第19話:買い物
「夕桔ちゃ~ん。こっちこっち。」
金曜日の放課後。
近場のショッピングモールの前で手を振る成舞さんに私は駆け寄る。
「こんにちは、成舞さん。お待たせしました。」
あれからスケジュール調整をして、金曜に服を買い、日曜に陽咲と遊びに行くという段取りとなった。ちなみに土曜は仕事があるから忙しい週末だ。
「気にしないで。学校があると大変でしょう?」
「まぁ……はい。」
この口ぶりからして、成舞さんって学生じゃないってことなのかな?
大学生なんだと勝手に思ってたけど、社会人なのかもしれない。社会人なら尚更学生よりも忙しくて大変そうだけど。
「それじゃあ、早速行きましょうか。」
並んで歩き、服を売っているフロアへと向かう。
「でも、ここのお店でよかったの?もっといっぱい売っててオシャレなお店もあるのに……。」
「あー……いいんです。」
そういう専門店に入る気はしない。なんというか、入店したら何かしら買わされそうな感じがする。あとオシャレとか流行とかよく分かんないから、どこで買い物しても変わらないと思う。
「そうなの?今日は私が何でも買ってあげるから、遠慮しないでね?」
「あの、本当にいいんですか?私、お金ありますよ?」
怪盗で稼いでいるから、とは流石に言えない。
とは言え、普通の高校生より持っていることは確かだ。
「気にしないで~。かわいい夕桔ちゃんが見たいだけなんだから~。」
「えっと……はい。」
こういう時、なんて返事をすればいいんだろう?
そうこうしているうちに目的の売り場まで到着した。
一般的なショッピングモールにある普通の服屋だからか、若い人はいないように見える。ブランドとかじゃないし、まぁそんなものだよね。
「それじゃあ、夕桔ちゃんに似合いそうなもの探してくるから、ちょっと待っててね。」
そう言って成舞さんは無駄のない素早い動きで店の奥へと消えていった。
あんな俊敏に動けたんだ……。
ただ待っているのも退屈なので、成舞さんが戻ってくるまでに近くにあった服を見てみる。
そもそもとして、私にどういう服が似合うのかもよく分かっていない。
何となく、一番近くにあった服を取ろうとして、その手を引っ込めた。近くに誰か来た。
「あっ……。」
その近くに来た人も控えめに手を伸ばしていて、私の目線に気付いて手を止めた。
「あの、どうぞ?」
若い女性だ。私と同い年くらいに見える。
「いえ、大丈夫ですので。」
興味があったわけじゃないし。
譲ろうとしたところで「お待たせ~。」と後ろから声がした。
成舞さんが戻ってきたみたいだ。
その間に若い女性は小さく会釈をして離れていった。
「あら?今の子……夕桔ちゃんのお友達?」
「いえ。たまたま今そこで……。」
ここで成舞さんが両手に大量の服を持っていることに気が付いた。
「そうなのね。どこかで見たことあるようなお顔だったから……。」
「あの、成舞さん?その大量の服は……?」
私の言葉を受けて成舞さんは服を持ち上げる。
「もちろん、全部夕桔ちゃんに試着してもらうわよ~?」
「え、えぇ~……?」
この量を?
私、何回着替えることになるんだろう……。
「かわいい~!」
試着した姿を見せるたびに成舞さんは黄色い悲鳴を上げた。
私は何だか恥ずかしくなってきて視線を逸らす。
かわいいと言われるのに慣れていないし、色んな服を他人に見せるのは変な感じがする。
「これは迷っちゃうわね~。いっそのこと全部買おうかしら?」
「それは流石に……。」
「うふふ。冗談よ。」
目が本気だった。
「夕桔ちゃんは何か気に入ったものはあった?」
「そうですね……3つ目のロングスカートが良かったです。」
デニムのロングスカート姿で、カジュアルさとちょっとレトロな雰囲気がちょうどよかった気がする。
「そうね~夕桔ちゃんにとても似合っていたわ。でもこっちのベージュのスカショーパンと黒のシアーニットにしましょうか。」
なんか却下された。
「脚を出した方がかわいいし、シックな雰囲気がカッコよさとかわいさを両立して夕桔ちゃんに似合っているのよ!」
「は、はい。」
「というわけで、買ってくるからちょっと待っててね~。」
もし姉がいたら、こういう感じなんだろうか?
まぁでも、流石は成舞さんって感じのチョイスだ。あの服ならそんなに恥ずかしくないし(脚出すのは恥ずかしいけど)、カッコいい寄りのファッションだと思う。私の好みとも割と合っている。
「お待たせ~。それじゃあ買い物もできたことだし、ちょっとお茶でもしていきましょうか。」
「え、あ、はい。」
てっきり解散になるかと思ったけど、確かにそれだと味気ないのか。
そういうわけでモール内にあるカフェのチェーン店に入る。
メニューの名前が長すぎてよく分からなかったから、指さして「これください。」と言ってしまった。成舞さんは英文みたいな名前をスラスラ言えていた(キャラメルと言ったところだけ聞き取れた)。
2人掛けの席が都合よく空いていたので、そこに向かいあって座る。
「美味しい……。」
このチェーン店に入るのは初めてだったからどういう飲み物なのか知らなかったけど、一口飲んだら自然と感想が出てきた。
「あ、えっと……。」
「フォルトゥナの味と比べてとかじゃなくて。」と言おうとしたが、それよりも前に成舞さんが口を開いた。
「本当。うちのコーヒーよりも美味しいわよね~。」
「……店員さんがそれ言っていいんですか?」
「事実だから、仕方ないの……。」
その言葉は悲しげで、その表情は憂いを含んでいた。
フォルトゥナって私が行った時はいつも他のお客さんいないし、やっぱりそのことで苦労とかしてるのかな……?
「味じゃ敵わないから、ケーキとかクッキーで勝負するべきかしら?」
「喫茶店がそれでいいんですか……?」
「うふふ。まぁそのへん考えるのは店長のお仕事だから、私に出来ることじゃないのよね~。」
カップを持ち上げて微笑む。
「それよりも夕桔ちゃん。どんな子とデートするの?あの背の高い美人さん?それとも眼鏡をかけた子かしら?」
「デートじゃないですって。それと、あの2人じゃなくて……。」
それを聞いて成舞さんはわざとらしく驚いた表情を見せる。
「そうなの?夕桔ちゃんって意外と罪な女の子だったのね。」
「茶化さないでくださいよ。」
そう言っても成舞さんの微笑みは崩れない。
「それで?どんな子なの?男の子?女の子?」
それどころかまだ攻めてくる。
「女の子です!もう!私の話はいいですから!」
ヤケになって一気に飲み干す。
「それよりも成舞さんのこと、教えてくださいよ。」
「私のこと?」
困ったような表情に変わる。
「お話できるような面白いことは……そうね~……あ、お裁縫が趣味なの。」
イメージでしかないけど、女子力高めな趣味がきた。
「こう……糸と針でね?さささっと……。」
両手を動かして何か伝えようとしてくれるけど、全然イメージが湧かない。
成舞さんってゆるふわな雰囲気だけど、意外と不器用だったりする?
いや、別に意外ってほどでもないか。そういう“属性”っていうのがあるって前に陽咲から聞いたことがある。
「あとは~……何もないかしら……。」
他の話が聞けなくてちょっとガッカリ。けどプライベートのことだから、人に話しづらいこともあるだろうししょうがない。
「……夕桔ちゃん。何か困ったことがあったり、悩みがあったらいつでも相談してね?私はいつでも、夕桔ちゃんの味方だからね?」
「え?はい。」
突然、真剣な面持ちと声音でそう言われ戸惑ったが、素直に頷いた。
「さて、そろそろいい時間だし帰りましょうか。夕桔ちゃん、ご飯はどうするの?お家で食べる?」
「えっと、そうします。」
先ほどの発言の真意について尋ねたいところだが、どうも聞ける雰囲気ではなさそうだ。
カフェを出て外に向かって歩く。
「成舞さん、今日は色々とありがとうございました。」
服を選んでもらって、しかも買ってもらって。カフェも当然のように支払っていた。
なんだか成舞さんの厚意に甘えた一日になってしまった。
「気にしないで。夕桔ちゃんは大切なお客様で、私の大切なお友達なんだから。」
「あの……本当に、ありがとうございます。」
「ううん。本当に気にしなくていいのよ?お礼なら……そうね~……またフォルトゥナに遊びに来てくれたら、それでいいから。」
「分かりました。また今度、行きますね。」
「楽しみにしてるわね~。本当はお家まで送っていきたいのだけど、これから用事があるの。それじゃあ、またね。夕桔ちゃん。」
「はい。また。」
成舞さんが帰る姿を見届けようと思ったが、ニコニコと微笑んだまま動かないので、仕方なく先に私が動くことにし、見送られることとなった。
帰り道。
買ってもらった服が入った紙袋を軽く振りながら夜空を見上げる。
明後日、楽しみだなぁ。
だけどその前に、一仕事といきますか。




