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外務省、異世界管理局  作者: 藍沢 理
第1章 異世界サミット、混沌の幕開け
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第3話 激闘の訓練場2

 午前十時、無限演習場。波留は山岳(﹅﹅)エリアで新たな対戦相手と向き合っていた。引き締まった筋肉質の体型、ポニーテールの女性――霧島(きりしま)カンナだ。


「私の動きが見えるかしら? しっかり観察してね」


 霧島の声が山肌に響き渡る。


 波留が目を凝らす中、霧島の姿が霞んだように揺らめいた。次の瞬間、波留の視界から霧島が消えた。


「えっ!? どこいった!? まさか透明人間!?」


 波留が周囲を警戒する中、予想外の方向から攻撃が襲いかかる。


「うぎゃっ!」


 左脇腹に鋭い痛みを感じた波留が振り向くも、そこには誰もいない。次は右肩を打たれ、さらに左足を払われ、すっ転んでしまう。


「な……何が起きてるんだ!!」


 波留の混乱は深まるばかり。霧島の動きは目で追うことができず、その気配さえも感じ取れない。


「……なんとなく分かってきたぞ」


 波留が状況を理解し始めた頃には、すでに体中が痣だらけになっていた。


 しかし、ここでも波留の脳裏に奇妙な映像が浮かび上がる。霧島の動きが、複雑なリスク分析チャートのように見えたのだ。


(これは……霧島さんの行動パターン? 点と線が繋がったアローダイアグラムみたいだ)


 波留はその直感を信じ、次の攻撃に備える。すると、予想通りの方向から霧島の攻撃が来た。波留は間一髪でそれを避けることに成功した。


「まさか! 私の動きが読めたの?」


 霧島の驚きの声が聞こえる。


「へへっ、僕に見えないものはないっ! ……って、あれ?」


 波留の得意げな発言も束の間、霧島はすぐに戦術を変更し、再び波留を翻弄し始める。


 結局、波留は霧島の予測不可能な動きに完全についていけず、三度目の完敗を喫した。今度は顔から地面に突っ込み、ケツがクイッと高く上がった状態で気絶していた。


「ふふ、面白い子ね」


 霧島は小さく笑った。


 *


 正午近く、無限演習場。波留は格闘場(﹅﹅﹅)で鬼塚剛と再び向き合っていた。上半身ははだかになっており、がっしりとした筋肉質の身体を見せつけている。刺青が浮かび上がる姿は、以前にも増して威圧的だった。


「オレの拳、テメエに見えっかな?」


 鬼塚の雄叫びとともに、巨体が波留に向かって突進してきた。


「うわっ!?」


 波留は必死に身を翻すが、かすめただけでも激痛が走る。鬼塚の拳は、鉄槌のように重かった。


(これが、鬼塚さんの不死身の肉体……! ていうか、筋トレしすぎじゃね!?)


 波留は精一杯の力で鬼塚の腹部を殴りつけた。しかし、トラックのタイヤを殴ったように固かった。当然その拳は跳ね返される。


「おい波留、テメエその程度か? オレの身体はそんくらいじゃびくともしねえんだよ」


 鬼塚の反撃が波留を襲う。蹴り一撃を受けただけで、波留の体は宙を舞った。


「うぎゃあああ! これじゃまるでサッカーボールじゃないか!」


 慣れ――だろうか。宙を舞う打撃を受けても、波留は意識を失うどころか、きれいに着地した。


 何度倒されても立ち上がる波留を見て、鬼塚は満足げに凶悪な笑みを浮かべる。


「根性あるな。でもまだまだだ!」


 最後の一撃。鬼塚のハイキックを側頭部にもらい、波留の意識は飛びそうになる。


 その刹那、鬼塚の姿が何かと重なって見えた。そして、またしても波留の脳裏に奇妙な映像が浮かぶ。鬼塚の体の各部位が、耐久性テストの結果表のように見えたのだ。


(あそこが……弱点? 耐久度の低い場所ってことか)


 波留は最後の力を振り絞り、その直感に従って蹴りを放つ。鬼塚の右膝裏を狙った一撃が、予想外の効果を生んだ。


「なっ!?」


 鬼塚は一瞬よろめく。


「へへっ、僕の必殺技、『官僚的直感』キック炸裂うううっ!」


 波留は得意げに叫んだが、それ以上の反撃はできず、再びハイキックをもらい、ついに力尽きてしまった。今度は仰向けに倒れ、両足を大の字に開いたまま気絶する波留。


「こいつ、毎回派手に倒れやがる。しかも、面白い能力(スキル)だな」


 鬼塚は呆れながらも、少し感心した様子で波留を見つめた。


 こうして、波留の激闘の訓練初日は幕を閉じた。全敗を喫したものの、波留の中に眠る「官僚的直感」の力が少しずつ目覚め始めていることを、誰も予想していなかった。


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