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怪盗×魔法少女  作者: 金屋周
第1章 バード・ファミリー
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第11話:第二部

控室に戻ると、みんな揃っていた。


レオとジャックは珠羅にタオルや飲み物を渡していて、海遥と伶と紗世さんの3人は会場のマップを広げて話し合っていた。


部屋に入ってきた私を見るなり、海遥は睨むように見てきた。


「遅かったじゃない。それに途中、連絡もつかなかった。どこで何してたわけ?」


「会場の端の方まで行ってたから。そこにいた怪しいって言ってた人は白だったよ。」


魔法少女のことは言えない。


ここにいるメンバーは皆、裏社会の人間だ。その中に正義の象徴とも言える魔法少女が紛れてます。なんてことが発覚したら、信頼を失う……だけでは済まないだろう。


「それより、殺し屋は?まだ何も掴めてない?」


「……そうね。情報は何も入ってこないわね。」


海遥は俯いて左手で顎を摘まむ。


その考える仕草が妙に様になっている。


「バード・ファミリーの配下含め、これだけ人員を割いて何も掴めないのだから、会場の敷地内にはいない可能性が高いわね。」


「そうなると……外からの狙撃か?」


レオの言葉に海遥は頷く。


「そちらを警戒するわよ。【イーグル】と【バーディ】は部下たちと一緒に狙撃スポットに向かってちょうだい。確か伶が怪しいところに警備を配置してたわよね?」


「うん。お2人に地図を渡します。これを使ってください。」


「私たちは?」


ほぼ全員、外に行くっぽい感じだけど私や伶、紗世さんはどうすればいいんだろう?


「ちゃんと役割があるわよ。どれだけ警戒しても、100%防げることなんてない。だったら、狙撃の難易度自体を上げてやれば良いのよ。」


「どういうこと?」と言おうとしたらビシッと指を差された。


「ステージに3人いたら、単純計算で難易度も3倍!というわけで夕桔!それと【蜻蛉】!あなたたち2人でバックダンサーをやりなさい!」


急に頭悪そうなこと言い出した……!


というかバックダンサーって、珠羅と一緒に踊れってことで……。


「先輩たちと一緒にダンスできるんですか!?」


珠羅は目を輝かせてるけど……。


「ムリ無理!私、怪盗だよ!?人前に立つなんて無理!」


学校で目立たないようにしてきたっていうのに、こんな世界的にも注目されているようなところに立つなんて、今後の仕事に支障が出るなんてレベルじゃない。


……学校と言えば、誰かこの会場に来てるじゃん!名前忘れたけど、私を誘いにきた人!


断ったのはステージに立つからです。という意味に捉えられかねない。というか、そうとしか思われない。


「当然、変装はしてもらうわ。素顔で表に出るのはデメリットしかないでしょ?」


そういう問題じゃない。いや、それもあるんだけどさ。


と、ここで今まで静観していた紗世さんが口を開いた。


「いいかな?バックダンサーってことは、変に目立っちゃ駄目なんだろう?なら、私じゃなくて海遥ちゃんが夕桔ちゃんと一緒に出た方が良いんじゃないかい?2人の体格似てるしね。」


「確かに。」と伶と珠羅が頷く。


私たちの視線が海遥へと集まる。


「いや私は……。」


「やれって言っといて自分はやりたくないってのはどうなの?」


「偉そうに言っているけれど、あんたも出ることに変わりはないからね?」


海遥が負けじとジト目を返してくる。

けれど、すぐに溜め息を吐いて頷いた。


「……悩んでる時間はないわね。やるわよ。」


人差し指を立てる。


「まずは振付。ミラ、映像とかある?」


「ありますけど……さっきは喜んじゃいましたけど、どうするんですか?あと10分くらいしかないですよ?」


「当然、覚えるだけよ。いいわね?」


海遥が視線を送ってくる。


それを受けて私は頷く。


「うん。任せて。」


学校の勉強は好きじゃないけど、こういう身体の動かし方・使い方みたいなのは覚えやすい。


「続いて──。」


中指を伸ばす。


「──衣装。バックダンサーだから、似たような雰囲気の物が良いわよね。」


「次からはクール系のを踊る予定です。リョウ先輩、イイのありますか?」


「黒のスーツがあったはず。同志【蜻蛉】、お願いします。」


伶の言葉を受けて「あいよ。」と返事をして紗世さんは衣装を取りに行った。


「動画ありましたよ!私がココでダンスしてもいいですけど、ドッチがいいですか?」


生の踊りか映像か……どっちでも良い気がする。


海遥も同じことを思ったのか、考える素振りも見せずに「映像で。」と答えた。


「じゃあ、コレです。」


珠羅がスマホを私たちに見せてくる。その時、紗世さんが戻ってきた。


「お待たせ。バックダンサーはプランになかったから、サイズは保証できないよ?」


確かに、珠羅の身長は私より10㎝くらい低い。用意されている衣装は全て珠羅用のものだし、そこは仕方ないか。


「時間ないから、着替えながら振付覚えるわよ。それと……。」


海遥は真剣な顔つきで伶と紗世さんを見つめ、薬指を立てる。


「3つ目。頼んだわよ。」


その言葉と意図が私にはよく分からなかったけれど、2人には通じたようでしっかりと頷いていた。


それから。


珠羅も着替えて準備する必要があるので、バタバタと時間が過ぎていった。


「丈はちょっと短いけれど、意外と大丈夫ね。」


着替え終わりスーツ姿になった海遥がそう言った。


「えっ?キツくないの?胸のあたりとか……。」


私はシャツを引っ張って、無理やり気味にボタンを留める。壊しそうでちょっと心配だ。


「あ?」


「なんでもないです。」


イラつきと怒りの目が睨んできたので思わず謝る。怖い。


黒いサングラスをかけて髪をポニーテールに結い、これで準備完了だ。


「そろそろお時間です。」


ちょうどそのタイミングでスタッフの人が珠羅を呼びにきた。


「はーい。それじゃあユキ先輩、ミハル先輩。いきましょう!」


意気揚々と歩く珠羅の後ろをついていく。


不安だ。


ダンスすること自体は平気だ。振付は覚えた。ただ、大観衆の目に晒されることが不安だ。


そんな私の感情を汲み取ったのか、海遥が声をかけてきた。


「大丈夫よ。客はミラを見に来ているもの。私たちに興味を示すことはまずないわ。」


「……うん。そうだね。」


海遥がこういうことを言ってくれるのは珍しい。いつも周りの人間はみんな敵!私が偉い!という高慢な態度なのに。


「失礼なこと、考えてるでしょ?」


「……いや。別に。」


こういう勘は本当に鋭いと思う。


「さぁいきますよ!ミュージックが流れたら出てきてください!」


そう言って珠羅は駆け出してステージへと上がっていった。


「みなさーん!お待たせしましたー!盛り上がっていきましょー!」


珠羅が喋っている間に音楽が流れ始めた。


早い!


そう思ったけど、狙撃の可能性を考えると独りでいる時間は極力減らした方が良いのか。

それにしても急だけど。心の準備がそんなに出来てない。


「いくわよ。」と言って海遥はステージへと出ていってしまった。凄い強心臓だ。


続かないわけにもいかないので、どうとでもなれ!と思いながら海遥に続いてステージに上がる。


そこから見える景色は思っていたよりも広かった。


自分が立っているところも客席側から見るよりも広いけれど、客席がとにかく広い。

そこが満員になっている。そして観客の顔がよく見える。


この舞台に独りで立って、この数の人間を前にして独りでパフォーマンスしていたのか。

改めて、ミラ・ホーキングの凄さが伝わってくる。


だけど、いつまでもこの状況・景色に心を動かされているわけにはいかない。


音楽はもう流れている。


3・2・1……今!


タイミングを合わせ、ステップを踏んでダンスを始める。前に立つ珠羅も隣に立つ海遥も同じタイミングで同じ動きだ。


ダンスが始まると、不思議と気持ちが落ち着いてきた気がする。


きっと独りじゃないからだ。


それにたとえ振付を忘れてしまっても、すぐ近くにお手本がある。海遥と同じ動きをすればいいわけだ。そう考えると、思ったよりもプレッシャーは少ない。


落ち着いたことで、ダンスしながらでも客席がよく見える。


皆、目を輝かせて珠羅を見ている。


そう。皆だ。まだ一部しか見れていないけど、私が見た範囲はそうだ。

この中のどこかに、違う表情をした人物がいるはず。きっとそれが殺し屋だ。


サングラスで隠した視線を動かして探すも見つからない。


1曲目が終わる。そして間髪入れずに次の曲が流れ始める。


──いない。


遠くの方は見えづらいけど、少なくとも不穏な動きはしていないと思う。

つまり、海遥の読み通り、この会場内にはいない?


もしそうだとすれば、この部が終わるまで踊っているだけで良いから気が楽だ。勿論、油断は出来ないけど。


横をチラリと見ると、海遥のダンスはキレが凄い。多分、私よりも動きが良い。

けれど頬が若干赤い。それに汗が私よりも多い。


今日が暑いとはいえ、外に出たばかりでそうなる?


と思ったけれど、そういえば海遥って体力なかったな。運動神経は良いだろうに、体力ないのが勿体ない。





──キツい。苦しい。


海遥の頭にそんな言葉がどんどん浮かんでくる。


止まりたい。休みたい。汗が流れる感覚が不快だ。


けれどダンスのクオリティは下げない。


自分の体力のなさを言い訳にしてはならない。


夕桔がチラリと見てきた気がする。


無視する。その視線が哀れみか同情か、それとも蔑んでいるのか。いずれにせよ、どうでもいい。


私のやることはただ一つ。


このイベントを成功させることだ。


成功とは、ただ暗殺やテロを阻止することではない。今までのミラ・ホーキングのイベントと同様に、客を満足させる必要がある。


パフォーマンスの質はそのままに、外的要因を全て排除することで初めて成功と言える。


その成功を得るためには、私の苦しみなんて些細な要因だ。





──海遥の動きが良くなった。


疲れた様子が若干あったが、持ち直した。いや、それ以上な気がする。キレがある。


それに気づいて、思わず口角が上がってしまう。


そうだよ。海遥ってツンツンしていることが多いけど、根は真面目でいつだって真剣に取り組める真摯さがあるんだ。


可愛いし、きっと裏社会に入らなければアイドルになれていたと思う。 

いや性格的には厳しいか?


海遥がこっちを見た気がする。


きっと、馬鹿なこと考えてないで真面目にやりなさい、みたいに思っているんだろうな。


けど、今、この感覚──。


──楽しい!





「盛り上がってるねぇ……。」


ステージの裏で椅子に腰かけて、音楽と歓声を聞きながら紗世はそう呟いた。


外に行った部隊からは連絡はない。つまり、まだ何も手掛かりがないということだ。


伶ちゃんはステージが始まると同時に移動した。今、ここにいるのは私だけだ。


「あ、お疲れ様です。」


そこに1人のスタッフがやってきた。ドリンクやらタオルやら持っている。あと数曲で第二部の演目が終わるから、それの準備だろう。


「……。」


さて、会場の音を聞いて和む時間は終わりのようだね。


ゆっくりと立ち上がり、スタッフの方に近づく。


裏方が忙しくなるのはこれからだ。


シャツを捲り、背中側のベルトに挟んでいた物を取り出す。


「動くな。そこまでだ。【ウミネコ】。」

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