第十九話 メッセージ
七月になり、雨も降らない日々がしばらく続いていた。僕はいつも通り朝七時に起きる。そして、スマホの通知を見る。メッセージは何も来ていない。咲が元気になることを願い、布団から出る。
食パンを取り出してオーブンに入れる。そして、手元も見ずにダイヤルを三分の場所まで回す。その間に作業服へ着替える。
スマホをイジりながらパンを食べ終わると、洗面台へと向かう。寝癖を直しながら歯を磨く。これが意外と難しい。
顔を洗い終わると、リュックを背負って家を出る。
会社までは徒歩十分くらいだ。途中のコンビニで弁当を買い、会社の門を抜ける。そして、工場を通り、設計室へと向かう。扉を開けると
「おはよう」
と言われたので
「おはようございます」
と返す。
僕は自分のパソコンへ向かい、引出しからマンガ本を取り出す。そして、始業時間まで読んでいる。その間、人がやってきては、おはようございますと返す。
始業のチャイムが鳴ると、パソコンに目を向ける。僕は2DCADのソフトを開き、図を作る。そして、寸法を付けていく。午前の仕事は、この繰り返しだ。
昼になると、コンビニの弁当を取り出す。そして、パソコンデスクの上で開ける。そして、隣の中尾さんと話しながら食べる。
「会社にも馴れてきたな」
「そうですね。中尾さんのお陰ですね」
そう言うと、中尾さんは嬉しそうに笑った。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、再びパソコンに向かう。午後からは3DCADを使用する。それなりのスペックが必要なこのソフトは、起動に少し時間が掛かる。僕は起動中の画面をボーっと見ながらしばらく待つ。
今回は、ラックアンドピニオンと呼ばれる、回転する歯車から直線への運動に変える動作を、シミュレーションする作業だ。DVDプレーヤーのトレーが開くときの動作と同じである。但し、大きさが桁違いであり、ものすごく大きい力が働くので、事前にシミュレーションして、負荷等を見なければいけない。
僕は、その歯車を、パソコンの画面に作っていく。これをやっていると、少しずつ時間が経ってゆく。
終業のチャイムが鳴り、僕は保存していることを確認すると、パソコンを閉じる。スマホを見てみると、一件の通知が来ていた。
「桜瀬咲、大復活しました!」
卒業式以来の連絡だった。嬉しかった。今すぐにでも会いたい。そう思った。そして、涙をこらえながら
「高橋伸一、迎えに行きます!」
と、メッセージを送った。
次回、最終話です。




