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最終話 君と見上げた夜空

 ――――― 社会人になって三年が経った。日曜日の朝、春の香りが漂う中、僕は朝ごはんを食べる。僕は部屋を出てキッチンへと向かった。(さき)はまだ寝ているようで、部屋は静かだ。僕たちは一昨年の秋から一緒に暮らし始め、昨年の秋に結婚した。最初は(さき)のご両親も反対していたのだが、僕がうつ病の経験があると聞くと、すんなりと結婚を受け入れてくれた。それでも、僕は環境が変わることでうつ病が再発する可能性もあり、二人が結婚することにはリスクもあるので、一年間、二人で暮らした後に結婚をした。双極性(そうきょくせい)障害(しょうがい)である(さき)は、一人の時間が必要なので、洋室が二部屋ある2LDKのアパートにした。


僕はみそ汁を温めて、食べる。やっぱり朝はパンよりみそ汁とご飯のほうが良い。食事が終わると、歯磨き等を済ませてのんびりとしていた。


しばらくすると、(さき)が起きてきた。

「おはよう」

「うん、おはよう」

(さき)は最近回復傾向で、ここ一週間は元気のようだ。

「今日暇だけど、どこか行く?」

僕が聞くと、

「うん!」

と答えた。

「病院に行ってからどこか行こうか」

「やったー!」

そう言うと、ご飯を早々と食べ始める。


支度が済むと、僕たちは家を出た。病院までは徒歩五分。うつ状態のときでも通いやすいよう、アパートは病院の近くにした。


「今日どこ行こうか」

大川内山(おおかわちやま)に行ってみたい!」


大川内山(おおかわちやま)という場所は、古くから陶磁器(とうじき)で栄えた町であり、今もその頃の町並みを色濃く残している。

そんな話をしていると、病院へ到着した。


僕は病院の待合室で待っていた。心地よいオルゴールを懐かしく思った。(さき)から来て欲しいと言われたときには、診察に着いていくが、今日は特に何も言われなかったのでここに座っている。


薬を受け取り、僕たちは病院を出た。(さき)の足取りは、先週までははずっしりとしていたが、今日はぴょこぴょこしている。もうすっかり元気になったようだ。薬も今日は変わったようで、(そう)状態を抑える薬と説明を受けた。


コンビニでメロンパンを買うと、バス停へ向かった。

「あっ、あのバスじゃない?」

「ホントだ!走ろう!!」


そう言って、大川内山(おおかわちやま)方面へのバスへと乗り込んだ。

バスには三人ほど乗っていたので、隅のほうへと座り、少し遅めの昼ごはんを食べた。


「次は大川内山(おおかわちやま)です」


そう流れると僕はバスのボタンを押す。そして、財布から二人分の運賃(うんちん)三四〇円を取り出す。バスが止まると、座席から立ち、運転手のところへ行く。ありがとうございますと言いながら運賃箱へお金を入れた。


バス停を降りると、市街地にいたときには遠くに見えていた山が、すぐ近くに見えた。

少し歩くと、大きな(つぼ)が乗っている橋が見える。鍋島藩窯橋(なべしまはんようばし)だ。僕は伊万里(いまり)で育ったこともあり、この白磁(はくじ)の壺が乗った陶磁器の橋を珍しいとは思わないが、(さき)にとっては珍しいらしく、スマホを取り出しては写真を撮っている。

「焼きものの橋だ~!すごい!!」

そう言って眺めていた。


更に先へと進んでいく。僕は高校時代、この辺りに友人がいたこともあり、何度も通っているので何とも思わなかった景色も、こうやって(さき)と歩いていると、町並みの素晴らしさに気付かされる。(さき)は、(かわら)屋根の建物一つにしても、目を輝かせながら眺めていた。


珍しいものを見つけては眺め、写真を撮る(さき)と歩いていると、いつの間にか暗くなってきて、お腹も空いたのでご飯を食べることにした。大川内山(おおかわちやま)で有名なカフェがあるらしいので、そこに行くことにした。カフェなんてあったっけと思っていたが、どうやら裏道にあるらしく、細い道の先に手作りの看板が立っていた。


中へ入ると、いらっしゃいませ~と迎えられた。そして、優しそうなお兄さんがメニューを渡す。普段カフェに行かないような僕は、聞いたこともないような洋食が書かれていた。しばらく二人でメニューを眺めた後、ミートローフとアイスコーヒーを注文した。



「おいしいね~」

「うん、おいしい」


独特の食感をした肉と、サクッとしたパンか美味しい。


「ねぇ、私と結婚してどう?」

「そりゃもう幸せの毎日だよ」

「本当に?」

「本当だよ。心の支えになっているよ」


これから先、普通の家族にはない苦労もたくさんあるだろう。でも、それさえも、この人のためなら乗り越えたい。そう思った。


「それなら良かった」

(さき)は僕と結婚して良かった?」


僕がそう聞くと、(さき)は頬を赤らめて笑っていた。



「ありがとうございました!」


明るいお兄さんがそう言い、カフェから出ると、すっかり暗くなっていた。

「そろそろ帰るか~」

僕はそう言い、バスの時間を調べようとスマホを取り出した。すると

「ほら見て!星!!」

(さき)がそう言い、僕も空を見る。


町の灯りが少ない晴れの日の大川内山(おおかわちやま)の夜空。



そこには春の大三角を中心とした星座が広がっていた。



「きれいだね~!」

「うん、きれい…」




そう言って二人で見上げた夜空は、満点の星空だった。

20話に渡る「君と見上げた夜空」シリーズを最後まで読んでいただきありがとうございました。この小説を書こうと思ったきっかけですが、僕の知人に双極性障害の方がいまして、この病気をもっと広く理解されたらいいなと思ったのが始まりでした。その後私は、双極性障害についてネットや本で勉強し、この作品を書きました。本作に、「理解しているつもりで理解できていなかった」とありますが、私がこの作品を書くために本を読んだ際に、知人の病気について理解しているつもりで理解できていなかったと思ったことが元になっています。私もまだまだ理解の足りていない部分もあるかもしれませんが、この作品が誰かの心に残るものになっていただければ幸いです。そして、この双極性障害や他の精神疾患への理解が少しでも広まればなと思っています。最後までご愛読いただきありがとうございました。また時間があるときになにか書こうと思っているので、そのときはまたよろしくお願いします。

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