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外務省、異世界管理局  作者: 藍沢 理
第3章 局長奪還作戦
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第5話 帰還

 外務省大臣室、午前九時。波留と高千穂が外務大臣と最終交渉に臨んでいた。大臣の厳しい表情に、二人は身を引き締める。


「君たちが勝手にやった(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)異世界管理局の存在公表から一週間。世間の反応をどう分析していますか?」


 大臣の鋭い問いに、波留は「官僚的直感」を働かせながら答えた。


「はい。初めは混乱もありましたが、徐々に理解と支持が広がってます。特に、僕たちの長い歴史と、日本の安全保障における重要性が認識され始めてるんです」


 波留の言葉に、大臣は眉をひそめた。高千穂が波留の言葉を補足する。


「実際、世論調査では六割以上の国民が異世界管理局の存続を支持しています」


 高千穂が静かに目を閉じ、念話(テレパシー)を使って大臣の本心を探る。外務省の大臣室に漂う緊張感の中、わずかな躊躇(ためら)い、そして決断の兆しを感じ取った彼女は、さらに続けた。重厚な木製の机を挟んで向かい合う大臣の表情に、僅かな変化が見られた。


「そして、多くの国民が鴨居局長の処分撤回を望んでいます」


 大臣は深く息を吐き、背後の大きな窓から見える霞が関の景色を見つめる。高層ビル群の間を縫うように飛ぶ鳥の姿が、彼の目に映る。しばらくの沈黙の後、彼は再び波留と高千穂に向き直り、口を開いた。


「分かりました。鴨居局長の処分撤回を、前向きに検討しましょう」


 波留と高千穂は、喜びを抑えながら深々と頭を下げた。大臣室の厳かな雰囲気の中、二人の姿勢には決意と安堵が混じっていた。


 *


 首相官邸、午前十一時。首相、外務大臣、関係閣僚による緊急閣議が開かれていた。テーブルを囲む面々の表情は真剣そのものだ。


「異世界管理局の存続と鴨居局長の処遇について、最終判断を下す時が来ました」


 首相の重々しい声が、静まり返った会議室に響く。外務大臣が発言する。


「世論の支持、そして国家安全保障上の重要性を考慮すると、異世界管理局の存続は必要不可欠です」


 篠原哲也も同席していた。彼は咳払いをして言葉を継いだ。


「そして、鴨井局長の処分についても再考の余地がある。彼の経験と指導力は、今後の異世界外交に欠かせない」


 閣僚たちの間でささやかな議論が交わされる。首相は全員の意見に耳を傾けた後、ゆっくりと立ち上がった。


「決定しました。異世界管理局を正式に政府組織として認可し、鴨居局長の処分を撤回します」


 首相の言葉に、会議室にいた全員が深く頷いた。


 *


 深山コンプレックス作戦室、午後一時。波留たちはテレビで閣議の行方を見守っていた。神無月がポータルを開こうとするが、うまくいかない。


「ダメだ、官邸内には強力な結界が張られている」


 緋村が念話(テレパシー)を試みるが、首を振る。


「私も周辺の反応しか掴めませんわ」


 緊張が高まる中、霧島が突然身を乗り出した。


「待って……なにか、好転の兆しを感じるわ」


 全員が霧島に注目する。彼女の直感は、これまでも幾度となく的中してきた。


 *


 午後三時、国会議事堂。異世界管理局に関する緊急質疑が行われていた。与野党の議員が鴨居局長の処遇について激論を交わす。


「鴨居局長の経験は、我が国の安全保障に不可欠です!」


「しかし、情報公開の遅れは重大な問題ではないですか?」


 テレビ中継される様子を、国民が固唾を呑んで見守っていた。


 *


 深山コンプレックス広報室、午後五時。緋村と月城が記者会見の準備に追われていた。


「想定問答、これでよさそうですか?」


 月城が緋村に資料を見せる。


「ええ、バッチリですわ」


 緋村は資料に目を通しながら答えた。波留さんの「官僚的直感」で予測した質問、かなり的確ですね」


 二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。局長帰還の可能性に、期待と緊張が入り混じる。


 *


 首相官邸、午後七時。首相による記者会見が始まった。全国民が息を潜めて画面に見入る。


「慎重な議論と検討の結果、政府は以下の決定を下しました」


 首相の声に、国民の耳が集中する。


「異世界管理局を正式に政府組織として認可し、その重要性を改めて確認いたしました」


 一瞬の静寂の後、どよめきが起こる。


「そして、鴨居陽炎局長の処分を撤回し、引き続き異世界管理局の指揮を執っていただくことを決定いたしました」


 歓声が上がる。波留たちの元に、祝福の連絡が次々と入る。


 *


 深山コンプレックス大講堂、午後八時三十分。全職員が集まり、首相の記者会見をライブ視聴していた。処分撤回の発表に、歓喜の声が響き渡る。


「やった! やったんだ!」


 波留の目に涙が浮かぶ。若手チームの面々が互いの健闘を称え合う中、高千穂が静かに声をかけた。


「みんな、鴨居局長の帰還準備をしましょう」


 全員が力強く頷いた。


 *


 東京都内、午後九時。鴨居局長を乗せた車が、外務省から深山コンプレックスへと向かっていた。沿道には、異世界管理局を支持する市民の姿も見られる。


 深山コンプレックスからポータルで移動した神無月が護衛として同行していた。


「万が一の際は、すぐに対応できるようにします」


 神無月の言葉に、鴨居が頷く。彼のポータル能力が、不測の事態への最後の切り札だった。


 *


 深山コンプレックス正門、午後十一時。鴨居局長を乗せた車が到着した。全職員が整列して出迎える中、車のドアが開く。


 鴨居陽炎の姿が現れた。厳しくも温かい表情で職員たちを見渡す彼の姿に、全員が深々と頭を下げた。


 鴨居は波留に近づき、その肩に手を置いた。


「よくやってくれた、波留くん」


 その言葉に、波留は思わず目頭が熱くなった。


「おかえりなさい、局長」


 波留の言葉に、鴨居は小さく頷いた。深山コンプレックスに、新たな朝が訪れようとしていた。


 *


 鴨居局長の帰還で、異世界管理局の危機は一旦収束した。しかし、これは新たな挑戦の始まりでもあった。世界に公表された今、彼らの責任は一層重くなる。


 波留は局長の言葉を胸に、未知の困難に立ち向かう決意を新たにしていた。異世界と地球の架け橋として、彼らの真の使命はここから始まるのだ。


 朝日が昇り、深山コンプレックスに新たな一日の光が差し込む。波留は眩しそうに眼を細めていた。


局長助かってよかったですねー

次話より新章です! よろしくお願いします!

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