第13話:アニメショップ
『へいやっほー!あなたに癒しと潤いを!バーチャルタレントのビタミンちゃんこと椎名キンカンだよ!まず始めにお知らせです!前々からSNSで告知させていただいてたんだけど、明日から私の各種グッズが全国のアニメショップで販売されまーす!やったー!自分のグッズを出すことは夢の1つだったから、すっごく嬉しい!是非買ってみてね!報告待ってまーす!さてさて、告知は以上としまして……それでね、今日やっていくゲームなんだけど、最近はミステリー系にハマってるので──。』
「玖麗、みんなでどっかで遊ぼうって思ってるんだけどくるでしょ?」
そう声をかけられた外ハネボブの少女は明るい笑顔をクラスメイトに見せた。
「いいよ!どこ行く?あっそうだ!陽咲!一緒に行かない?」
クラスメイトに向けていた笑顔を窓際の席に座っている少女へと向けた。
それを聞いた瞬間、遊びに誘った少女とその友人たちは表情を僅かに強張らせた。
「えっ?六道さん誘うの?というか玖麗、仲良いの?」
その質問に少女は不思議そうな顔をした。
「うん。とは言っても、私がアピールばっかしてるって感じだけどね。それで、陽咲と何かあった?」
クラスメイトたちは顔を見合わせ、声のトーンを少し落とした。
「だってほら、六道さんっていつも1人だし、何考えてるか分かんないじゃん。それに家の人が怖いって噂もあるし……。」
「それはあくまで噂でしょ?そんな噂よりも私は、友達の陽咲のことを信じてる。それだけだよ。」
「それは……分かるけど……。」
その運動神経と明るさ、そしてルックスで人気者の玖麗がそう言うなら……とクラスメイトたちは思った。しかしそれでも素直に肯定できないのは、クラスで孤立している存在を、その人物に付いている噂への印象を簡単には変えられないためだ。
「まぁ簡単には……って気持ちも分かるよ。それで陽咲!どう?」
再び声をかけられた前髪が長く重めで右目に少しかかっているボブヘアの少女──陽咲はそっぽを向いた。窓ガラスに反射する顔には「その流れで誘う?」と書いてあった。
しかしその表情を読まない玖麗は空いている陽咲の前の席に腰掛け、にっこりと笑いかける。
「私、陽咲のこと、もっと知りたいって思ってるんだ。どうかな?」
「……八尋さんは……。」
「玖麗でいいって!」
「……玖麗は……いや、なんでもない。」
どうしてそんなに構おうとするの?
そう訊こうとして、それをここで口に出すのは失礼だと思い止めた。そして先程の問いに答えるために閉ざした口を再び開ける。
「……それでなんだけど、今日、用事あるから行かない。」
「そっかぁ。」
目の前で残念そうな顔を見せる玖麗に陽咲は内心、少しばかり驚いた。
この人、社交辞令とかじゃなくて、本気なんだ。
珍しい、陽咲はそう思った。
「ね、その用事ってついていったらダメなヤツ?」
「えっ?駄目とかじゃないけど……。」
急な質問だったので咄嗟にそう返してしまったが、言ってから「しまった。」と思った。
「だったらさ!私も一緒に行っていいかな?」
ほら、やっぱり。そりゃあこう言われるよね。
「……いいよ。」
この流れで断るのも……と思いながら返事をする。でも、クラスメイトたちがついてくるって拷問みたいな感じだよ。
「ありがと!それじゃみんな!今日は陽咲と2人で遊ぶからごめん!」
これまた意外だった。
てっきり全員一緒に、なんて言い出すかと思ってた。
先に声をかけてきたクラスメイトたちも「いいよー。」「また今度ね。」なんて言いながらあっさりと引き下がっていった。
これは恐らく、人気者の八尋玖麗と一緒に過ごすことよりも、得体の知れない六道陽咲と過ごすことの方が負担が大きい。そう判断したに違いない。
教室を出ていく友達の背中を見送ってから、玖麗は立ち上がった。
「陽咲、私たちも行こ?」
「……うん。」
気を遣ったのかな。双方に。
「あっそうだ。私、部室に寄っていくんだけどいい?」
「もちろんいいよ!……ってあれ?陽咲って何部だっけ?」
「漫画研究部。」
「へぇ~そんな部、あったんだ。」
まぁ興味ない人間からしてみれば、存在すら知らないでしょうね。
心の中で毒を吐きながら歩みを進め、廊下の端にある空き教室を使った部室へ到着した。
「少し待ってて。」
そう言い残して陽咲は「おつかれさまでーす。」と言いながら部室へと入っていった。
残された玖麗は壁に寄りかかりながら考える。
漫画研究部ってどんなことやってるんだろ?
漫画の研究って何?色んなのを読むとか?でもそれじゃ部活じゃないよね。
書いてるとか?天滅みたいの!
※天滅……天狗滅刃の略称。子供から老人までハマる大ブームを引き起こしたアニメ。及びその原作漫画。
……気になる。
玖麗は部室の壁に耳を当てた。
「おお、六道さん!待ってましたぞ!」
漫画を読んだりゲームしていた部員たちは顔を上げて陽咲を歓迎した。
「はい、借りてたラノベ。『殺戮の不死鳥』と『嗚呼、神よ。』、それと『滅星の紅茶とシフォンケーキ』。どれも面白かったよ。」
「それは良かった!2巻も持ってきてるから、よければ是非!」
「いいの?」
「もちろん!」
1年前の春、男だけの部に突如オタク文化を知りたいと言って入部してきた美少女。
そんな彼女に尽くせるだけ尽くそうと誓い合った部員たち。コレクションを貸し出すだけで彼女の為になるのなら、そんなものは苦でも何でもないのだ。
「じゃあ、借りてくね。中間テストも終わったし、早めに読めると思うから、来週か再来週には返すね。」
そんな彼らの思いを知らぬ陽咲は「皆、親切だなぁ。」くらいにしか思っていない。
先輩なのに敬語を使わなくていいって言ってくれたし、この距離感がやっぱりオタクらしさってことかな?
女子と敬語抜きでフランクな感じで話したい、そんな彼らの思いも知る由はない。
「そ、それで六道さん!良かったらなんだけど、今日からバーチャルタレントのビタミンちゃんのグッズが売ってるから、それを皆でって思ってるんだけど、どう?」
「それなら……あー……。」
ちょうど買いに行こうと思ってた。
そう言おうとして、廊下に待たせている八尋さん……じゃない。玖麗の存在を思い出した。
部員じゃないクラスの女子が一緒って気まずいよね。そもそも玖麗がこういうのに興味があるかどうか……いや、ないな。陽キャがオタクグッズに関心を持つはずがない。
「六道さん……?」
黙り込んだ陽咲を心配するように、そして期待するように部員たちは声をかける。
頼む……!一緒に行くと言ってくれ……!
大丈夫だ……!今日の俺の朝の占いは1位だ……!大丈夫なはずだ……!
もし断られたら今日はゲームで利敵行為するか……。
そんな祈りとも言える心の声が浮かぶ中、陽咲は口を開いた。
「ごめん。クラスの子と行く予定になったから。」
「そ、そっか……じゃあ……仕方ないね……。」
あからさまに落胆している部員たちに申し訳ないと思いつつ、鞄を持ち直した。
「それじゃ、そういうことなので……失礼しまーす。」
「お、おつかれー……。」
陽咲が扉を開けると、壁に耳を当てる玖麗の姿が目に映った。
「……なにやってるの?」
「あ!これはその……壁の声が気になって?」
「職人の魂的な?」
「そ、それよりさ!どういうこと話してたの?」
露骨に話題を変えたな。
「どういうって……借りてたラノベを返しただけだよ。」
階段を下り、昇降口へと向かう。
「ラノベってなに?」
あぁ、そこからになるか。
「ライトノベルっていう……オタクが読むもの。まぁ私も読み始めたのは最近なんだけどね。」
「へぇ~そういう本があるんだ。なんでライトノベルっていうの?」
「それは……。」
なんでだ?
「……純文学に比べると読みやすいから?」
「なるほど……漫画寄りってことね。」
納得してくれたみたい。
「それで今日の用事っていうのは、そのラノベを買いにいくの?」
「ううん。えっと、グッズを買いに。」
「グッズ?アニメとかの?」
バーチャルタレントのって言っても伝わらなさそう。
「大体そんな感じ。」
駅に着くと定期を使って改札を通る。
というかこの子、電車に乗るのに何の疑問も持たずにきてくれるな。
IC カードを使うのが見えた。通学定期と違ってお金がかかるのに。目的地も分からないのに、当然といった風についてきてくれる。
「どこに買いに行くの?」
「隣町のアニメショップ。おっきいところがあって、そこには大体何でもあるから。」
「漫画も売ってるの?」
「うん。というか玖麗、マンガとか読むんだ。」
なんか意外。そういうの、全然興味ないものだと思ってた。
ラノベのこととか色々聞いてくるのは、間を持たせるためじゃなくて本当に興味があるからってこと?
「うん!天滅読んだし映画も観た!陽咲は?」
「まぁそりゃあ……。」
凄い話題になってたから。
「映画面白かったよねぇ!最後のシーンとか泣いちゃって……。」
「あー……うん。」
あれだ。ネットでよく見る陽キャの感想だ。でも冷笑されるよりはいいか。
それから映画の話をして、電車を降りて歩くこと数分、大型ショッピングモールに到着した。
「あれ?ここなら私も来たことあるよ?」
「ここの5階に店舗がある。用がなければ、そもそもその階に寄らないからでしょ。」
「そういうことかぁ……。」
エレベーターに乗ろうと思ったけど、待ち時間が長そうだからエスカレーターを使って目的のフロアへ向かう。
その移動中、陽咲は指を折って考える。
えっと……ビタミンちゃんのグッズは一通り買って、ラノベは続きを借りられたから買わなくてよくて……そうだ。他のバーチャルタレントさんのグッズも見なきゃ。マンガの新刊もチェックしてゲームは……ここで見なくてもいいか。
「ここ?初めて来たけど、広くて凄いね!」
「結構広い店舗だから……。それで玖麗はどうするの?」
「え?勿論、陽咲の買い物に付き合うよ?」
そうか。一緒に回るのか。一時解散して各自買い物が終わったら合流するものだと思ってた。
「えっと、それじゃあ一緒にいこっか。」
入り口で買い物かごを取って、目的のエリアへと直行する。初めの頃は場所が分からなくて彷徨ったものだけど、慣れたものだ。
「学生のお客さんが多いんだね。」
「まぁ社会人はこの時間は少ないでしょ……これも買わないと……。」
半分聞き流しながら会話をして、陽咲はかごにどんどん商品を入れていく。
「ここで会う友達とかいるの?」
「いや、いるわけないでしょ……買い物に来てるだけなんだから。」
「そうなの?いた方が楽しいでしょ?」
「そりゃあそうだけど……。」
いきなり知らない人に声をかけるのは無理がある。
「ほら!今こっちに来る人!私たちと同い年くらいだと思うよ。ちょっと声かけてみるね!」
「そんな急に……えっ!?声かける!?」
陽咲が驚いて顔を上げた時には、既に玖麗が行動に移した後だった。




