表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

第九話 小旅行

「旅行に行きたい!」


桜瀬咲(さくらせさき)は突然こう言った。

最近、彼女のうつ症状も回復してきたのか、とても元気である。僕も彼女と旅行に行きたいと思った。しかし、卒業研究(そつぎょうけんきゅう)最終発表(さいしゅうはっぴょう)は二ヶ月後に迫っており、バイトの都合もあったので、一日だけ、下関(しものせき)まで小旅行に行くことにした。



日帰りということもあり、日曜日の朝八時に待ち合わせをした。少し遅れてきた彼女は少し眠そうだった。

そして、僕たちは角張った青い車体の特急ソニックへと乗った。


それから一度乗り換えをした後、しばらくすると

「まもなく終点の下関(しものせき)です」

とアナウンスが流れた。



下関しものせき駅の小さな改札を抜けると、大量のふぐの提灯(ちょうちん)が僕たちを歓迎した。それを見るなり

「かわいい~」

と彼女は目を輝かせていた。さっきまで眠そうだったが、目が覚めたらしい。

僕たちは駅からバスに乗って、唐戸市場(からといちば)へと向かった。


朝早く出たつもりだったが、唐戸市場(からといちば)に着いた頃には昼も近づいていたので、昼ごはんとすることになった。休日の唐戸市場(からといちば)はとても(にぎ)わっていた。


市場には大量の寿司が並んでいた。普段から一人で回転寿司に行くほど寿司が大好きな彼女は

「えー、すごい!」

と言って、僕の手を引いて、人混みの中をすり抜けていった。


いくつかの店を回ったところで、百円のマグロと二百円の甘エビとタコ、五百円の大トロをプラスチックの容器に入れてもらった。僕たちはそのまま、近くの海が見える場所へ行った。少し寒いが良い場所だ。そして、僕たちは赤いレンガに座った。

「んーー!おいしい!」

彼女が言う。確かに、普段食べている寿司とは一味違う気がした。

「おいしいね」

と僕は言う。海の向こうに見える九州(きゅうしゅう)の街は、近いようで少し遠くに見えた。


寿司を食べ終わると、近くの水族館へと行った。最初に見えた、関門海峡(かんもんかいきょう)潮流(ちょうりゅう)を再現した水槽は面白かった。しかし、桜瀬(さくらせ)さんはあまり興味はなさそうだった。こうゆうのは女の子はあまり好きではないらしい。

三階へ下りると、フグがたくさんいた。この水族館はフグの展示数が世界一位らしい。巨大なものから、小魚のようなものまで展示されていた。こんなにたくさんの種類のフグがいることは知らなかったので、僕は熱心に見ていると

「かわいいね」

と彼女に言われた。

「僕はかわいくないよ」

と言うと

「この小さいフグくらいかわいい」

と言われた。それだと俺相当かわいいじゃんと思った。


しばらく進むと、ペンギンたちが歩いていた。その歩き方は、のんびりと歩くときの桜瀬(さくらせ)さんと似ている。そんな彼女は

「かわいい~」

と言って写真を撮っている。そんな彼女が一番可愛かった。


階段を下りると、水中トンネルがあり、そこからペンギンたちが泳いでいる姿を見ることが出来た。その姿は(いさ)ましかった。彼女は

「ペンギンって、高橋(たかはし)くんみたいだね」

と言ってきた。

「どこがだよ」

と言うと

「普段はかわいいけど、たまにカッコいいところが同じ」

そう答えた。僕は少し恥ずかしかった。


水族館を出る頃、日は少し低い位置にあった。僕たちは近くのゆめタワーまで歩いた。下関ではデートの定番スポットらしい。僕たちは六百円を支払い、エレベーターに乗った。


最上階へ行くと、そこには下関(しものせき)と海、そして門司(もじ)の街並みが見えた。その二つの街を結ぶ白い関門橋(かんもんきょう)はとても小さかった。地図で見ると本州と九州は何キロも離れて見えるのだが、実際に見てみると、すごく近かった。


僕たちは海の向こうに沈む夕日を眺めていた。

「今日はありがとう」

そう言われたので

「僕も桜瀬(さくらせ)さんと来られて良かった」

と行った。すると

「そろそろ名前で呼んで」

と言われた。僕は困ったが

「じゃあ、(さき)?」

と言った。すると、満足げな表情を浮かべ

伸一(しんいち)

と言った。僕は叫びたくなるほど嬉しかった。


帰りも下関しものせき駅から電車で帰る。大量のフグの提灯(ちょうちん)がまた来てねと言っているように見えた。

観光客で賑わう改札を、二人手を繋いで通っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ