第2話 若手たちの決意
異世界管理局、奥多摩支部。深山コンプレックスの会議室に、高千穂鏡子、鬼塚剛、円覚禅司、狭間刃狼の四人が、重苦しい空気の中で向かい合っていた。窓からは奥多摩の緑豊かな山々が見えるが、その美しい景色とは裏腹に、室内の雰囲気は暗く沈んでいた。
異世界情報部長、高千穂が、深いため息とともに口を開いた。
「局長が責任を取って辞任するそうです」
その言葉に、会議室の空気が一瞬で凍りついた。鬼塚が突然立ち上がり、机を強く叩いた。
「ふざけんな! 局長は何も悪くねえ!」
鬼塚の怒声が室内に響き渡る。
転生管理課長、円覚は静かに目を閉じ、穏やかな声で言った。
「なんとか阻止する方法はないものかの」
次元間外交室長兼、次元特殊作戦部隊長、狭間が腕を組み、冷静な表情で提案する。
「実力行使という手もある」
高千穂が即座に首を振った。
「それは論外よ。単なる犯罪になってしまうわ」
円覚が眉をひそめながら言う。
「わしから政治家に圧力をかけようか」
狭間が苦笑しながら答えた。
「それは面倒なことになりすぎる。政治を巻き込めば、収拾がつかなくなるぞ」
会議室に沈黙が降りる。四人はそれぞれに思案を巡らせるが、どの案も一長一短で、決定打に欠けていた。
高千穂が静かに、しかし力強く言った。
「私たちにできることは、ただ一つ。真摯に反省し、再発防止に努めること。そして、局長の意思を継いで、組織をより良いものにしていくことよ」
その言葉に、全員が重く頷いた。彼らの表情には、決意と覚悟が浮かんでいた。
一息ついたところで気の抜ける声がする。
「まいったなぁ、いったいどうすりゃいいんだ……」
鬼塚の呟きに、誰も即答できなかった。会議室に漂う空気は、途方に暮れたような、しかし何かを模索しようとする緊張感に満ちていた。
*
深山コンプレックス、無限演習場。広大な空間に設置された訓練設備の中に、桐生波留、神無月良二、月城リナ、緋村茜、霧島カンナの五人が、人目を避けるように集まっていた。
波留が、決意に満ちた表情で口を開く。
「なんとかして、局長を守らなきゃ」
月城が不安げな声で答える。
「でも、どうすればいいんでしょうか……」
神無月が冷静な口調で提案した。
「透明性の確保だ。言い方は悪いけど、次元調和同盟サミット襲撃事件は、ただのガス爆発として報じられてる。これを機に異世界管理局の存在を公にし、僕たちの役割を正しく理解してもらう。それが、局長を守る最良の方法だと思う」
緋村が静かに頷く。
「そうですね。すでに世界樹事件で私たちの存在が週刊誌で報じられてますし。隠すことで、かえって疑念を招いてしまいます。正々堂々と、我々の仕事を示すべきです」
霧島が、鋭い目つきで言った。
「記者会見を開くってのはどうかな」
波留の目が輝いた。
「それだ!」
波留は立ち上がり、熱っぽく語り始めた。
「僕の『官僚的直感』が、それが最善の策だと告げてる。メディアを味方につければ、世論も動かせる。異世界管理局が真摯に仕事に取り組んでることを、みんなに知ってもらおう」
五人の表情に、決意の色が浮かぶ。
「よし、準備を始めよう。記者会見の場所は……ついでに奥多摩、深山コンプレックスの存在も知ってもらおう。スピード感持ってやらないと、話を潰されそうだし」
神無月の声に、全員が頷いた。彼らの行動が、異世界管理局の、そして鴨居局長の運命を左右することになる。夕暮れ時の無限演習場に、新たな希望の光が差し込んでいた。