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怪盗×魔法少女  作者: 金屋周
第2章 蒼玉
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第14話:学外

珠羅のステージが終わって2週間ほど過ぎた。


あれから滞りなくミラ・ホーキングの公演は行われていった。あの時捕まえた殺し屋【ウミネコ】は海遥が連行していった。

尋問するとか何とか聞いたけど、興味がないので詳しくは聞かないことにした。


「ふ~ん……ビタミンちゃんのグッズが出るんだ……。」


ベッドに仰向けに寝転び、スマホを見ていた夕桔は呟いた。


若者に人気だから、そんな浅い理由で視聴し始めたわけだが、今のところ継続中。趣味になったと言える。

仕事のない日は運動以外にすることがないため、配信を見るのがすっかり日課となった。


でもこの前、1週間くらい配信ない期間があったんだよね。ビタミンちゃんはテスト期間だったからって言ってたけど……学生ってこと?


バーチャルタレントと中の人の年齢は一致するのか、それを花時丸ちゃんに聞いてみたことがあったが「いや、そんなわけでしょう。還暦過ぎた人間が演じてる可能性だってありますから。」と言われた。


それは流石に極端だと思った。


とは言えそういう話を聞いてしまっては、ビタミンちゃんは学生という身分を演じるためにテスト期間と称して休んでいただけ、という可能性も否定できない。


まぁ、どうでもいいんだけどね。


「グッズ……か。」


ベッドから起き上がり、自分の部屋を見渡してみる。


怪盗の衣装を入れているクローゼット。その他の衣服を入れているタンス。あとはテーブルがあるくらいだ。


有り体に言うと、殺風景である。


無駄遣いはしない主義ではあるが、趣味を蔑ろにするのも良くないかもしれない。


そうだ。明日、買いに行こう。





「青葉~いる~?」


翌日──。


放課後。夕桔は生徒会室を訪れた。


「こんにちは。二ツ森さん。」


そこにいたのは生徒会長の……黒岩さん?だっけ?


その人だけいた。


「玉光クンなら、今日は用事があるそうでお休みだよ。」


「そうなんですね……他の人たちは?」


青葉だけ休みなら分かるけど、他に誰もいないのはどうして?


どうでもいいことではあるが、気になったので何となく訊いてみた。


「他にも予定がある人がいてね。それならと今日は休みにしたんだ。」


なるほど。


あれ?それなら生徒会長はどうして?


その疑問が伝わったのか、あるいは予測できていたのか、それを口にする前に生徒会長は口を開いた。


「急に休みになってもやることが思いつかなくてね……結局、こうして仕事をしているというわけさ。」


なるほど……。


……なんかこの人、将来苦労しそうだな。


「ありがとうございます。失礼します。」


青葉を誘えなかったのは残念だけど、行かない理由にはならない。そもそも、青葉がビタミンちゃんに興味があるかも分からないし。


珠羅の話ができたわけだから、これにも興味を持ってくれるかもしれないけどね。


さて、昨日調べたところ、ビタミンちゃんのグッズは全国の店舗で販売されるそうで、その中にはここから近場にあるショッピングモールも含まれていた。


学校を出て歩きながら伶や海遥にも声を掛けてみるか?と少し考えてみる。


……いや、ないな。


あの2人がこういうものに興味を示す姿が想像できない。


伶なら理解しようとしてくれるかもしれないけど、海遥はないな。

「はぁ!?」とか言われそう。


なんてこと考えているうちにショッピングモールに到着した。ネットで調べたところ、ここの3階のショップに売っているらしい。


こういう店に行くの初めてだけど、どういう感じなんだろうか?


熱心なファンばかりで、初心者はお断り!みたいな雰囲気だったら困るな。ベテランっぽいオーラ出してれば誤魔化せるか?


なんて色々想像していたけど、着いてみれば全然そんなことはなかった。


小学生から大学生くらいの人までいっぱいいる。そして女性の方が多いくらい?

何となく男性の方が多いと思っていたから、これは少し意外だ。けど入りやすくてありがたいとも言える。


私と同い年くらい──セーラー服を着た高校生もいる。


あの2人は友達同士で来たのかな?次に来る時は青葉を誘ってあの2人みたいに……。


「ん……?」


そのうちの1人がキョロキョロと見渡すと、こちらを見た。外ハネボブヘアの活発そうな少女だ。


その子は私を見ると、笑顔を浮かべながら向かってきた。


なんだ!?私を見つけるや否や……勘づかれた!?


怪盗と魔法少女、どっちでか分からないけど!


「ねぇあなた!」


「は、はい。」


ここで狼狽えたら不味い。平静を装い真意を確かめつつ、逃げる用意は常にしておく。


「ここのお店にはよく来るの?私たち、ここで会える同い年くらいの友達が欲しいなって思ってるんだけど、どうかな?」


「ここに来るのは初めてで素人です。なので……え?友達が欲しい?」


さっきまで友達と一緒に、みたいなことを考えていたせいでつい反応してしまった。


「あなたも来るの初めてなんだ!私もそうでね、やっぱりショッピングって誰かと一緒の方が楽しいと思うんだ。それで……。」


「く、玖麗!」


遠目に見ていたもう1人の少女……前髪が長めで右目にかかっている少女が早足で近寄ってきた。


「急に声かけても迷惑なだけだから!」


こっちの人はまともそう……と言ったら失礼だけど、少なくともグイグイくるタイプではなさそうだ。


それに、友達と来れたら……みたいに考えていたから、これはむしろチャンスかもしれない。趣味の話ができる友達が欲しいとちょっと思っていたところだ。断じて、伶に友達を作れと言われたからではない。


「あ、いえ、迷惑なんかじゃ……私も友達、欲しいと思ってたので。」


「本当!?」


外ハネボブの子は私の手を握ってブンブンと振る。


元気いっぱいで太陽みたいな子だ。一緒にいると疲れるかも……。


「私、玖麗!それで、こっちが陽咲。よろしくね。」


「夕桔、です……。」


「夕桔っていうのね。私たち高校2年生なんだけど夕桔は?」


「私も2年生……。」


「同い年なんだ!それじゃあ敬語なしで、タメでいこ?」


距離感が近くて困って陽咲という子の方を見てみると、そちらも困ったような表情を浮かべていた。


私の視線に気付いたのか、意を決した顔になり玖麗の肩を叩いた。


「夕桔さんが困ってるから、ほどほどに。」


そう言われると玖麗は「あっごめんね。」とあっさり私の手を離した。


悪い子じゃないのは確かなんだけど、私の交友関係にはいないタイプだから、ちょっと戸惑ってしまう。


「それじゃあ友達になった記念に何か……あ、ちょっとごめん。」


何か提案しかけた玖麗だったが、スマホを取り出して離れていく。耳に当てたから電話がきたみたいだ。


残された私たちは何をしていたらいいか分からず、何となく電話している玖麗の姿を見る。


あ、終わったみたい。


スマホをしまった玖麗は戻ってくると両手を合わせた。


「ごめんなさい!用事ができちゃたから帰るね!今度埋め合わせするから!本当にごめんね!」


「あ……。」


よほどの急用だったのか、それだけ言って私たちが何か言う前に帰ってしまった。


「……えーっと。」


残された私たちは気まずくなって相手の顔色を窺う。


「……これだから陽キャは。」


陽咲がボソッとそう言った。


そして溜め息と吐いて、ぎこちない笑みを浮かべた。


「えっと、夕桔さんは、何を買いにきたの?私は……ビタミンちゃんのグッズを見に来たんだけど……。」


え?ビタミンちゃん?


「私も!昨日、配信で言ってるの聞いて、買おうと思ったんだ。」


私の言葉を聞いて陽咲は嬉しそうな顔になった。


「そうなんだ!じゃあ一緒に見よう!」


「うん!」


陽咲にグッズが置いてあるところまで案内してもらい、色んな物を手に取って買うものを決めながら会話する。


ビタミンちゃんをどうやって知ったのか、どういうところが好きなのか、他のバーチャルタレントは知っているのか、とか色々話した。


私はビタミンちゃんしか知らないし、それ自体も知ったばかりの初心者みたいなものだが、陽咲は否定したり苦言を呈したりせず、私の言葉を肯定して共感してくれた。


楽しい!


趣味で繋がるとこんなにも楽しいものなのか。


「結構買ったね。夕桔さんお金あるんだね。」


アクリルスタンドにキーホルダー、缶バッジ……。


会話が弾んで楽しくて沢山買ったけど、ちょっと買い過ぎた?

こういう買い物は初めてだから、どんなものなのか分からない(1万円以内には収まった)。


陽咲はアクリルスタンドと缶バッジをいくつか買っただけだったから、もしかしたら私は豪遊してしまったのかもしれない。


「まぁ……普段、あまり使わないから。」


これは本当。怪盗で一気に稼ぐから、使おうと思えばもっと使えるけど。


「そうなんだ。私はお小遣い多いわけじゃないし、ゲームとか漫画とか買うから、常に金欠って感じ。」


お小遣い……。


大体の子はそうか。なんか、ちょっと羨ましい悩みかも。


「夕桔さん……?」


顔を覗き込んできた。


切れ長の目が少し怖い印象も与える、美人な顔立ちだ。


「あ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃった。」


「そう?ならいいんだけど……この後、空いてる?」


今日は怪盗の仕事はないし(あったらそもそも買い物にこないけど)、帰っても筋トレをするくらいしか予定はない。グッズを飾るのはいつでも出来る。花時丸ちゃんは私の帰りを待っていないし、そもそも起きているかも分からない。


「うん。空いてるよ。」


「そ、それなら……!」


勇気を振り絞るようにスマホの画面を見せてきた。


「ご飯、食べに行かない?このお店でバーチャルタレントのコラボがあって、ビタミンちゃんのはないんだけど、私、行ってみたくて!」


「……!うん!行く!」


陽咲の顔がパァっと明るくなった。


「ありがとう!私、友達とこういうコラボのところに行ってみたかったんだ!」


……そっか。この子も私と一緒なんだ。


「私も!行こう、陽咲!」

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