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John Watson's Homecoming




「……な? 大丈夫ですかな?」


 目を開けると目の前にはなかなか整った服装をした老人。口ひげをたくわえハットをかぶり、手には杖を持っている。まるでイギリスの紳士のようだ。


 返事をしようとした瞬間ズキン、と先ほど殴打された後頭部が痛む。それで手を回してみたところ何とも不思議なことに血どころかタンコブすらできていない。俺は驚きで頭をさするだけで放心状態になってしまった。


「あなたは何者か? ふと目を放してもう一度振り向いてみれば、何と驚き気絶したように寝込むあなたが突然現れたんだ」


 目を覚ましたら明らかに日本ではない見知らぬ土地。さらには突然現れたときた。これは間違いなく異世界転生!


 と言いたいところだがそれにしては周囲の風景が異世界っぽくない。


 周りには向かい合う長椅子がいくつも並んでいてそこには目の前の老紳士と同じような現代的な服装の人々が本を読んだり窓の外を眺めている。頭の上にはおそらく各人の荷物であろうものが置かれている荷物置があり、壁には点々とライトのようなものがついていた。


 まるで一昔前の機関車だ。つまりこれは異世界転生というよりどちらかといえばタイムスリップ。うん、間違いない。


「怪しいですなあ、あなた、この()()()()()の切符は持っていますかな?」


 うん、これは異世界転生だね! タイムスリップ? なわけないだろう、フィクションじゃあるまいし!


 と、冗談はさておきまさか本当に異世界転生なんてもんがあるとは、自分が書いていた、そして読んでいた印象とはだいぶ違う。ヨーロッパはヨーロッパでも中世じゃなくて17,18世紀って感じの風景だ。


「ちょいと、聞いていますかね? あなた()()()()を使ったんでしょう!? ほら、よぉく見れば席に魔法陣が刻まれているではありませんか!?」


 老紳士の言葉と同時に蒸気の噴き出る音とブレーキの音が聞こえ車体が少し揺れる。


 どうやら、俺は無賃乗車をしていると思われているようなので(事実そうなのだが)もめごとにならないうちに軽く愛想笑いを浮かべて列車の扉を開けて外に出た。




 正直、俺が見ていた望むような世界じゃない。俺はもっと魔法があふれ、心躍る世界を望んでいたのに……。他視界に魔法はあるらしいがあの様子じゃ何ら元の世界と変わらないじゃないか!


 駅のホームを俯きながら歩き、こぶしを強く握りしめる。


「くそっ、こんなん転生した意味ねえ……」


 と口にしつつ顔を上げた時、一瞬でもそんなことを思ったことを後悔した。


 遠くにそびえるまるで物理法則など知らないと言わんばかりのいびつな建物。周りには宙を浮く不思議な紋様が見え、空には遠目で分かりにくいが明らかに翼の生えた生物たちが飛び、現代風の街道を渡る馬車を引く馬には2本の角が生えている。


 細かいところを見てみても荷物を宙に浮かせていたり、道端の大道芸人のような者が手から火を出したり氷を出したり、普通の人間の姿ではない者がいたり……。


 街の雰囲気こそ現代的であれそこには俺の求めていたファンタジーが存在していた。


「早とちりした俺がバカだった。ここは俺の望んだ()()()だ!」


 興奮して両手を広げ大きくそう言い放つ。それは歓喜の歌ともいっても差し支えはしない言葉だった。




「ワトソン? お前、ジョン・ワトソンか?」


 俺の清々しい気持ちを乱す声。一体何事かと振り返ってみるとそこには端正な顔立ちの青年が驚いたような顔をしてこちらを見ている。前ボタンをキッチリと閉じ、その下には白いYシャツ。チャック柄のズボンと革靴に元の世界のスーツを思わせた。


「おい、誰だか知らないけど俺のことをワトソンって呼ぶな! っていうかなんで俺の名前を知ってるんだ?」


 するとその青年はなんとも不思議そうな顔をしてまた俺の顔を見る。


「何言ってるんだ、スタンフォードだよ。魔学学校の医学科で一緒に切磋琢磨したお前の友人じゃないか!」


 ……これはまた訳のわからないことになってきたぞ。


―――


 マイク・スタンフォード22歳。職業は研修医で現在ロンデア中央病院に勤務している。ロンデア魔学学校卒業生で俺の同級生。


 そして俺はジョン・ワトソン、同じく22歳。職業は軍医で5ヶ月ほど前、この()()()()()()()()()()()()()()の国境付近に派遣され、いまの今まで音沙汰がなかったがこうして首都ロンデアに戻ってきた。


 ということらしい。


 いや、意味がわからない。どういうことだ、こいつが言ってたワトソンは俺のあだ名でもなんでもなく俺の本名で、俺の名前はジョン?


 俺の死んだ魂がこの異世界のワトソン(このカラダ)に入り込んだ、ってとこか? それじゃあ転生じゃなく憑依とかそういうのだろ。


 なんだよこれ、転生してからわからないことだらけだ、全く。


 だがこれに関しては好都合でもある。元の人間がいるってことはそいつの持ち物は合法的に俺の物ってわけだ。このジョン・ワトソンがどんな人間か知らんが聞いたところ医者らしいし色々溜め込んでそうじゃないか。


 心の中で汚い笑いが溢れる。


「それにしても驚いた。生きていたんだな、戦地へ行ってから連絡の一つも遣さなかったから死んでしまったのかだとばかり、本当に良かった」


「あ、ああ。いやぁ、何度も死にかけたよ。それに戦地で頭を怪我したからか、記憶があいまいで」


「だから俺のことも魔法のことすらあやふやなわけか」


「そうなんだよ」


 我ながらうまくごまかすことができた。こうすれば俺が魔法やこの世界について知らないことをある程度納得させることができる。


 と、ひと通り異世界転生という意味のわからない状況を整理したところでまずこの世界に来て最初にすべきことは、金を稼ぎ、衣食住を整えることだ。


 幸い、衣服は元の世界から変わってはいるもののなかなかしっかりとしているし、飯もこのスタンフォードのおごりで今も食べている真っ最中。ちなみに元の世界とさして変わらず美味い。


「ううん、それでどうするんだ? 軍役を終えたはいいが仕事は? これから研修医にでもなるか? それに住むところもないだろう」


「は!? 住むところがないってどういうことだ!?」


「それもか。小さい頃に両親を亡くして学校ではお前寮生活だったじゃないか。学校にも借金で入ってきたって言ってたし金も余ってないだろう?」


 おいおい冗談だろ。仕事がないのは百歩譲っていい。どうせ医者なんてバカな俺には無理な話だし新しい仕事でも探そうと考えていたけど、家がない? おまけに学校行くために借金をしてた、だ?


 ふざけるなよジョン・ワトソン。お前のせいで俺は今、職なし家なし家族なしのただのホームレスだ!


 小さく舌打ちをして、身体の主に愚痴をこぼす俺にスタンフォードは首を傾げた。


「どうするって言われても、ろくに記憶もないし、俺にだってどうすればいいか。何かないのか? 住み込みの仕事とかさ?」


 スタンフォードは俺の問いに難しそうにうなる。腕を組み、首をぐるぐると回すその姿からは本気で考えてくれている感じがして他人ながら嬉しくなった。


「そうだ! 1つ、というより1人いる! 仕事と呼ぶかは分からないが部屋を間借りさせてやる代わりに手伝いをして欲しいって言ってたやつが!」


「マジか!? 早速紹介してくれよそいつ!」


 しかしスタンフォードは突然立ち止まるかの如くやっぱり忘れてくれと言った。一刻も早く状況を打開したい俺は何故かと尋ねるがスタンフォードは口をもごもごとして言いたがらない。


「わかった、もう聞かない。でも会うだけあってみたい。頼めるか?」


「……了解。会ってから後悔するなよ」


 ため息をつくスタンフォードを見てそんなにやばいやつなのかと少し気後れした。しかし机に据えてある丸い水晶から水を湧き出させそれをコップに注ぎ喉を潤すと気を取り直して店を出てスタンフォードについていった。


―――


 スタンフォードが立ち止まったのは大きな病院の前、それは彼の勤めるロンデア中央病院だった。


 入り口の門をくぐり建物の中へ入るとすぐ目の前の階段を手すりを掴みながら下っていく。階段を下り切ると奥まで続く長い通路が姿を表し、その脇の1番近い部屋の扉に手をかけた。


 BOMB!!


 途端にまるで爆弾でも爆発したかの如き爆音がスタンフォードと俺の耳を刺激した。


「い、今の何?」


「おそらくヤツの仕業だ」


 そう答えるスタンフォードは扉をゆっくりと開ける。


 どうやらその部屋は実験室のようで棚に並ぶ薬品に町永でも先ほどのレストランでも見かけた丸く透明な球、それに分厚い本がずらりと並んでいた。


 しかし、俺の目はすぐさま他の場所へと釘付けになる。


「やっぱりいうことを聞いたのが間違いだった! なんだ今の爆発は!?」


「もちろん水素爆発さ。金属に酸をかけたんだ、水素が発生するのは当たり前だろ? それにしても良い発見ができた。やはり爆発系の魔法の正体は水素による爆発なんだ。おそらく威力によって瞬時に水素を大気中に拡散させ、それとほぼ当時に火を発生されることで大爆発を起こす。どおりで火炎系だけでなく大気系の要素を含んでいるわけだ!」


 興奮した様子の高い声はまるで幼い女子のようだった。赤く長い髪に朱色の瞳を持ち、背丈が俺より頭一つ分ほど小さい少女。と、倒れ込んで足を諤々と震わせる青年。


 信じ難いことにどうやらこの少女がスタンフォードの言うヤバいやつらしい。まあ、今の発言を聞いていればなんとなく察しはつくのだが。


「こいつ?」


 一応そう問いかけるとスタンフォードはこくりと頷く。そして俺が指差した少女は不満そうな顔でこちらに近寄ってきた。


「こいつとは失礼だな君。ボクにはちゃんとした名前があるんだがね」


「ふーん、なんて言うんだ?」


「ふん! 聞いて驚くがいい、このボクこそが世界一の名探偵、シャーロック・ホームズさ!」


 ああ、なるほどだからそんな探偵っぽい帽子にコートを着ているわけ……。ん? え?


 しゃ、シャーロック・ホームズ!!??

早くなぞ解きを見せろという方是非ブクマなどよろしくお願いします。モチベが上がって早く書けます。

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