 

 ハレイナの予想したことは当たっていて、少しずつ炎が消えていた。

 

 「! 開いてきた!」

 「……ッ!流石、最上階に近い魔族なだけありますね……!ミカエルさんも手伝ってください!」

 「え、えぇ!分かったわ!」

 

 天使も浄化の魔法を扱える者の一人であるため、ハレイナはそう言い、ハレイナに言われてはっとなったミカエルも、ハレイナの手伝いをすることにした。

 二人でやると更に炎が消えるスピードは上がり、少しずつだったが、人一人くらいなら通れる隙間が出来た。

 

 「皆さん燃え移る前に早く!」

 「二人ともありがとう!ガルヴィン!先に行って攻撃してくれ!後から僕も行く!」

 「了解だ!」

 

 勇者ルキアの指示により、大剣使いのガルヴィンが先頭を行く。

 

 するとーー

 

 「おらよッ!」

 

 後衛からの支援で強化された、第十八部隊隊長のクリスが攻撃した。

 

 「ふっ。まだこんなに強い魔族が生き残ってたなんてな」

 「はっ!買い被ってんじゃねぇよ。てめぇらだって相当つえーだろ?」

 「当たり前だ」

 

 大剣使いのガルヴィンは、自身の相棒である大剣を使って、クリスを振り払う。

 

 その隙に、勇者パーティー全員が炎の壁から抜け出ていた。

 魔法使いのメイラが左右から来る敵を殲滅し、後ろを弓使いのサールイが片付けていた。

 

 「ルキア!」

 

 ガルヴィンから名を呼ばれ、勇者は自分の剣を抜き、自身の持つ最大で最高の魔法を放つ。

 

 「ーーなっ!全員身を守れ!!」

 

 その攻撃の驚異性に気がついたクリスは、僅かながらも指示をするが時既に遅し。全てが終わった後だったのだ。

 

 「クリエイト・サンシャイン!」

 

 瞬間、辺りは真っ白に輝き、その部屋全体に魔族だけに効く光の魔法で包まれる。

 後ろで身を隠していた隊員も、光の魔法で次々と倒れていく。

 

 光が収まった頃には、そこに魔族の死体が大量にあった。

 

 全て、第十八部隊の隊員だった者達である。


 勇者達はその様を見て、ほっと安心していた。

 

 「……ふぅー。結構強かったね。皆お疲れさま」

 「いやいやあんなの楽勝でしょ!さっすが勇者ルキア様って感じ!」

 「はい!皆さんすごかったです!僕なんて、殆ど何もしてないような者ですよ!」

 「そんなことないよ。サールイも頑張ってくれたじゃないか。充分パーティーに貢献してくれてるさ」

 「ルキアさんほどじゃないですけどね」

 「皆さま、お怪我はありませんか?わたくしが治癒しますよ」

 「って、ハレイナ。それより、まずは安全な場所に移動しないんですの?私魔力不足で次来られたら気が気でないわ」

 「ミカエルの言う事も一理あるね。それじゃあ安置ポイントまで移動しようか」

 

 勇者パーティーはそんな会話をしながら、その場を移動していく。向かうは魔王の間。そのすぐそば。

 

 残されたのは、亡くなった第十八部隊の隊員達。

 

 全員が亡くなった……のではなく、たった一人。ただ一人。生き残っている者がいた。

 

 「……はぁ、はぁっ!」

 

 たった一人。ヴェイラは生き残っていた。

 

 ヴェイラは勇者たちが去るまで、ずっと息を潜めていた。生きていると悟られたとき、今度こそ殺されてしまうと思ったから。

 

 ヴェイラは亡くなった仲間を見て、その目から涙が零れた。

 

 「……っ、みん、な……!死んじゃ、ダメッ!生きて、生きてヴェイラ達と幸せに、暮らすのです!」

 

 ヴェイラは必死に蘇生魔法を掛けるが、びくともしなかった。

 

 (どうして蘇生魔法が効かないのです……!? まさかあの光が!?)

 

 ヴェイラは顔が涙でぐしゃぐしゃになりながらも必死に考える。

 

 一人でも多く助ける為に。

 

 (落ち着いて。誰か、誰か一人でも……!)

 

 ヴェイラは、生命力を探知する魔法を使い、その場所に生き残っている者を探しだした。

 

 (……!いた!一人だけだけど、生きてた!)

 

 ヴェイラは微かに生命反応があった者に、回復魔法を掛けた。

 

 「……ッ!ぐっ!カハッ!……? ヴェイラ……か?」

 「!よかった。よかったのです!クリス!」

 

 生き残っていた者とは、最後の最後にその魔法の正体に気がついていた隊長のクリスだった。

 クリスは体の至る所に怪我を負っており、起き上がる事すらできそうにない状態だった。

 

 「……な、んで、カッハカハッ!」

 「無理して喋っちゃダメなのです!今治癒するのですよ!」

 

 ヴェイラはクリスの傷をどんどん癒し、先程の大怪我が嘘のように無くなっていた。

 

 「……ふぅ。とりあえず、これで動けるくらいには回復出来たはずなのです」

 

 ヴェイラは治癒をし終え、ほっと一息つく。

 

 「お前、なんで生き残ってんだ」

 「はい?」

 「だから、なんで勇者のあの魔法がお前には効いてねぇんだって話だ!」

 「……えっと?」

 

 クリスにそう問われ、一番困惑していたのはヴェイラ自身だった。

 

 「あの魔法は魔族を滅ぼす魔法で、浴びた奴は絶対に死ぬ魔法だ。あれは魔王様じゃねぇと抵抗すらできねぇもんだぞ?それを浴びて無事でいるお前が不思議でならねぇ」

 

 (魔王……なるほどなのです)

 

 クリスのその説明を聞いて、ヴェイラはようやく理解した。

 

 「……そういうことなのですね。クリスは、ヴェイラのお守りをちゃんと持ってたのですか?」

 「……? あ、ああ」

 

 クリスは自身のポケットに閉まってあった、ヴェイラお手製のお守りを取り出した。

 

 「これがどうかしたのか?」

 「まぁ、落ち着いてなのです。実はですね、クリス。ヴェイラは、魔王様の血縁なのです」

 「血……縁……?」

 「そのお守りは、命の危機になった際、自動的に結界魔法が張られる仕組みになっているのです。他の皆にもあげたはずなのですが、多分持っていなかったのだと思うのです。クリス、ちゃんと持っててくれてありがとなのです!」

 

 ヴェイラはニッコリと笑う。

 次々と流れてくる情報に、クリスは混乱しそうになり、一旦内容を整理する。

 

 「つまりヴェイラは魔王様の親族で、勇者のあの魔法が効きずらいから死ななかったわけで、俺が生き残っているのもヴェイラのお守りで命をとりとめた……ってことか?」

 「そうなるのです」

 

 クリスはため息を付く。

 

 「……はぁ、なるほどな。ありがとよ、ヴェイラ」

 「とんでもないのです!ヴェイラは、一人だけでも生きてることが嬉しいのですから……」

 

 そう言うとヴェイラの目には、涙が浮かんだ。

 

 「おいおい泣くな。まだ戦いは終わってねぇぞ」

 「わ、わかってるのです」

 

 ヴェイラはその溢れる涙を拭く。

 そして、今にでも泣きたい気持ちをぐっとこらえた。

 

 「とりあえず、これからどうする、か……。まずはこいつらを簡単にでも埋葬してやんねぇとな……」

 「そう、ですね……」

 

 埋葬している時の二人の表情は、ずっと暗いままで、一人一人、土の代わりに布をかける。

 死んでしまった仲間達は、綺麗な状態で死んでおり、まるで魂だけが抜き取られたような様子だった。

 

 数十分後。

 二人は全員の埋葬をし終える。

 

 「それじゃ、魔王様の手助けにでも行くかぁ?」

 「……だめ、なのです」

 

 魔王を手伝うことにヴェイラは否定する。

 

 「……なんでだ?」

 「あの魔王は、リオネスは信用できなのです。ヴェイラはリオネスがそんなに好きではないのです。ずるい能力をずっと持ってて、それを利用してまで生き残ろうとしているセコい人なのですよ! それに、今姿を見せると真っ先に死ぬのは目に見えているのですから。……ヴェイラは、もう仲間が死んでほしくないのです。だからここは、隠れている方が最適なのです。姿を見られないように」

 

 ヴェイラはクリスや亡くなっていった第十八部隊を見ながら、魔王を助けることに否定的な様子を見せる。

 

 「……お前がそこまで言うなんて初めてだな。いいだろう」

 

 ヴェイラの真剣な気持ちから、クリスもヴェイラの考えに納得している様子だった。

 そして二人は、五階で待機することにした。

 

 ◆

 

 その頃勇者達は、魔王戦に備えて準備をし、六階へと上がっていた。

 そして六階に上がったその時。またも魔族に襲われる。次は第一部隊の隊員だった。

 第一部隊の隊長は魔王の護衛のため不在で、代わりに副隊長のニェイが指揮していた。

 

 勇者達は魔王戦に備えて力をここで消耗するわけにもいかず、どう倒せばいいのか苦戦していた。

 

 そして、とある判断をした。

 

 「ルキアさん、先に行ってください」

 

 勇者を先に行かせるように提案したのは、弓使いのサールイ。

 

 「!? 何を言ってるんだサールイ!」

 「この量なら、僕とガルヴィンさんだけでなんとかなる気がするんです。なので、先に行って魔王を倒して来てください!僕たちなら、これを片付けた後にすぐ行きますから!ねっ、ガルヴィンさん!」

 「あぁ!そうだな!」

 「二人とも……」

 「ちょっと待ってください!怪我をしてしまったら、誰が回するんですか?」

 「ハレイナ?」

 「回復役には、わたくしが最適でしょう?」

 「で、でも、ハレイナさんは、ルキアさんに着いていった方がーーーー」

 「それならミカエルさんがいるので充分です。いいですよね?勇者様」

 

 ハレイナはそう言って、自信に満ち溢れたような表情をする。その様子にルキアも三人の要望に答えるべく、

 

 「分かった」

 

 と答えた。

 

 「おっし。じゃあ、俺が一瞬だけ道開けっから、その隙を逃すんじゃねぇぞ!!」

 「うん!二人もいい?」

 「ええ!」

 「油断するまでもないわ!」


 メイラとミカエルはルキアのその言葉に頷く。

 

 そしてガルヴィンが大剣を振り下ろしたその時、下ろした時の衝撃で第一部隊の隊員が二つに分かれ、宣言通り、魔王の間までの道が開けた。

 

 「今だッ!」

 

 ガルヴィンは三人にそう声をかける。

 三人はその言葉に続いて前へと進んだ。

 

 「ーーッ!まずい!そこの奴等!! 勇者を止めろッ!」

 

 魔王の間へと向かうその三人に気がついたニェイは、すぐさま阻止するよう指示するが、サールイの矢で止められる。

 

 「貴方達の相手は僕達です!」

 

 サールイは挑発するようにそう言った。

 

 ◇

 

 勇者たちが魔王の間へ着くと、そこには魔王リオネスと、第一部隊隊長のレイが居た。

 魔王は、中央の一番奥にある玉座に頬を付いて勇者達を見下していた。

 

 「よくきたな。勇者よ」

 「お前がーッ!行くよ、二人とも」

 「油断禁物のラスボスね~!うん、絶対勝つ!!」

 「ええ。分かってるわ!」

 

 三人は互いに声を掛けながら、魔王への攻撃を始めた。

 

 魔王は勇者たちが動いたところで何もせず、代わりに護衛のレイが動いた。

 

 レイは向かってくる勇者を剣で受け止める。

 

 「ッ!まずはこいつを倒せってことか」

 「……そうだな。やれるものならやってみろ!……と言いたいところだが」

 

 レイはそこで言葉を切り、勇者を吹き飛ばす。

 

 「勇者。一つ、聞いていいか」

 

 勇者ははレイのその行動が不思議だった。

 

 「……?あ、あぁ」

 

 少し遅れながらも、レイの質問に答える。

 

 「此処へ来る前、五階で奇襲にあっただろう?」

 「そうだが、それがどうかしたのか?」

 「……全員、殺したのか?」

 「当たり前だろう?そうでなければここまで来れない」

 

 レイはその言葉を聞き、少し間を置いた後、氷河魔法を放った。

 その途端、凍りつくような空気が勇者達を襲う。

 

 「……そうか。ならばこれは……復讐だ」

 

 ◆

 

 一方五階で待機していた二人は……

 

 「なぁ、ヴェイラ。何時までここで待機するつもりなんだ?」

 「……」

 

 ヴェイラはクリスの問いに答えず、何かを焦っている表情を浮かべた。

 

 「……レイが」

 「あ?」

 「…………クリス、着いてきてなのです」

 「何処にいく気だ?」

 「魔王の所までいく近道なのです」

 

 そう言ってヴェイラは、クリスを連れて魔王の間へ向かう。

 

 ◇

 

 歩いている途中、魔王の近くまで来た所。

 

 「ーーっ!クリス、急ぐのです!」

 

 異様に焦るヴェイラを見つつ、クリスはその後を追う。

 

 そして魔王の間へと着いた。

 そこは、魔王側としては絶望的な状況だった。

 

 勇者の仲間達全員が揃っていて、床に倒れるレイと、血を流す魔王。

 大方、レイと勇者が戦って居たところ、途中で仲間が戻ってきたので、勇者が魔王の心臓を刺し殺した。しかし魔王は死なず、代わりにレイが死んでしまった、という流れだろう。

 つまり、勇者達が圧倒的に有利な状況だった。

 

 ヴェイラはそこに着いて直ぐにレイのところへと一目散に駆け寄った。

 

 「レイッ、レイッ、レイッ!」

 

 ヴェイラはレイの亡骸を抱き、蘇生魔法を掛ける。

 しかし反応は無い。


 (………また…?……違うこれは)

 

 「な、何者だ?まさか魔王の仲間か?」

 「なーに慌ててんの!さっさとやっつけちゃえばいいでしょ!」

 「そうですよルキアさん!僕たちも下の人たちを片付け終えましたし、それに、今なら勝てそうな気がするんです!」

 「言うじゃねぇかサールイ」

 

 勝てると気合いを入れている勇者達。しかしそこに、反論する者が居た。

 

 「気合入れてる所悪いけど、あれは……!」

 

 ミカエルがそこまで言おうとした所で、魔王がワナワナと叫んだ。

 

 「何故、何故生きておるじゃ!!お主はあの時死んだはずなのじゃ!!」

 「……あー……お久しぶりなのです、兄様」

 

 『兄様!?』

 

 そこに居る全員が、そう思った事だろう。

 

 「は?兄?訳のわからぬ事をぬかすな、ヴェイラ。お前は危険人物じゃ。あの時だって、我の魔王就任の儀を邪魔しおって!!」

 「当たり前なのです。お前が魔王になれたのだって、単なる奇跡。“最高の次期魔王”って言う肩書きだって、本当はヴェイラを指している言葉だったのですよ?それをお前がしょうもない魔法で改編させるからこうなってしまっただけなのですから」

 

 そう淡々と語るヴェイラの表情は、無表情だった。

 

 「だから、何故あの時死んで無かったのじゃ!!」

 「死ぬわけ無いでしょう?だってヴェイラは、“最高の次期魔王”だから。だから死んでくだ」

 「待てよヴェイラ!!」

 

 ヴェイラが魔王を殺そうと刃物を手にしたその時、遠くで様子を見ていたヴェイラの手を掴んで拘束した。

 

 「……!お前、あの時ルキアの魔法で死んだ奴じゃねーかよ!!」

 「外野は黙っとけ!んな事よりヴェイラ!!魔王様を殺す気か!?」

 「分かってるなら邪魔しないで」

 

 ヴェイラは何時ものような口調や雰囲気と一転するように変わっていた。まるで糸がプツンと切れたように吹っ切れている様子で。

 

 (っ、コイツ本気だッ!)

 

 「分かってんのか?魔王様だぞ?しかもお前にとっては家族なんだろ!? 殺すってどうかしてやがるぞ!!」

 「クリスだって知ってるでしょ? アイツはズルい事してるの。殺さなきゃいけないんだってば」

 「魔王様を殺したら俺らだって死ぬんだぞ!? 知らないとは言わせねぇ!!」

 「分かってるって」

 

 魔王は魔族の核。いわば心臓。魔王が死ねば魔族も滅ぶ。それがこの世界での魔王の存在する意味。

 

 「いい? クリス。アイツは魔族が居る限り死なないの。殺しても他の魔族が死んで、自分と死んだ魔族の運命を入れ換える。アイツが死んだとしても、それは魔族が全滅したときだけなの。アイツはね、洗脳系の魔法と基本の魔法しか使えないくせに、自分の都合のいい性質にすがってる屑なんだよ」

 

 ヴェイラのその言葉に、その場に居る全員は唖然する。

 

 「あ……だ、だから魔王の心臓を刺した時、死ななかったんですね……!」

 「確かにアイツ、途中までクソ強かったのに急に倒れたな…」

 「ほら、勇者達も納得してるじゃん。レイが死んだのもコイツが魔王になったせい」

 「……」

 

 クリスは反論する言葉も出なかった。

 

 「……チッ。……分かった。その代わり、俺は死ぬのは嫌なんだ。それはどうにかしておけよ」

 

 そう言ってクリスはヴェイラを放す。

 

 「既に解決した問題だよ」

 

 ヴェイラはニッと笑った。

 

 「さて、リオネス。準備は?」

 「っ、本音を言えば、逃げたい所じゃな」

 「そう」

 

 瞬間、魔王の左側の髪がハラリと切れる。

 

 「せいぜい逃げればいいと思うよ。ま、今度はちゃんと殺すから」

 

 ヴェイラは手に紫色の光を浮かべる。そしてそれを魔王に向かって投げた。そして一定の所まで進んで爆破した。

 それは只の光ではない。魔王おも破滅させる魔法である。

 

 その光から魔王は必死に逃げる。

 

 「ふふ。大丈夫かな~」

 「っ!」

 

 ヴェイラは建物を利用して、魔王の行く手を防いで行く。

 魔王は少しでも生き延びる為に逃げていくが、ついに追い詰められた。

 

 「行き止まり。気分はいかが?」

 「……っ!……はぁ。これは無理じゃのぉ。流石と言っておくか」

 「まぁ、魔王としては頑張ったんじゃないん?」

 

 魔王は息を切らしながらも、ヴェイラに一つ質問をする。

 

 「一つ、いいかの」

 「何?」

 「お主、よく我の妹だと嘘をつけたの」

 

 その質問は、ヴェイラが魔王の妹ではないと言っているようなもの。

 

 「嘘じゃないよ。あの時はリューラだったから」

 「はぁ? まるでお主がリューラ自身だと言っておるようだが?」

 「うん、その解釈はあながち違ってないよ。ヴェイラはね、リューラに生きて欲しかった。だから、ちょっとだけ、真似して、リューラの代わりに、リューラのように生きていたかった」

 「ますます訳が分からぬな」

 「それでいいよ。まぁ、お前の妹、リューラはヴェイラの親友だったから。……今でも忘れられないの。リューラのこと」

 「……そうじゃよ。我は最初、妹を殺す気など無かったのじゃ」

 

 それは二人にとっては忘れもしない話。

 

 ◆

 

 これはリオネスが魔王になる前の話。

 

 その頃、先代の魔王は次の魔王を誰にしようかと悩んでいた。大体の魔王は自身の家族から選ぶため、今回もリオネスが選ばれると思われていた。しかし、当時には、もう一人の天才が居た。

 

 その名はヴェイラ。ヴェイラは剣の鬼才であり、立ち向かう者全てを打ち負かしていた。

 

 リオネスは相当心配していた。自身が魔王になれないかもしれないと。

 そこで、ヴェイラを殺すことにした。

 

 まずリオネスは、ヴェイラと仲が良かったリューラに、ヴェイラを呼び出してもらった。

 

 場所は魔王の血縁家族が住む屋敷の庭園。三人はそこでお茶会と言う名目で会話をしていた。

 

 「兄様、此方はヴェイラさんなのです!」

 「はじめまして、リオネスくん」

 「お主がヴェイラかの?」

 「はい。何ですか?ヴェイラを呼び出して」

 「悪いんじゃが、……お主、死んでくれぬかの?」

 「兄様!?」

 

 リオネスは剣を握ってヴェイラに立ち向かうが、勝負は一瞬で決まった。

 

 「ふふ。勝負あり……って、結構深いね。……あれ。ちょっと待って、これ大丈夫なの?」

 「ぐっうっ!殺す気か?お主は」

 

 リオネスは不思議だった。自分は死んだと思っていたのが、自分が喋れるくらい生命力があった事が。

 

 「あー生きてる。良か───っ!? リューラ!?」

 

 ヴヴェイラがチラリとリューラの方を見ると、何故かリューラが息絶えていた。

 

 「ヴェ、イラ、兄様……」

 「待って、待って! ダメッ! 死んじゃダメ! あぁぁ回復魔法が使えればっ!」

 「……はぁ、はぁ……私は、元々、そんなに長く無いのです。……死ぬ、日が、今日だっただけ、なのです」

 「ッ!そんなことを言うでないリューラ! お主は生きるのじゃよ!」

 

 ヴェイラは剣一筋で魔法はからっきし。リオネスは回復魔法を不得意としており、どちらも応急措置ができない状況だった。

 

 「……私、の、分まで、生き……て……なの、で……」

 

 そう言ってリューラの反応は途絶えた。

 

 「待って待って待って待って! ダメダメダメダメダメダメ! そんな、嘘……でしょ? っ、うわぁぁぁぁ!!」

 

 ヴェイラの泣き叫ぶ声が、ただ木霊する。

 この時、リオネスは初めて自分の性質に気がついた。

 自分が死ねば、周りの誰かが死ぬと。

 

 「は、はは」

 「……なんで? どうすればよかったの? ヴェイラがリオネスを……あ、あれ? なんで、お前は死んでないの?」

 

 ヴェイラもリオネスのその性質に気がついた様だった。

 

 「……まさか、お前──っ!」

 「気づきおったか? まぁ、我もついさっき気づいただけなんじゃがのぉ。フフ。素晴らしいと思わぬか? ヴェイラよ」

 「──っ!」

 

 ヴェイラは再び剣を持ち、リオネスを刺す。

 

 「無駄じゃよ。我が死ねば、他の誰かが死ぬだけじゃ」

 「それでもリューラの兄なの? 冗談じゃない。お前は滅ぶべき」

 

 ヴェイラがリオネスに刺した剣をより深く入れる。するとリオネスの胸から血がボタボタと落ちていった。

 

 「……ッ! な、何故じゃ!」

 「さっきの攻撃とはちょっと違うの、これ」

 

 ヴェイラはズシャズシャと肉を切り落とすように斬っていく。もう少しで殺せる────という所で、魔王一族に使える使用人が現れた。

 

 その後、ヴェイラはリューラを殺人した罪、リオネスを刺した罪で捕まった。

 

 リオネスは幸いにも一命をとりとめた。

 

 ヴェイラも措置をどうするかと、魔王達は話し合った。

 

 ヴェイラは魔界でも有名なほどの天才。時期魔王候補としても有名なほど、手放すのも惜しい存在だった。

 

 悩んだ末に魔王達が出した答えは、ヴェイラを殺さず、一年間軟禁することだった。

 ヴェイラもその措置で納得した。しかし、リオネスが魔王になる事だけは反対した。

 

 時は流れ一年後。その日は魔王就任の儀だった。


 新たな魔王が魔王になるには至ってシンプル。現魔王が新たな魔王に『邪神の指輪』を渡せばそれで就任。

 現魔王はリオネスを魔王に選んだ。

 

 ヴェイラは反発した。

 

 「だーかーら!! ダメダメダメ! ダメなんです! リオネスだけはダメなんです!」

 「ヴェイラ。そこまで言うなら理由があるんだろう? 申してみよ」

 「アイツが魔王になったら魔界は死人だらけになります! よくない。よくないんです!」

 「ふむ。ではヴェイラが魔王になるか?」

 「ムリなお話ですね」

 「ならリオネスで良い」

 「いや、だから、ダメなんですって!! あーもうこうなったら─────殺るしか無いじゃん」

 

 意思を揺るがない魔王にヴェイラは腹が立ち、ヴェイラは自身の剣を握ってリオネスに接近した。

 しかし、魔王はヴェイラのその攻撃を阻止した。

 

 「なんで邪魔するの?」

 「やりすぎだ。ヴェイラ。それ以上やったら流石のお前でも殺すが?」

 「いいよ。殺せばいいよ。何としてでもヴェイラはリオネスをーーーあ"ぁ"っ!」

 

 そして魔王はヴェイラを殺した。

 魔王はヴェイラの死体を処理し、魔王就任の儀を続けた。

 

 ◆

 

 そして今に至る。

 

 「今思えば全部お主のせいじゃよ」

 「は? 流石に横暴すぎ。ヴェイラはお前のやろうとしている事を阻止しようとしてるだけなんですけど」

 

 ヴェイラの言葉を聞いたリオネスは、大きく溜め息を付いた。

 

 「……我もここまで、か」

 「……死ぬ?」

 「勝手にすれば良い」

 「じゃあ、最後にいいこと話してあげる。ヴェイラ、レイと付き合ってるんだ」

 「なんじゃその告白は。ま、お幸せにって言っておく─────!」

 「あ、気づいた?」

 

 途端にリオネスは顔を真っ青にする。

 レイが死んでいることに気がついたのだ。

 

 「あ、わ、我……!」

 「大丈夫大丈夫。お前が死ねばレイは生き返るから」

 「……! リューラも、なのか?」

 「肉体が残ってればいいんだけどね」

 

 ヴェイラのその発言は、リューラの復活は無理と言っているようなものだった。リューラの死体はとっくのとうに腐れ果てているのである。何せ亡くなったのは五十年も前のこと。更に勇者との戦いで肉体が無事である保証もない。

 

 「……そうか。…ああ、そうじゃった。これは返しておかぬとのぅ」

 

 リオネスは自身の指から、魔王の証である『邪神の指輪』をヴェイラに渡した。

 

 「元々、お主の物なんじゃろ?」

 「……ふぅん。よく気づいたね」

 「わかるんじゃよ。魔王になったからには。というか分かったのはついさっきなんじゃが。まぁ、それを知ってて殺した先代魔王もなかなかじゃな」

 「ふふ。死なないって知ってたから出来た事なんだよ。あの人はね」

 「はは。先代魔王も大雑把な所はあったのぅ」

 「そういえば、ヴェイラの大好きな剣の不評を流しまくってたのって、リオネスだよね?」

 「……なんでもお見通しじゃのう」

 「だって、あれは腹が立ったんだもん。まぁでも、お陰でレイと出会えたんだし、感謝してあげるよ」

 「はは。ありがたいことじゃの。……ふぅ。……それにしても、よくよく考えれば名誉なことじゃな。お主に殺されると言うのは」

 「そんなに? ふふ。ちょっと嬉しいかも。もう、言い残す事はない?」

 「ああ」

 「……じゃあね、リオネス」

 

 ヴェイラは先程攻撃していた魔法で、リオネスを貫いた。

 貫かれたその瞬間、リオネスはピクリとも動かなくなっていた。

 

 (魔王討伐完了。リューラの事、ちょっと気にしてたから見直したかな。さーて、早くレイ復活させないと)

 

 ◆

 

 ヴェイラは、魔王の間まで戻ってきた。

 そこに行くと、じっと此方を見つめている勇者達と、心配していたであろうクリスが待ち構えていた。

 

 クリスが魔王を倒したのかと聞いてきたので、私は頷いた。

 そして勇者達は、魔王を倒したと言って半信半疑だったが驚いていた。

 

 「は、えぇ? アタシ達なんもしてないよね?」

 「う、うん。なんか実感ないよね……」

 「アッサリ終わったな」

 「はい、帰ってね~。君らの冒険は終わったよ~」

 「ねぇ、一ついいかしら?」

 

 真剣な眼差しで質問してきたのは、天使のミカエルだった。

 

 「うん。良いけどちょっと待って」

 

 ヴェイラはミカエルの質問を聞く前に、レイの蘇生を優先した。

 

 ヴェイラがレイに蘇生魔法を使うと、瞬く間にレイは起き上がれる程に回復していった。

 

 「ここは……確か、俺はさっきまで勇者と戦って………って、ヴェイラ!?」

 「おはよー、レイ!」

 

 ヴェイラは嬉しそうにしながらレイに抱きついた。

 

 「ふふ。よかったぁー」

 「な、死んでなかったのか?」

 「ヴェイラは不死身。死ぬってことはないから安心していいよ」

 

 レイはその発言の意味や状況が上手く飲み込めず困惑する。

 ヴェイラはそんなレイにこれまでの事を丁寧に説明した。

 

 「なるほど。つまり、俺が死んだのは魔王様のその特殊な性質で死んで、ヴェイラは魔王様を殺したと………随分と豪快な事をするな」

 「おいおいヴェイラ。説明が足りてねぇんじゃねーか?」

 「え?何が?」

 「お前が魔王様の妹って話!」

 

 クリスが怒鳴るようなトーンでそう言うと、ヴェイラは思い出したかのような表情を浮かべ、レイは目を見開いてヴェイラを見ていた。

 

 (あー、あの時はまだリューラだったから咄嗟だったけど、そう言う設定だったわぁー!)

 

 「ヴェ、ヴェイラ………? 本当なのか?」

 「嘘よ」

 

 レイが震えながら言ったその言葉に答えたのは、意外なことにミカエルだった。

 

 「ソイツはただの魔族なんかじゃないわ。魔王の妹なんて、もうとっくに死んでいるもの。ソイツはそれ以上の上の存在……邪神リィパ。そうでしょう?」

 

 (……! ……ふふ。流石に四大天使にはごまかせられないか。はぁ~しょうがない)

 

 「……あーあ。折角内緒にしてたのに。もしかしてそれが君の質問?」

 「そうね。こんな所に居たなんてビックリしたわ。創造神様が探しているのよ。さっさと戻って仕事しなさいって」

 「いーや?ヴェイラは帰らないから。代わりにリオネスって言う魔王送ったからソイツに任せてって言ってくれない?」

 「はぁ……流石リィパ様………まぁ、言うだけ言ってみますわ」

 

 二人の会話についていけない他の人たちは、何がなんだかサッパリなようで全員が目を丸くさせていた。

 

 「ミ、ミカエル、君の目的って本当は……」

 「そ。邪神リィパ様を見つけること。正直リィパ様は苦手だから気乗りはしなかったのよねぇ……」

 

 勇者も仲間の目的が魔王討伐と反れすぎて着いていけていない様子。

 こうして沈黙が続くのもよろしくないとヴェイラは思い、勇者達には帰ってもらうようにもう一度言った。

 

 「それじゃ、お帰りは此方になりまーす!」

 

 そう言ってヴェイラは王国までの転移門を開いた。

 

 「か、帰っていいのか?」

 「ま、殺されるのも困るし、ここは大人しく帰って魔王を倒したことにすればいいんじゃねぇか?」

 

 そう言ったガルヴィンを始め、勇者パーティ全員が帰国することに賛同し、王国へと転移門を使って帰っていった。

 

 「あの、ヴェイラさん?」

 「ん?」

 「ありがとうございました! あの、いろいろと!」

 「うん、じゃあね」

 

 勇者はそう言って丁寧にお礼を言って帰った。

 そして残ったのはヴェイラ、レイ、クリスの三人。

 

 「んで、ヴェイラ。これからどーすんだ?」

 「うん、どうしようか~」

 「何も決まってないのか……」

 

 二人はやや心配になる。

 ヴェイラのあまりにも適当な返答に不安さえ感じていた。

 

 「いいの。決まってないほうが楽しく過ごせるもん。ヴェイラが魔王になって、自由に過ごせばいい。うん、それで解決」

 「……ヴェイラ、性格変わったか?」

 「こっちが素。あれはリューラの真似事だよ。あ、もしかして、幻滅……したの?」

 「それはあり得ない話だな」

 

 レイは自信満々に答えると、ヴェイラは心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 


 


 最終的に、魔王側は三人しか生き残る事は出来なかった。第一部隊は蘇生魔法が効かず、復活させる事はほぼ不可能な状態であった。

 たった三人だけの魔王城だが、その城は今までの魔王城に比べてはるかに明るい雰囲気がしていたという。

 

 数百年後。魔王城外の魔界に住む魔物達が進化し、またも魔王城が活性化し、新たな勇者が生まれるということはまだ誰もしらない話……。

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