第18話:誰に相談しよう?
『へいやっほー!あなたに癒しと潤いを!バーチャルタレントのビタミンちゃんこと椎名キンカンだよ!さてさて、今日は雑談枠にしようってことなんだけど、みんなは最近、何かハマっていることあるかな?私はね、学校の友達にオススメされた本を読むことが多いかなー。みんなは……ふんふん……ゲーム!分かるよー……でもハマりすぎて気が付いたらいっぱい課金してた!みたいにならないように、ちゃんと自制しないとダメだよー?他には……美術館!いいね!どういう作品が好きなのかな?』
目で追えないほどのスピードでコメントが流れていく。
ビタミンちゃんは話しながらも適度にコメントを読み上げて、視聴者との会話を続けていく。
そういった様子に注目すると、楽そうに見えても意外と気を配る必要があって大変そうだな、と夕桔は思った。
そういった雑談配信が2時間ほどにわたって続き、配信が終了して数分後、柔軟をしているとほとんど鳴らないスマホが通知音を知らせた。
画面を見てみると、陽咲からのメッセージだった。
『次の週末なんだけど、よかったら一緒にここに行かない?』
そんなメッセージとともに回転寿司店のページが貼られていた。
「……コラボ実施中?」
どうやら、大手バーチャルタレントの企業とその回転寿司店がコラボしているそうで、コラボグッズが手に入るというものらしい。
ラインナップを見たところビタミンちゃんはいないようだが、陽咲は他にも色々見ているとか言っていた気がするし、欲しいと思える代物がこの中にあるのだろう。
それでビタミンちゃんの配信を見終えてから、私を誘ってきたというところか。
「……。」
正直、このコラボの内容自体に興味はない。
けれど、友達とこういった外出をしたことがない私にとって、中々新鮮で魅力的な誘いであることは確かだ。
青葉とは遊びに出掛けるほどの仲になっていない感じだし、伶や海遥はこういうことをする関係とは違う。珠羅は海外だし花時丸ちゃんは……あの引きこもりが外出するわけないか。
つまり現状、こういったことができる同年代の友達は陽咲だけだ。
結論。悩んだように思えても、最初から私の中で答えは出ていた。
いいよ、と返事をすると一瞬で既読が付いて、喜ぶ動物のスタンプが送られてきた。きっと私の返事がくるのを待っていたのだろう。
「ふふ……。」
その姿を想像すると、可笑しさと可愛らしさが混ざって笑みがこぼれた。
楽しみができた。
こんな気持ちになるなんて、2年生になったばかりの頃には考えもしなかった。
伶が言っていたことって、きっとこういうことだったんだね。
──さて。
スケジュールのことも考えておかないと。
遊ぶ日程は週末としか決まっていないけど、恐らく金曜日か日曜日となるだろう(ビタミンちゃんの配信は土曜日に多い)。
それを踏まえると、仕事は別の日に、出来れば前日を避けてスケジュールしたい。
「……まぁ私だけで考えてもしょうがないか。」
そう呟くとスマホの電話帳を開く。
「……。」
電話しようと思ったが、かける寸前で考える。
仕事中だったら出られないし迷惑になるか。メールで伝えることにしよう。
『この前の話の件ですが、週末は予定があるのでそれ以外がいいです。』というメッセージを送っておく。
さて、週末。回転寿司店だけ行って解散とはならないだろう。他にも色々遊ぶはずだ。
どういうところに行くのだろうか?
こういう経験がないから、何にも思い付かない。
……陽咲に任せようか。
それと問題点、もとい懸念点がもう一つ。
服だ。
店で一式丸ごと買うようにしているから、極端に変なファッションにはならないはず。とはいえ……。
そういえば、伶の私服は、なんかオシャレって感じだったなぁ……。
だけど、仮に同じ服を私が着ても同じ印象にはならないだろう。あのとんでもスタイルの王子様と同じにはなれない。
「花時丸ちゃ~ん。ちょっといい~?」
良し悪しが分からないのであれば、誰かに尋ねてみればいい。そういうわけで花時丸ちゃんの部屋の扉を開けた。
「嫌です。」
「まだ何も言ってないから。」
「どうせ下らない話でしょう。」
パソコンの画面から視線を逸らさず、私に背中を向けたまま花時丸ちゃんはそう答えた。
「下らない話なんかじゃないよ~。ねぇ、オシャレな服ってどういうのだと思う?」
「そういうのを下らないって言うんです。服なんてなんでも……え?あの夕桔が服装を気にしてる?」
驚いた顔で振り向いた花時丸ちゃんをジト目で見つめる。
「なんか失礼な言い方しなかった?」
「いえ。ただ怪盗であの格好しているのに、気にするんだなって。」
「えっ?」
「いえ、なんでもないです。失言でした。それで服って急にどうしたんです?」
「……今度、友達と遊びに行くんだけど、どういう服にしようかなって。」
失言という言葉が引っ掛かるが、ここは気にしないでおく。
「私はそういうの全く分からないので、自分で調べるか誰かに聞いてみてください。」
「そっかぁ……。」
自分の感性に自信がないからこうして聞きに来たわけで、調べて自分で決めるというのは危険だ。それならば誰かに尋ねるしかない。
「分かった。ありがと。ちょっと考えてみるよ。」
「はぁ……まぁ解決できそうなら何よりです。」
花時丸ちゃんの部屋を出て自室に戻りスマホを触る。
さて、誰に聞くかという問題だが、まず陽咲に聞くわけにはいかない。それはなんか、気まずいし重い気がする。
そうなると青葉か玖麗に聞くことになるわけだけど……。
うん。何となくだけど、こういうのは玖麗の方が得意そうで向いている感じがする。
それじゃあさっそく……。
「あ……。」
玖麗の連絡先、知らないや。
そうだ。あの時、アニメショップで会った時、玖麗は何かの用事ですぐに帰ってしまったんだ。
なんか消去法みたいになってしまったけど、青葉に聞いてみることにしよう。学校ならどこかで会えるだろうし、その時に聞いてみよう。
そして翌日──。
「青葉~ちょっといい……なんか元気ない?」
昼休みに青葉を見つけて声をかけたわけだけど、顔色が優れないように見えた。
「え?あぁ……夕桔さん。別にそういうわけでは……いえ。」
青葉は首を小さく横に振った。
「……はい。病気というわけではないと思うのですが、どうにも最近、寝ても疲れが取れない感じがしまして……。」
「寝ても……か。」
私は専門家でも何でもないから詳しいことは何も言えないけど、ただ調子が悪いとかそういう類の話ではなさそうな気がする。
「病院には行ってみた?」
「はい……。お医者様が言うには、身体は健康だそうです。ただ、筋肉が疲労しているから、しっかり休むようにと。」
青葉って生徒会には入ってるけど、運動部には所属してなかったよね?
生徒会ってそんなに筋肉使うの?
「そっかぁ。それじゃあ、しばらくは大人しくしといた方がいいね。」
ファッションのことを聞こうと、願わくば買い物に付き合ってほしいと考えていたが、本調子じゃない青葉を誘うのは止めておこう。
「はい。せっかく声をかけてくださったのにすみません。」
「気にしないでいいって。」
青葉にはしっかり休んでもらうとして、私の話はどうしよう?
他の人に聞くとなると、いよいよ伶か海遥になる。
どちらに聞くかっていうと……まぁ伶だよね。海遥は何か一言文句を付けてきそう。ぶつくさ言いながらも何だかんだ面倒見てくれる人ではあるんだけど。
伶という選択肢が最後になった理由だけど、私とは体格が違うからファッションに対する感覚が違いそう、というのが挙げられる。
いやでも……あの王子様なら、年下のお嬢様の買い物に付き添ったりするのに慣れてそうだな。
うん。それなら他人をコーディネートするのも慣れているだろう。
「あ……。」
伶に連絡しようとスマホを持った瞬間、唐突に思い出した。
連絡先は知らないけど、多分会いにいけてイメージでしかないけどファッションに詳しそうな人。
成舞さんに会いに行ってみよう。
放課後になったら、早速教室を出て向かう。教室を出る前にクラスの男子が何か声をかけてきたけど、用事があるからと断った。何だったんだろう?
フォルトゥナ──商店街の一角にある小さな喫茶店。
いつもお客さんがいないから若干不安があったものの、無事に開店しているようだ。
「成舞さんいますか?」
ちょっと緊張しながら扉を開けると、成舞さんが笑顔で迎えてくれた。
「あらぁ夕桔ちゃん。いらっしゃい。」
「どうも。あの……相談があるんですけど、いいですか?」
「もちろんいいですよ~。今日も……今日は他のお客さんもいないことですし。」
言い直してたけど、ハッキリと『今日も』って言った。
「そういうわけなので、ちょっと夕桔ちゃんとお話してますね~。いいですよね?店長?」
成舞さんにそう聞かれた店長はビクッとして、大きく何度も頷いた。
この店長の反応も相変わらずだ。
私は店の一番奥にある席に腰掛ける。
「ご注文はお決まりですか~?」
「えっと、コーヒーでお願いします。」
「はぁい。少々お待ちください~。」
成舞さんはカウンターの向こうへ行き、鼻歌まじりにコーヒーの用意を始めた。
待っている間にスマホを見てみるが、特に誰からも連絡はきていない。まぁ何もないのが基本なんだけど。
「お待たせしました~。」
コーヒーカップを2つ持ってきた成舞さんが、そのうちの1つを私の前に置き、もう1つを持ったまま私の席の向かい側に座った。
ちゃっかり自分の分も作ってたんだ。
「それで夕桔ちゃん?相談ってなにかしら?なにか辛いことがあったの?」
ニコニコと微笑む顔を見ていると、リラックスして何でも話せそうな気になる。
「あ、いえ、そういうわけじゃなくて……。」
とはいえ、改めて口にしようとすると、途端に気恥ずかしくなってくる。
「その……週末、友達と遊びに行くんですけど……どういう服にしようかと……。」
頬が熱くなるのを感じる。
それを誤魔化すようにコーヒーを啜る。
私の言葉を受けて成舞さんは一瞬、複雑な感情が混じった表情を見せた。
驚いたような、落胆したような、そんな感情が混じったような顔だった。
「辛いことがあったの?」と聞いてきてくれたし、もっと重い相談だと身構えていたのかもしれない。だけど実際にはこんな内容だったわけだから、拍子抜けしてそんな表情になったのだろう。
そんな顔を見せた成舞さんだけど、すぐにいつもの優しい微笑みを浮かべた。
「あらぁうふふ。デートかしら?とってもかわいい相談ね~。」
「あ、や、デートってわけじゃなくて……。」
「そうなの~?」
うう……なんか勘違いされてる。
「そうねぇ……お洋服ねぇ……。」
思案するようにカップの縁を指でなぞる。
そして嬉しそうに手を合わせた。
「そうだ!それなら私と一緒にお買い物にいきましょう?」
「えっ?」
アドバイスとか貰えればっていう風に考えていたから、2人で買い物に行くというのは予想外だ。
驚いたけど、すぐに良いアイデアだと思った。
成舞さんに全部選んでもらおう。
「はい。それじゃあえっと……。」
「決まりね~。スケジュール調整するためにスマホ取ってくるから、ちょっとだけ待っててね~。」
成舞さんはそう言うと立ち上がり、バックヤードへと向かいながら店長に声を掛ける。
「それじゃあ店長、ちょっと外しますけど、すぐに戻ってきますからね~?」
それを聞いて店長はまたビクッとした。
うん。ホントこの人、相変わらずだな。




