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外務省、異世界管理局  作者: 藍沢 理
第3章 局長奪還作戦
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第3話 歴史の扉を開く

 翌朝、深山コンプレックスの会議室に、朝日が差し込み始める時間。桐生波留は神無月良二、月城リナ、緋村茜、霧島カンナと共に緊急会議を開いていた。五人の表情には、緊張と決意が入り混じっていた。


「よし、みんな。記者会見の内容と戦略を詰めていこう。世界樹事件で僕たちの存在は知られてしまってる。これを機にぶちまける。そして鴨居局長の拘束が不当だと訴える。大まかな流れはこれでいいよね」


 波留の声に、全員が頷いた。彼は目を閉じ、「官僚的直感」を呼び覚ました。すると、最適な公表方法が複雑な申請書として頭の中に浮かび上がった。


「まず、異世界管理局の歴史を丁寧に説明する必要がある。平安時代からの長い歴史を示せば、我々の存在意義がより明確になるはずだ」


 神無月が腕を組んで頷く。


「そうだな。ただし、機密情報の取り扱いには細心の注意が必要だ」


 波留は頷き、チームの役割分担を決めていった。


 *


 一時間後、波留と月城は資料室で異世界管理局の歴史資料を整理していた。埃っぽい古文書の山に囲まれ、二人は真剣な表情で作業を続けている。


「月城、これ、平安時代の『玄界寮』の設立に関する文書だ」


 波留が手にした巻物を月城に見せる。彼女は目を輝かせながらそれを受け取った。


「すごいですね! これが異世界管理局の始まりなんですね」


 月城は地球で一度死亡し、異世界で転生している。ただ、生前の記憶が残っていたため、わずか五歳のとき、日本への生還を果たしている。そのとき身体的年齢も元に戻ってしまった。


 たった五年ではあるものの、彼女の異世界での経験を活かし、二人は各時代の異世界との関わりを丁寧に確認していく。源氏物語の光源氏が実は異世界の王子だったという驚くべき事実や、安倍晴明の真の正体など、波留は次々と明らかになる事実に圧倒されていく。


(これが、僕たちの受け継いできた歴史か……)


 波留は資料を手に取りながら、その重みを感じずにはいられなかった。


 *


 午前十時、深山コンプレックス広報室では、緋村と霧島が記者会見の準備に追われていた。


「この写真はいかがでしょうか? エルフの集落が写っています」


 緋村が一枚の写真を手に取る。霧島は慎重に目を凝らす。


「慎重に選ばないとね。機密情報が漏れる可能性のあるものは避けたほうがいいわ」


 緋村は頷き、テレパシー能力を使って記者たちの反応を予測し始めた。


「ん……記者たちの反応、なかなか複雑になりそうです」


 二人は慎重に証拠を選別しながら、来るべき記者会見に備えていった。


 *


 正午、深山コンプレックスの大講堂。国内外から集まった百名以上の記者たちが、ざわめきながら席に着いていた。壇上に立った波留は、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


「お集まりいただき、ありがとうございます。本日は、皆様に重大な発表をさせていただきます」


 波留の声が響き渡る。記者たちが一斉にペンを構える。


「僕たち、外務省、異世界管理局の存在を、ここに公表いたします」


 会場がどよめく。フラッシュが光り、カメラのシャッター音が鳴り響く。世界樹事件のときは、うわさレベルで終わっていた。しかし今回は、外務省の職員――波留自らが、異世界管理局の存在を公表した。


「異世界管理局の歴史は古く、平安時代にまで遡ります。当時『玄界寮』と呼ばれていた我々の組織は……」


 波留は平安時代から現代に至るまでの主要イベントを丁寧に説明していく。源氏物語の真相や、戦国時代の異世界との関わり、明治維新での役割など、歴史の裏に隠れていた真実が次々と明かされていく。


 記者たちの表情が驚きと興奮で歪んでいくのを、波留は感じ取っていた。


 *


「では、ここからは質疑応答の時間とさせていただきます」


 波留の言葉に、一斉に手が挙がる。


「はい、そちらの方」


「夕日新聞の田中です。異世界の存在を証明できるものはありますか?」


 波留は神無月に目配せする。神無月が立ち上がり、手をかざすと、突如として空間が歪み始めた。目の前に青く輝く円形の穴――ポータルが開いた。


「これが、異世界への入り口……ポータルです」


 ポータルの先に、石造りの街並みが見えており、街の人びとが驚いた顔で覗き込んでいる。会場が騒然となる。カメラのフラッシュが瞬く。


「月城さん、お願いします」


 波留の声で月城が立ち上がり、ポータルに向かって異世界の言葉で挨拶する。


「こんにちは、みなさん」


 異世界の言語が響き渡り、記者たちの驚きはさらに大きくなった。今の声はリアルタイムで翻訳されたものだ。


 ポータルが閉じると、途切れることなく質問が続く。波留は「官僚的直感」を駆使して、的確に回答していった。


 *


 首相官邸、午後五時。首相と閣僚による緊急会議が開かれていた。


「さすがに今回は見過ごせません。異世界管理局の公表は、世界に大きな衝撃を与えるでしょう」


 首相が厳しい表情で言うと、外務省代表として参加している篠原哲也が発言する。


「しかし、ヤケクソになって彼らに辞められては困ります。彼らが野に下ったら、と考えると……ゾッとします。そのため、鴨居局長の処分については再考の余地があるのではないでしょうか」


 篠原の言葉に、閣僚たちがざわめいた。


 *


 深山コンプレックスの会議室。午後七時、波留たち若手チームと高千穂、鬼塚らベテラン職員が合流していた。


「世間の反応はどうだ?」


 鬼塚が訊ねる。


「SNSでは大きな話題になってるわ。陰謀論も出てきてるけど、概ね好意的な反応が多いみたいね」


 霧島が報告する。


「よし、ここからが正念場ね。世論形成と鴨居局長奪還のための次の一手を考えましょう」


 高千穂が厳しい表情で言う。議論は深夜まで続いた。


 *


 午後九時、深山コンプレックスの屋上。波留は一人、夜景を眺めながら思索に耽っていた。


(まだ始まったばかりだ)


 異世界管理局の長い歴史と、自身に課せられた使命の重さを感じる。風が吹き、波留の髪が揺れる。


(局長、必ず取り戻します)


 波留は自身の「官僚的直感」が、この前例のない事態を乗り越えるカギになると確信していた。歴史の重みと未来への責任を感じながら、彼は次なる行動への準備を始めた。


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