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外務省、異世界管理局  作者: 藍沢 理
第3章 局長奪還作戦
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第4話 世論の渦中で

 深山コンプレックスのモニタリングルーム。午前六時、波留と霧島が早朝から各メディアの報道をチェックしていた。大型スクリーンには、複数のニュース番組が同時に映し出されている。


「異世界管理局の存在が明らかになり、日本中――いや世界中が騒然となっています」


「政府の隠蔽体質を糾弾する声が……」


「これは人類史上最大の発見では?」


 コメンテーターの様々な意見が飛び交う中、波留は「官僚的直感」を働かせ、重要な情報を整理していく。頭の中で、複雑に絡み合った意見や反応が、整然とした申請書のように並んでいく。


「霧島さん、どう思う?」


 霧島は、画面に映る興奮気味の毒舌コメンテーターたちを見つめながら答えた。


「反応は予想以上に大きいわね。でも……」


 彼女は目を細め、何かを感じ取るように静止した。


「潜在的な脅威を感じるわ。この騒ぎに乗じて、敵対勢力が動き出す可能性がある」


 波留は頷いた。霧島の直感的能力は、これまでも幾度となく危機を回避してきた。


「分かった。警戒を強化しよう」


 *


 東京都内、午前八時。神無月と月城が街頭インタビューを実施していた。二人は変装し、一般市民を装って人々の生の声を集めていく。


「異世界って本当にあるんですかね?」


「政府の陰謀じゃないの?」


「でも、テレビで見たポータルは本物に見えたよ」


 様々な意見が飛び交う中、神無月はさりげなくポータルを開き、素早く移動しながら広範囲の意見を集めていく。月城は自身の異世界での経験を活かし、市民の疑問に丁寧に答えていった。


「異世界には、私たちの想像を超える不思議がたくさんあるんです。でも、根本的には私たちと同じ、心を持った存在なんですよ」


 月城の言葉に、周囲の人々が興味深そうに耳を傾けていく。


 *


 午後一時、深山コンプレックスの大講堂。高千穂鏡子が専門家パネルディスカッションに参加していた。歴史学者、政治学者、科学者を交えて、異世界管理局の必要性について熱い議論が交わされる。


「異世界の存在は、我々の世界観を根本から覆すものです。しかし、それは同時に人類に無限の可能性をもたらすのです」


 高千穂の声には力強さがあった。彼女の霊感能力が、聴衆の心を掴んでいく。会場は熱気に包まれ、テレビの生中継の視聴率は急上昇していた。


 *


 国会議事堂、午後三時。緊急の国会質疑が開催されていた。与野党の議員が異世界管理局の存続を巡って激論を交わす。


「国民の安全を第一に考えるべきだ!」


「しかし、異世界との交流は日本の発展に不可欠です」


 議場が騒然となる中、波留たちは裏で動いていた。味方になりそうな議員に必要な情報を提供し、支持を取り付けていく。


「鴨居局長の処分についても、再考の余地があるのではないでしょうか」


 ある議員の発言に、波留たちは顔を見合わせた。局長奪還への道が、少しずつ開けてきている。


 *


 午後七時、インターネット空間。波留と月城がオンライン討論会を主催していた。


「異世界との共存について、皆さんはどうお考えですか?」


 波留の問いかけに、多くの意見が寄せられる。


「怖いけど、興味はある」


「技術交流で、地球の問題が解決するかも?」


「文化の衝突が起きないか心配だ」


「勇者とかチート野郎はいないの?」


 月城が自身の異世界体験を語り始めると、参加者たちは息を呑んで聞き入った。


「最初は戸惑いましたが、異世界の様々な種族も、心の奥底では人間と同じ感情を持っています。違うのは魔法や、魔法と科学が融合した文化など、地球人にとってはカルチャーショックを受ける要素があることでしょう」


 月城の言葉に、多くの共感の声が寄せられる。波留は「官僚的直感」を駆使して、議論の方向性を建設的なものへと導いていく。


 *


 深夜零時、深山コンプレックスの屋上。波留は一人、星空を見上げながら思索に耽っていた。


(世論は少しずつ俺たちに味方してくれている。でも、まだ道のりは遠いな)


 彼は目を閉じ、鴨居局長の言葉を思い出す。


「波留くん、君たち若い世代に、この重責を託さねばならない時が来ている」


 波留は目を開け、決意に満ちた表情で夜空を見つめた。


(必ず、局長を取り戻す。そして、地球と異世界の架け橋になってみせるぞ)


 明日の外務省との交渉に向けて、波留は心を引き締めた。異世界と地球の未来がかかった戦いは、まだ始まったばかりだった。夜風が波留の髪を優しく撫で、新たな朝の訪れを予感させていた。


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